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【三章後日談連載中】「嫌なら嫌と言いなさい」~公爵令嬢に転生した三十路素人童貞、紳士の心得で百合ハーレム築いたら優越的地位の濫用で訴えられる~  作者: 無屁吉
第三章後日談「ナンシーとセレンの後始末」【全6話】

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第三話「貴女のその黒い髪。すごく、そそります」


「ところで、黒髪なんて珍しいですよね。東方の血が入っているんですか?」


 ナンシーが農具小屋の整理をしていると、一緒に作業をしていた銀細工のような髪をした修道女――シャーロットから、そんな事を尋ねられた。

 シャーロットが辺境伯の娘であることは周知の事実で、ナンシーもはじめこそ身構えていたが、身分差を感じさせない態度に、気がつけば気安く接するようになっていた。


「ええ、私も詳しくは知らないのだけれど、母方の血に混ざっているみたいなの」


 ナンシーは手で髪を持ち上げ、はらりと流してみせる。

 セレンに褒められてから、他者に黒髪の話をされても前より気にならなくなっていた。

 

 ――それも、今思えば緩みだったのだろう。


「ふうん」


 と、シャーロットが呟く。その音に、ナンシーは何故かあの子爵《男》を連想した。

 小屋の戸が閉まる。シャーロットが、そこにいた。


「シスター・シャーロット?」


 ナンシーの声に応えず、シャーロットはゆっくりと歩を進めて、彼我の距離を縮める。

 砂が擦れる音がした。ナンシーの木靴が、じわりと退く。

 薔薇の香気が、迫ってくる。シャーロットの匂いだ。


「いいな、って思ってたんです」

「……な、なにを?」

「貴女のその黒い髪。すごく、そそります」


 ナンシーの背が棚に当たった。シャーロットはクスクスと笑いながら、


「どうしてみんな後ろに下がってしまうんでしょうね。逃げ場がなくなるだけなのに」

「や、やめて……」

「はっきり言ってもらわないと、何をやめたらいいのかわかりませんね」


 シャーロットが手を伸ばす。修道服の上から、ナンシーの双丘に触れ、その形を好き放題に変えた。


「……っ!」


 噛み殺した悲鳴が歯の隙間から漏れる。

 ナンシーはシャーロットを押し返そうと、彼女の肩に手を当て、


「ところで、私が誰か――忘れてたりしませんよね?」


 ――悪戯っぽい声色で、囁かれたその言葉に、ナンシーの動きは止まった。


「セレンさんでしたっけ? 恋人と離ればなれになると、きっと寂しいですよね」

「ど、どういう意味」

「別に? 深い意味はありませんよ。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()() そう尋ねただけです」


 シャーロットが、ナンシーの顔を覗き込むようにして言った。

 ふわりと、薔薇の匂いがした。


「嫌なら、突き飛ばしたって良いですよ。どうなるかわからないけど」


 ナンシーの身体がわずかに跳ね、硬直した。

 シャーロットはうっとりとして、ナンシーの黒髪を一房手に取り、唇を落とす。


「素敵な濡羽色ぬればいろ。艷やかで、枝毛一つない。良い香りもする。よく手入れされているんですね」


 ――髪の毛を褒められた。


 セレンの顔が、言葉が泡のように浮かぶ。それは次の瞬間、シャーロットに唇を奪われたことで、弾けて消えた。

 土床に落ちる涙だけが、ナンシーの抵抗だった。


 □


「どうしたの? ナンシー」


 居室に戻ってきたセレンが、寝台で頭から布団を被っていたナンシーに声をかけた。


「……ごめん、具合悪いの」


 ナンシーは、布団の中から返答する。自分でも、あまりに力が無い声だと思った。

 だからだろう、セレンが「大丈夫? ちょっと見せて」と、布団を剥いだのは。


「――なんで、そんな濡れてるの!?」


 寝具に大部分が吸われていたが、ナンシーの頭は酷く濡れていた。

 それを見たセレンは、無理やりにナンシーの体を起こすと、有無を言わさず布で頭を拭き始める。


 ナンシーは、シャーロットから解放された後、直ぐに井戸水を浴びていた。

 

 ――汚れてしまった。


 子爵や、ほかの男達に抱かれた後でさえ、これほど自分が穢らわしいと思ったことはない。

 何度も、髪の毛に冷たい水を浴びせる。


 ――セレンが褒めてくれた髪が、汚された。


 擦る。擦る。毛先が痛むのも構わず、艶が失われるのも厭わず、ナンシーは徹底的に黒髪を洗った。

 そしてそのまま、ろくに乾かすこともせず、自室に戻った。


「ああ、もう。全身びしょ濡れじゃない。風邪? 熱は今のところなさそうっていうか、冷えているくらいだけど……」


 セレンは汗だと思っているのか、ナンシーの服を脱がせ、体を拭いていく。

 その優しい、気遣うような手つきに、ナンシーの目から、涙がこぼれる。


「どうしたの? なんで泣くの? そんなに辛い?」


 初めて出会った日のようにうろたえるセレンに、ナンシーは「なんでもないの」と、涙声で返す。

 泣いてばかりだと、自分自身が情けなくなった。


 ――忘れよう。こんなこと、犬に噛まれたようなもの。貴族にいいようにされるだなんて、今更だもの。


 どうせこの黒髪が引き寄せた一度限りの気まぐれだと、己に言い聞かせる。

 それでようやく、ナンシーは「ありがとう」と、微笑みをセレンに返せた。


 ――けれど、


「ナンシーさん。ちょっと、付き合っていただけます?」


 シャーロットの()()は、それから幾度となく繰り返された。

 セレンに心配をかけてしまうから、水浴びはしなかった。

 それでも、夜になると流れる涙は止められず、結局はどうしたのか尋ねてくるセレンに、「なんでもないの」と返すことしかできなかった。

  

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