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【三章後日談連載中】「嫌なら嫌と言いなさい」~公爵令嬢に転生した三十路素人童貞、紳士の心得で百合ハーレム築いたら優越的地位の濫用で訴えられる~  作者: 無屁吉
【第三章】TS純愛追放令嬢VS百合ハーレム辺境伯令嬢(えちちはどこへ?)

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第7話「鼻っ柱をへし折ってやるんですの」

 ■


 ヴィオラは、呆けながら廊下を歩いていた。

 今はただ、早くエルザに会いたい。

 そう思う心とは裏腹に、歩みはひどく重いものだった。


「シスター・ヴィオラ」


 ふと、目の前に落ちる影に気がついた。

 顔を上げると、そこには亜麻色の髪をした――、


「シスター・セレン」

「ごめんなさい。これ、八つ当たりだから」


 え? と言いかけた、その瞬間。

 ――破裂音が、静寂の廊下に響く。

 頬に熱、そして衝撃を受けて噛んだ舌から鉄の味が染み出す。


 荒い息遣いは、セレンのものだろうか。

 ぼんやりとした思考が、だんだんと鮮明になっていき、セレンに頬を張られたのだと気づいた時には、ヴィオラはセレンに胸ぐらをつかまれて、その頭を揺さぶられていた。


「貴女が、貴女がもっとちゃんと! あの女を指導していたら! ナンシーは、ナンシーはっ!」


 セレンの目端からは、真珠のような雫がいくつもこぼれ、床に弾けていく。


「シャーロットさんが、シスター・ナンシーに手を出したのですか」


 声に出し、いつか見たセレンとナンシーの喧嘩を思い出し、――つながった。

 セレンがヴィオラの言葉に眼尻をつり上げ、再び手を振りかざし、――うなだれるように、下げる。


「……構いませんわ、シスター・セレン。八つ当たりでもなんでも、私を叩いて少しでも気が晴れるのなら、そうしてくださいまし」

「ごめんなさい……シスター・ヴィオラ」

「謝罪は、最初にいただきましたので不要ですわ」


 セレンはその場にうずくまり、しゃくりあげた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。指導役のシスター・ヴィオラだって、辺境伯のご令嬢には逆らえない。そんなことはわかっているの。でも、でもね」


 ――ナンシーが、毎日泣いているのよ。


 その言葉が、ヴィオラから息の仕方を忘れさせた。


「シスター・ナンシーが、泣いて? 合意があったのでは、ないのですか?」

「合意? 嫌だという相手に、拒めばどうなるか分かっているのか、なんて尋ねることが合意なの? そうやって、何度も何度も身体を弄ばれることを喜ぶ女がいるとでもいうの?」


 それは、ヴィオラ・エーデルシュタインという存在に、数多の令嬢たちが「嫌だ」と言えなかったことと、まるきり同じ構図だった。


「申し訳ありません、シスター・セレン。これは、私の怠慢です」


 セレンとナンシーの喧嘩を見たとき、どちらかとでも話をすることができていたら、もっと早くにシャーロットの暗躍に気づけただろう。

 ヴィオラが地下室で迫られたとき、シャーロットが言うとおりに突き飛ばして拒否をすればよかった。そうすれば、シャーロットに拒む人間もいるのだと示すことができた。


 後悔はいくらでも浮かんでくる。しかし、時間はもう戻らない。


 だからせめて、と、ヴィオラはセレンの目線に合わせて屈んだ。


「どうか、お気の済むまで頬を張ってくださいませ」


 今、目の前にいるセレンには、できることを。


「もう、そんな気分じゃないわ……。貴女を痛めつけたところで、何が変わるわけでもないもの」


 しかし、セレンは無気力に首を振る。


「そう、ですか。それでは、私はシスター・シャーロットの指導に戻ります。誰かを苦しめ泣かせることを、愛などとは呼ばせません」


 ヴィオラは、やおら立ち上がり、指の関節を鳴らした。ヴィオラになって初めてした行為だった。


「どうやって? 私の話を聞いて義憤に燃えたとか、責任を感じたというのならば、どうかやめて。相手は辺境伯令嬢よ。その辺の貴族の家が敵う相手では……」

「ご心配なく。故あって名乗りは上げておりませんが、その辺の貴族ではありませんので」


 ヴィオラは、修道服の裾をつまみ上げ、洗練されたカーテシーをセレンに披露する。

 セレンが小さく口を開けたまま、


「貴女は、一体……」


 と、ヴィオラが何者かを誰何すいかしたが、ヴィオラはそれには笑みだけを浮かべ、答えない。


「それに、エルザ先輩が教えてくださいましたわ。貴族相手に指導するには――」


 そしてヴィオラは、握り拳を固めてみせる。


「鼻っ柱をへし折ってやるんですの」

お読みいただきありがとうございます。

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