表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【三章後日談連載中】「嫌なら嫌と言いなさい」~公爵令嬢に転生した三十路素人童貞、紳士の心得で百合ハーレム築いたら優越的地位の濫用で訴えられる~  作者: 無屁吉
【第三章】TS純愛追放令嬢VS百合ハーレム辺境伯令嬢(えちちはどこへ?)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/37

第8話「やるなって言ったじゃないのよお!」

 ■


 思い立ったら即行動。前世からのモットーに従い、ヴィオラは最愛の人の元へと走った。


「エルザ先輩!」


 各々が務めに励む中、ヴィオラは薬草小屋の扉を開け放ち叫ぶ。

 乾燥した植物特有の臭いが、空気の流れにのってヴィオラに届いた。


「シスター・ヴィオラ! お前さん、薬草小屋ここでは、扉の開け閉めは静かにというのを忘れたのかい! 粉が舞うだろう!」

「薬草のお婆様、申し訳ありません。ですが、今は火急の時ですの。謝罪はまたあらためてさせていただきますわ」


 ヴィオラは怒鳴る薬草婆へ頭を下げ、薬草の粉末を小分けしていたエルザの手を掴む。口元を布で覆っていても、キョトンとするしているのがよくわかった。


「え? あ、あんた何すんの? お勤めはどうしたの?」

「エルザ先輩、ついてきてください。そして、私を見守っていてくださいませ」

「見守るって……何を」

「私が、戦う姿を」


 そう言って、ヴィオラはエルザの目を見つめた。エルザもそらすことなく見つめ返し、やがて小さくため息をついた。 


「何のことだかよくわかんないけど……、クソ真面目なあんたが、お勤めサボってまでしなきゃいけないことなのね」

「はい」

「そ、わかったわ」


 エルザは立ち上がると、口を覆っている布を取り、薬草婆へ告げた。


「お勤めの途中ですが、中座させていただきます。シスター・ヴィオラの指導役として、必要なことのようですので」

「シスター・エルザ、あんたまで……まったく」


 薬草婆は頭をかきむしり、背を向けた。


「扉はゆっくり閉めな。粉が舞っちまうからね」

「ありがとうございます。ほら、行くわよ」


 エルザがヴィオラの背を叩き、退室を促す。その温かさが、ヴィオラに力強さを感じさせた。

 ヴィオラは少しの間、声を発することができなかった。そして、胸にこみ上げてくる熱さに従い、


「はい!」


 と、正面を見据えて返事をする。

 二人は薬草小屋をあとにし、エルザはヴィオラに連れられるまま歩く。


「で、どこに行くの?」

「シャーロットさんのところですわ。今なら多分、裁縫部屋にいるはずです」


 シャーロットの予定を思い出しながら、ヴィオラはそれをエルザに伝えた。


「今じゃなきゃいけないの? お勤めが終わってからとか」

「エルザ先輩や他の皆様には申し訳ないのですが、今、この勢いがないといけない――そう、思ったのです」


 エルザは「そう」とだけ、ヴィオラに返す。

 その短い返事が、かえって信頼を感じさせ、ヴィオラの頬をゆるめた。 


「そして、私がシャーロットさんを指導するのを見ていてほしいのです」

「……あんたは、あまりご令嬢の指導について話してくれなかったわね。良くない噂は聞こえていたわ」

「お恥ずかしながら、私の不徳がいたすところですわ。ですから――」

「それに決着をつけにいくのね。……で、なんで私が見守らなきゃいけないの? その気になったあんたなら、一人で片付けられそうな気がするんだけど」


 エルザの疑問に、ヴィオラは胸を張り、


「シャーロットさんに、本当の愛というものを見せつけ、証明してやるのですわ!」


 と、答えた。エルザはすごく、嫌そうな顔をしてヴィオラを見返していた。


 ■


「たのもーっ!」

「え、なに、その勢い?」


 裁縫部屋の扉を開け、ヴィオラが叫ぶ。

 作業をしていた修道女たちが、何事かとヴィオラたちを見やる。修道女の中には、先ほどセレンとの話に出たナンシーの姿もあった。

 暗く、光を宿さない瞳はヴィオラの来訪にも興味を示さず、黙々と裁ちばさみで布を切り分けている。


 ――申し訳ありません、シスター・ナンシー。


「シスター・ヴィオラに、シスター・エルザ。どうしたというのです」


 裁縫部屋のまとめ役である中年の修道女が、戸惑いながら二人に尋ねた。

 ヴィオラは「お騒がせして申し訳ありません」と頭を下げ、


「シスター・シャーロットに用事があって参りました」

「今はお勤めの時間ですよ。貴女にも与えられた役目があるでしょう」

「はい。オーウェン院長より命じられたシスター・シャーロットの教育係として、私の役目を果たしに参ったのです」


 ヴィオラの宣言に、ざわついていた室内が静まる。

 重苦しい静寂の中、ヴィオラは一歩、二歩と、歩を進めた。

 その視線はただ一人を貫き、鋭く見据えている。


「ヴィオラお姉様。もう一悶着はあると思ってましたけど、流石にこれは予想外でした」


 そう言って、シャーロットが立ち上がる。遅れて、隣に座っていたルタもそれにならった。


「重ね重ね申し訳ありません。私、思い立ったら即行動がモットーなのです。でも、貴女の予想を外せたのなら、ジャブの一発くらいは入れられたようですわね」

「何の理由にもなってませんけど。というか、ジャブって何ですか」


 シャーロットの問いには答えず、ヴィオラは靴音を響かせ、彼女の眼前まで行く。

 薔薇の香りが、ふわりと鼻を突き――それが、手を振りかぶる引き金になった。


 破裂音が、裁縫部屋に響く。


「――え?」


 シャーロットが、信じられないものを見た。そんな顔をし、自分の頬をおさえる。

 ヴィオラは自分の手のひらに熱を感じながら、口の中に湧いた苦いものを噛み潰した。

 空気が凍る。誰も何が起きたのか理解できず、声を上げることさえできない。

 その沈黙を破ったのは、


「――あ、あんた、何してるのよ!」


 エルザの叫びだった。

 ヴィオラはそれに、胸を張って答えた。


「鼻っ柱をへし折ってやろうと思いまして!」

「やるなって言ったじゃないのよお!」


 すでに涙を浮かべているエルザへ、ヴィオラは「やっちゃいました」と舌を小さく出してみせた。


 ■


「お前、シャーロット様によくもっ!」


 椅子を倒しながら、ヴィオラに食ってかかろうとするルタを、シャーロットは手で制す。


「いきなり、随分なご挨拶ですね。ヴィオラお姉様。ご自分がしていることの意味、分かってらっしゃいます?」

「ええ、教育的指導ですわ。痛みがないと覚えないこともあるでしょう」


 ――体罰はされるのはともかく、するのは趣味でなかったのですけれど。


「ふうん、私が何をしたっていうんです?」

「辺境伯令嬢としての立場を利用し、望まぬ方と肉体関係を強引に迫って結んだ。罰を受けるには十分な理由です」


 シャーロットは、「よく言えたものですね、ヴィオラお姉様」と、再び鼻を鳴らす。


「貴女だって、同じことをして修道院ここに送られたのではなくて?」


 銀細工のような長い髪をかき上げたシャーロットは、傍らに控えるルタを撫でながら、ヴィオラへそう問いを投げかける。

 ヴィオラはわずかに目を伏せ、顔を上げた。ちらりと不安げなエルザの顔を見る。


 ――申し訳ありません。エルザ先輩。私は貴女に話していないことがありました。


 今は言葉にはせず、心の中だけで詫びる。そして、シャーロットをしっかりと見据えた。


「……そのとおりですわ。私はヴィオラ・エーデルシュタイン。

 公爵家に連なる者にして、かつて数多の令嬢をその権力をもってして毒牙にかけ、『令嬢殺し(レディキラー)』などと呼ばれている者。

 ですが、私はその過ちを贖い、繰り返さないためにここへ来たのです」


 発した言葉は凛とし、ただ事実を認めた。

 ヴィオラの名乗りに、周囲はにわかにざわつき出す。

 だがひとり、シャーロットだけは、それを鼻で笑う。


「過ちを繰り返さない? だとしたら、貴女の後ろにいるその女は何だと言うの? この修道院で、その手にかけたのではなくて?」

「エルザ先輩は、私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、思いに応えてくださいました。貴女にそれを伝えるため、先輩にはこの場に赴いて頂いたのです」

「ふうん、知らないまま、か。

 ……ねえ、シスター・エルザ。貴女は本当に、ヴィオラお姉様が公爵家に連なるお方だと、ご存知なかったの?」


 シャーロットがヴィオラの肩越しに、エルザへと視線を送る。ヴィオラもそれにつられ、背後を振り向いた。

 そして、


「――え?」


 気まずげにうつむくエルザの姿が、ヴィオラに言葉を失わせる。

 エルザの手が、小刻みに震えながらスカートの裾を握りしめているのが、やけにはっきり見えた。


 その姿が、エルザの意を残酷なまでに語っていて、


 ――じゃきりと、はさみが閉じる音がした。


お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや★ポチをください。寂しいので励みになります(´・ω・`)


あと感想なんかもお気軽に。絡まれるの好きです(´・ω・`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ