01 合焦
彼は眩かった。
喧騒の中の彼は一際目を引いた。
明るい金の髪。
光の加減で変わる暁色の瞳。
ただ頬杖をついて本を読んでいる。
それだけなのに、自然と彼に焦点が定まる。
彼を遠巻きに見ては囁き合う女の子達。
やっかみと憧れの混じった視線を送る男達。
彼の優秀さを語り合う教師達。
誰もが彼との繋がりを欲していた。
時々本から顔を上げては周りを見渡す。
自嘲とも言えるような顔。
何だか妙に気になった。
声を、聞いてみたくなった。
「僕はミシェール・ギルランド。前に座ってもいいかな?」
好奇心が揺らぐ瞳が僕に定まった。
案外押せばいけそうな気がする。
ひとまずまだ閉じられていない本を話題にしてみよう。
ちらりと見える内容は、何とも不思議なものだ。
占星術⋯⋯?
いや、待て。
名前を聞かないと。
「ジェームズ・ジョンソン。明日の朝に起きたらきっと忘れてる名前だよ」
変な答えが返ってきた。
自分の名前がよっぽど嫌いなようだ。
確かに風貌に似合わない、いかにもどこにでもいる名前だよね。
「ふふ、そうかい? 逆に覚えやすくていいじゃないか。⋯⋯占星術の本? 占いやるの? 今時紙の本なんて重いし珍しい。図書館で借りたの?」
「占いはやらない、ここに来てから図書館の奥、左上から順番に読んでる」
彼はこともなげに言った。
静かな場所が苦手。
女の子に興味がない。
自分は育ちが悪い。
そう、自嘲気味に話す。
不思議な存在。
話せばきっと面白そうな気がする。
もっとみんなと触れ合って欲しいと思った。
「どっちでも」
曖昧な答え。
でも、彼の許可を得たって事でいいか。
「さあ! みんな! 王子の許可が下りたよ! 謁見したければ寄りたまえ!」
両手を広げて宣言した。
してやったりだ。
ほらね、彼は本当は明るくて、話が上手い。
次から次へと人が押し寄せた。
僕も彼の素晴らしさを広めた。
頭が良くて、機転が利く。
積み重ねた知識を惜しげもなく披露する。
でも少しばかり気になる所はあった。
彼は人を愛せない。
愛し方を知らなかった。
それでも彼は人と関わり合うのをやめなかった。
数多の情報を欲しがった。
彼は人間すら情報だと思ってる。
そういう意味で人が好きだった。
「あんたの所で働かせてくれない?」
ああ、この上ない喜び。
僕を頼ってくれるなんて!
声をかけて良かった。
至上の喜悦。
彼はビジネス・スクールに行きたいと言う。
二年間外部で実績を積まねばならない。
実は一度、彼の素性を調べた事がある。
この時だ。
一も二も無く引き受けたかった。
だが、実家のアパレル商社を紹介するには、必要な事だった。
彼の母親は幼い頃に出奔していた。
探し出し、話を聞いた。
一人、暗い家で暮らしていた。
頑なに彼と会う事を拒まれ、居場所を教えてくれるなと哀願された。
「二度と会いたくない。私は死んだと伝えてください」
扉を締めた後、悲鳴が聞こえた。
心にしまって、父に紹介した。
父も彼に魅了された。
難なく彼は経営修士学を修めた。
父が最初のパトロン。
次から次へと拡げる事業。
膨れ上がる資産。
同時に消える資産。
失敗しても気にしない。
パトロンは切れないのだから。
彼の魅力と、ずば抜けた感覚。
誰もが彼に囚われていった。
幼馴染のステファン・バーレイ。
どうしても会ってみたいと懇願された。
研究に彼の力が必要だ、と。
彼の一番の側近。
それが僕。
悪い気はしない。
ああ、会わせなければ良かった。
彼をステファンに奪われた。
ステファンの夢を叶えたい。
目を輝かせてる。
僕にはそんな目をしてくれた事はなかった。
それでも、彼は美しかった。
そう、僕にとっては。




