第二話「自分の部屋だったら、いいの?」
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セレンは街酒場の娘で、言い寄ってきた男を張り倒したら付きまとわれるようになり、親の勧めで修道院へやってきたのだという。
そんなセレンはナンシーより二つ年下だった。だというのに、同室の指導役ということもあってか、先輩ぶってナンシーをぐいぐいと引っ張る。
それが不思議と不快ではなく、ナンシーは気がつけば好んでセレンの後を追うようになっていた。
ほとんどの勤めを彼女と一緒に行っていたが、薬草小屋での作業では、離れてしまうことになった。
それは、ナンシーが石女と呼ばれていたからで、他とは区切られた一室で行われる特別な薬の調合だった。
「子ができにくくする薬だからね。胎がまともな修道女には、調合しているときから良くない影響があるんだ」
薬草婆の言葉に、複雑な思いを抱きながらも、「あんた、筋がいいね」などと褒められれば悪い気もしなかった。
やがて薬草の調合作業は、ナンシーが得意と胸を張れるものになった。
ナンシーとセレン、二人の関係が決定的に進んだのは、ナンシーが初めて夜回りをした日だった。
セレンが指導のため付き添いながら、修道院の各所を回っていく。
そして、人気のない布物の保管室に来たとき、
「――あっ、んっ」
と、切ない吐息混じりの声が、かすかにした。ナンシーはそれが何を意味するのか、すぐに理解した。同時に、なぜ修道院でこんな声がするのか、疑問に思う。
セレンは「はあ」とため息をついて、ナンシーに説明する。
「たまにいるのよ。目を盗んでいちゃつくやつ」
「それって、男を連れ込んでるってこと?」
「そんなわけないじゃない。修道院よ、ここ。女同士でヤッてるの。……出会いがないから、仕方ない面もあるんだけどさ」
女同士――その言葉に、ナンシーは顔が熱くなるのを感じた。
どうということはないとばかりに腕を組んでいるセレンもまた、耳まで赤くしている。
それを見て、何故かナンシーの下腹が疼いた。
「コラ! どこのどいつよ、こんなところで盛ってるの!」
セレンが声を張り上げて、濡れ場に乗り込んでいく。絹を裂くような悲鳴が室内に轟くのを聞きながら、ナンシーの手は知らぬうちに、修道服の上から下腹部に触れていた。
「まったく、せめて自分たちの部屋でやりなさいよ、もう。あいつら同室だっていうのに……」
夜回りと説教を終え、セレンは寝台に腰掛けて頬を膨らませた。
虫除けのポプリの清冽な香りが、ぼんやりとした燭台の灯りに照らされる。
ナンシーは、ふと、
「自分の部屋だったら、いいの?」
そんな事を、セレンに尋ねていた。
「え? まあ、大きい声出さずに、周りに迷惑かけなきゃいいんじゃないかしら。
修道女と言っても、その、そういう気分になるときもあるでしょうし、人肌が恋しい日もあると思うわ」
ナンシーの問いに、セレンは頬を赤らめながらも、そう答える。
ナンシーはそっと、セレンの隣に座った。
「ナンシー?」
小首を傾げて、セレンがこちらを見上げる。それが、契機だった。
ナンシーは、セレンの頬に手を添える。はっとした表情を、セレンは浮かべた。だが、それだけだった。
セレンが、目を閉じる。ナンシーはそのまま、唇をセレンのそれに触れさせた。
乾いた口づけを、一度、二度と交わし、二人は離れる。
「……さっきの二人に当てられた?」
「そうかもしれないわ。でも私、セレンのこと、好きみたい」
「なんで?」
「私の髪の毛を、好きって言ってくれたから」
「なにそれ」
セレンが目を細めて笑った。
「ねえ、部屋なら、いいんでしょう?」
「うん……でも」
ナンシーの言葉に、セレンはわずかに言い淀み、そして、
「私、こういうの、シたことないから……優しく、して」
自ら寝台に倒れ込み、潤んだ瞳でナンシーを見つめてきた。ナンシーは口元に手を当てて笑うと、
「お姉さんに任せて」
そう言って、セレンに覆いかぶさり、唇を奪った。今度の口づけは、互いに湿り気を帯びたものだった。
□
セレンの覚えは早く、ナンシーは次第に閨でもセレンに引っ張られていくようになった。
「ナンシー、好きよ。貴女も、貴女の夜みたいな色の髪も、全部大好き」
セレンの褒め言葉は、あまり語彙が豊富ではない。しかし、それだけに素朴さがあり、ナンシーは安心を得ることができた。
ナンシーの身体を通り過ぎていった男たちからは、決して得られなかった悦び。それと同じものを、セレンも感じてくれていると思うと、この心地良さに溺れていくことは抗えなかった。
それから月日を重ね、二人の関係を少なくない修道女が知るようになった頃。
――シャーロットはやってきた。
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