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マグノリア王国サイドストーリー  作者: 麻生あきら
宵の明星

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1/5

01 合焦

挿絵(By みてみん)

『Paint the Sky』の番外編です。

 彼は眩かった。

 喧騒の中の彼は一際目を引いた。


 明るい金の髪。

 光の加減で変わる暁色の瞳。


 ただ頬杖をついて本を読んでいる。

 それだけなのに、自然と彼に焦点が定まる。


 彼を遠巻きに見ては囁き合う女の子達。

 やっかみと憧れの混じった視線を送る男達。

 彼の優秀さを語り合う教師達。


 誰もが彼との繋がりを欲していた。


 時々本から顔を上げては周りを見渡す。

 自嘲とも言えるような顔。


 何だか妙に気になった。

 声を、聞いてみたくなった。




「僕はミシェール・ギルランド。前に座ってもいいかな?」


 好奇心が揺らぐ瞳が僕に定まった。

 案外押せばいけそうな気がする。


 ひとまずまだ閉じられていない本を話題にしてみよう。

 ちらりと見える内容は、何とも不思議なものだ。

 占星術⋯⋯?


 いや、待て。

 名前を聞かないと。


「ジェームズ・ジョンソン。明日の朝に起きたらきっと忘れてる名前だよ」


 変な答えが返ってきた。

 自分の名前がよっぽど嫌いなようだ。

 確かに風貌に似合わない、いかにもどこにでもいる名前だよね。


「ふふ、そうかい? 逆に覚えやすくていいじゃないか。⋯⋯占星術の本? 占いやるの? 今時紙の本なんて重いし珍しい。図書館で借りたの?」


「占いはやらない、ここに来てから図書館の奥、左上から順番に読んでる」

 彼はこともなげに言った。




 静かな場所が苦手。

 女の子に興味がない。

 自分は育ちが悪い。


 そう、自嘲気味に話す。


 不思議な存在。

 話せばきっと面白そうな気がする。

 もっとみんなと触れ合って欲しいと思った。


「どっちでも」

 曖昧な答え。

 でも、彼の許可を得たって事でいいか。


「さあ! みんな! 王子の許可が下りたよ! 謁見したければ寄りたまえ!」


 両手を広げて宣言した。




 してやったりだ。

 ほらね、彼は本当は明るくて、話が上手い。

 次から次へと人が押し寄せた。


 僕も彼の素晴らしさを広めた。

 頭が良くて、機転が利く。

 積み重ねた知識を惜しげもなく披露する。




 でも少しばかり気になる所はあった。


 彼は人を愛せない。

 愛し方を知らなかった。


 それでも彼は人と関わり合うのをやめなかった。

 数多の情報を欲しがった。


 彼は人間すら情報だと思ってる。

 そういう意味で人が好きだった。




「あんたの所で働かせてくれない?」


 ああ、この上ない喜び。

 僕を頼ってくれるなんて!

 声をかけて良かった。

 至上の喜悦。


 彼はビジネス・スクールに行きたいと言う。

 二年間外部で実績を積まねばならない。




 実は一度、彼の素性を調べた事がある。

 この時だ。


 一も二も無く引き受けたかった。

 だが、実家のアパレル商社を紹介するには、必要な事だった。


 彼の母親は幼い頃に出奔していた。

 探し出し、話を聞いた。


 一人、暗い家で暮らしていた。

 頑なに彼と会う事を拒まれ、居場所を教えてくれるなと哀願された。


「二度と会いたくない。私は死んだと伝えてください」


 扉を締めた後、悲鳴が聞こえた。


 心にしまって、父に紹介した。

 父も彼に魅了された。




 難なく彼は経営修士学を修めた。

 父が最初のパトロン。


 次から次へと拡げる事業。

 膨れ上がる資産。

 同時に消える資産。


 失敗しても気にしない。

 パトロンは切れないのだから。


 彼の魅力と、ずば抜けた感覚。

 誰もが彼に囚われていった。




 幼馴染のステファン・バーレイ。

 どうしても会ってみたいと懇願された。

 研究に彼の力が必要だ、と。


 彼の一番の側近。

 それが僕。

 悪い気はしない。




 ああ、会わせなければ良かった。

 彼をステファンに奪われた。


 ステファンの夢を叶えたい。

 目を輝かせてる。

 僕にはそんな目をしてくれた事はなかった。 


 それでも、彼は美しかった。


 そう、僕にとっては。

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