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【三章後日談連載中】「嫌なら嫌と言いなさい」~公爵令嬢に転生した三十路素人童貞、紳士の心得で百合ハーレム築いたら優越的地位の濫用で訴えられる~  作者: 無屁吉
【第三章】TS純愛追放令嬢VS百合ハーレム辺境伯令嬢(えちちはどこへ?)

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第12話「痛い目を見たというのに、貴女は変わらないのですね」

 ■


「貴女さえよければ、シャーロットに会ってあげてください。まだ床から離れることは許していませんが、意外とピンピンしていますよ」


 カミユの勧めに従い、ヴィオラはシャーロットの部屋へ向かうため、廊下を歩く。

 すれ違う顔馴染みの修道女たちと挨拶を交わすが、普段と違ってよそよそしさを感じた。


 ――シスター・ヴィオラ、公爵令嬢だったんですって。

 ――聞いたわ。どう接していいか、わかんないわよね。


 少し後ろから聞こえた小さな会話に、ヴィオラは振り返ることはしなかった。

 だけど、ほんの少しだけ歩みが速くなる。

 肩書一つ増えただけ。しかし、その名が何よりも重い。ヴィオラはそれを振り払うかのように、歩調をさらに上げ、


「あら、ヴィオラさん。聞いたわよ、大変だったんですって?」


 上げようとしたところで、糸目の修道女、シスター・アリサが普段の調子で話しかけてきた。


「アリサさん」

「どうしたの? なんか変な顔してるけど。ところで、こっちの方向ってことは、シスター・シャーロットのお見舞いに行くのかしら」

「え、ええ。そうです」


 あまりに変わらないアリサの様子に、ヴィオラはどこか拍子抜けをする。そしてつい、尋ねてしまった。


「あの、聞いたって、どこまでお聞きになりまして?」

「えーと、シスター・シャーロットがナンシーに刺されて危機一髪のところをヴィオラさんが助けたとか……。あっ、あと、ヴィオラさんが公爵令嬢だったとか! え、やだ、エーデルシュタイン公爵令嬢ってお呼びした方がいいかしら?」


 糸目を見開いてバタバタとするアリサを見て、ヴィオラは小さく吹き出し、


「普段のままでお願いいたしますわ。ここでの私は、ただのシスター・ヴィオラです」

「あらそう? それならよかったわあ」


 アリサは胸をなで下ろしたかと思えば、忙しなく表情を変えて言う。


「そうだ、ごめんなさいね。足止めしちゃって。私もお勤めに向かう途中だったの。詳しい話、また今度聞かせてね」


 そう言って足早に立ち去っていくアリサを見送り、重かった荷物が幾分軽くなった気がした。


 そしてヴィオラは、シャーロットの部屋の

扉の前に立ち、ノックをする。「はい」と、シャーロットではない声がして、開く。


「あ」


 と、中から顔を出した褐色の肌を持つ少女、ルタがヴィオラを見上げて固まり、絞り出したように、


「ヴィオラ……様」


 と、複雑そうな表情で名を呼んだ。部屋の奥から「ヴィオラお姉様がいらしたの? 入っていただいて」とシャーロットの声がする。

 普段よりも細い声に、ヴィオラは知らずに胸元を握り、部屋に入った。

 薔薇の香りが、鼻腔をくすぐる。

 シャーロットは寝台に横たわったまま、顔だけをこちらに向け、微笑む。その色は、血の気がなく青白かった。


「こんな体勢で失礼しますね。身を起こすことも許してもらえないもので」

「当たり前です! シャーロット様は、お腹を刺されてるんですよ!」

「この調子なんですよ。参っちゃいますね、あはは、痛ったあ……」

「ほら!」


 その二人のやりとりに、ヴィオラは笑みを浮かべる。


「オーウェン院長のおっしゃった通り、昨日の今日で意外と元気そうですわね」

「まあ、生きてるだけで儲けものですから」

「それと、ナンシーさんのことですが……」

「ああ、叔母様から聞きました。いい落とし所じゃないですかね。お父様も昔似たようなことをして、それに倣ったというんですから」


 まるで他人事のようなシャーロットに、ヴィオラは眉が跳ねたのを自覚した。


「反省は、されましたか?」

「そうですね。ナンシーに執着して強引に迫りすぎてしまいました。感情が重そうな感じはしてたんですけど、黒髪が珍しくて、つい」

「シャーロットさん、貴女は……」

「冗談ですよ、半分くらいは。少なくとも恋人持ちにはもうやりません」


 そう嘯くシャーロットに、ヴィオラはため息をつき、カミユの苦労に同情した。


「これ程痛い目を見たというのに、貴女は変わらないのですね」

「はい。伊達に『小令嬢殺し(リトルレディキラー)』を名乗っておりません。私は私に向けられるすべてを受け入れながら、私を貫きます」


 スケベ根性ですけどね、とシャーロットが言う。


「そうですか。ですが、これだけは約束してくださいまし。手を出した人全員を愛せとは申しませんが、泣かせるようなことだけはしないでください」

「……まあ、命を拾ってもらったことですし、それくらいは受け入れましょう」


 不敵に笑むシャーロットに、ヴィオラは肩をすくめる。そしてこの話は終わりとばかりに、話題を変えた。


「そういえば、まるで身動きが取れないんですの?」

「傷はそこまで深くないらしいんですけど、やっぱり動くと痛いし、縫ったところも開きかねないみたいで。何から何までルタに世話を焼いてもらってます」

「はい! お世話させてもらってます!」


 鼻息荒くルタがこぶしを握る。ヴィオラは微笑ましいものを感じつつ、ふと、


「何から何まで?」


 と、気になったところを復唱した。

 げ、という顔をシャーロットがしたが、ルタは、


「お食事から、下の世話まで全部です!」

「わー! 言わなくていいんですって、痛たた……」

「大声出さないでください、シャーロット様! 傷口に障ります」


 恨めしそう目でルタを見るシャーロットを、ヴィオラは鼻で笑う。


「シャーロットさん、下の世話で動揺されているようですわね」

「いや、当たり前じゃないですか。流石の私でも恥ずかしいですよ」

「ふ……未熟! 私ならその程度、するもされるも悦んで受け入れられますわ! むしろエルザ先輩にされたいし、してあげたい!」


 シャーロットの顔がひくひくと引きつった。それを見て、ヴィオラは――三十代素人童貞は「勝った」と内心で誇る。


 しかし、シャーロットの表情はだんだんと赤みを帯びたものに変化していき、


「これが、中央で『令嬢殺し(レディキラー)』と畏れられたヴィオラ・エーデルシュタイン……! およそ口にはできないと語られた行為の数々の一端なんですね!」

「……え?」

「知りたいっ! ヴィオラお姉様がどのような戯れをしてきたのか、教えてくださいっ!」


 そう言って、シャーロットは身を起こし、「ギャー!」と呻いて倒れた。ルタが「シャーロット様!」と泣き叫ぶ。

 ヴィオラは変なスイッチを入れた自分の失言を恨みつつ、


「薬草婆、呼んでまいりますわね」


 と、這々《ほうほう》のていでシャーロットの部屋をあとにするのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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