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【三章後日談連載中】「嫌なら嫌と言いなさい」~公爵令嬢に転生した三十路素人童貞、紳士の心得で百合ハーレム築いたら優越的地位の濫用で訴えられる~  作者: 無屁吉
【第三章】TS純愛追放令嬢VS百合ハーレム辺境伯令嬢(えちちはどこへ?)

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第4話「ほら、ヴィオラお姉様も拒まない」

 ■


 手燭の明かりでぼんやりと照らされる石造りの地下貯蔵庫で、在庫の整理と確認をヴィオラとシャーロットは任されていた。

 シャーロットが初めてする仕事という事で、ヴィオラが付き添って教えていると、


「ヴィオラお姉様って、私が思っていたより真面目なんですね」


 そう、シャーロットが言った。ヴィオラは何となく含むものを感じ、尋ねる。


「思っていたより、ですの? 不真面目であると思われていたのかしら」

「悪く言っているわけではありません。ただ、噂とは違うな、と」


 ヴィオラは一つ息を吸う。

 湿った土と石の臭いが混じった空気が肺に取り込まれ、その冷たさを伝えた。


「その……私の噂というのは、どんな話ですの?」

「興味がありますか?」

「ええ、自分が外でどのように思われていたのか、見つめ直す材料になればと」


 そのヴィオラの言葉に、シャーロットは楽しそうな、それでいてどこか詰まらなそうな顔をして、口を開く。


「簡単に言えば、ヴィオラお姉様は公爵家の威光を使い、数々の令嬢や侍女の身体を好きなように弄んだ――という話です」


 ――ああ、それは、紛れもなく、


「事実、ですわね」

「へえ! 今のお姉様を見てたら、てっきり尾ひれがついた話なのかなって思ってました」


 シャーロットが両手を合わせて、喜色を浮かべた。

 ヴィオラは修道服の乱れを直し、背筋を伸ばすとシャーロットを正面から見据える。


「良い機会ですわ。私の過ちを話しましょう」

「過ち?」

「ええ、私はその噂の通り、多くの女性と身体の関係を結びました。私はそれを愛だと思い、彼女らも私のことを愛してくれているのだと思っていました。

 ――それが、間違いだったのです」


 ヴィオラの言葉に、シャーロットは「へえ」と興味深そうな視線を送ってきた。面白い物語を聞いているような色がうかがえつつも、ヴィオラは続ける。


「彼女たちは私から受ける行為を、何一つ拒みませんでした。私はそれを『愛が受け入れられた』と思い込んでいました。

 ですが、違うのです。それはただ、ヴィオラ・エーデルシュタインに、()()()という大きすぎる権力に、拒む権利さえ許されていなかっただけなのです」


 シャーロットは、銀細工のような髪の先を、指に巻き付け、


「ヴィオラお姉様は、それを後悔されているのですか?」


 そう、尋ねた。


「悔やんでいますわ。私は『女の子の嫌がることはしない』ことが誇りの一つでした。それを、望んだことではないとはいえ破ってしまったのです」

「でも、相手は拒まなかったのでしょう?」

「拒まなかったのではなく、拒めなかったのです」

「お姉様は、断る機会をお与えにならなかったのですか?」


 目に悪戯っぽい光を浮かべたシャーロットが、可愛らしく小首をかしげる。

 ふわりと、銀色の毛先が揺れた。


「言葉だけならかけました。『嫌なら嫌と言いなさい』と。ですが、それを実際に言えるかどうかはまた別の問題で――」

「なんだ、拒む機会はあったんじゃないですか。だったら――」


 ――断らなかった相手が悪いんですよ。


 何のためらいもないシャーロットの声が、石造りの地下室に反響し、何度もヴィオラの鼓膜を打つ。


 価値観が、違う。

 シャーロットは、本気でそう思っている。


「それに、私はこうも思うんです」


 石床を、シャーロットの靴底が静かに叩いた。

 その一歩分、シャーロットの姿が大きく見え、ヴィオラは知らず身体を反らせていた。

 また一つ、一つと、シャーロットが距離を詰める。

 いつの間にか、ヴィオラは壁際へと追い詰められていた。


「人の魅力って、家柄とか背景にあるものも込みなんじゃないかって」


 ――だから。


「断れないほどに魅了されたのなら、それはもう――愛でしょう?」


 口の端をいっぱいに吊り上げ、シャーロットはヴィオラの腰を抱き、その身を寄せる。


「きゃっ」


 何をするのかと尋ねる間もなく、


「ん……」


 ヴィオラの唇は、シャーロットのそれで塞がれてしまっていた。

 柔らかく、生暖かい感触。

 その意味を理解する前に、シャーロットの舌がヴィオラの双唇を割り、口内へと侵入する。

 身体が強張り、動かない。手に力を入れようとするが、指先はわずかに動くだけ。

 やがて、シャーロットの顔が離れる。引き抜かれた舌の先で、シャーロットは自分の唇をなめた。まるでグロスを引いたかのように、妖しく手燭の薄明かりを反射する。


「ほら、ヴィオラお姉様も拒まない」

「な、なに、を……」


 ようやく意に沿って動いた腕は、咄嗟に口元を隠していた。シャーロットがクスクスと笑う。


「だって、ヴィオラお姉様が可愛いのですもの。お姉様だって、気になったにはとりあえず手を出すこともあったのではなくて?」


 無い。そう言いたかったが、相手はそう思っていなかったかもしれない。そう考えると、声は出なかった。


「私、お姉様のことを尊敬しております。常々疑問に思っていました。殿方は婚姻前に女性と愛を囁いても許されて、女は純潔を求められる。

 不公平ではありませんか。女にだって、誰かと肌を重ねたいときはあるのです!」

「ですが……それが貴族社会でのあり方です。正当な血脈を保つために、必要とされることです」

「そう、それに一石を投じたのがお姉様なのです!」


 シャーロットの瞳が熱っぽく潤む。そこにヴィオラの姿が歪んで映った。


「お姉様は、純潔さえ守っていればよいと、女性に手を出された。革新的です。これなら、貴族の慣例に則り、どこの誰かも分からない種が紛れ込むことはありません!」

「違います! 私はただ欲を満たそうとしたわけでは……」

「では、なぜ抱いたのですか? 愛だけだというのなら、体を重ねる必要はありませんよね」


 ヴィオラは、何も言えなかった。シャーロットが、嗤う。


「いいじゃありませんか。ただ、肉欲のためだけでも。難しいことは、気持ち良くなって忘れましょう?」


 ――好きでしょう? そういうの。わかるんです。


 シャーロットの腕が、ヴィオラの顔の横に突き立てられ、石壁を慣らす。

 片方の手が、ヴィオラの頬へ当てられ、首筋、鎖骨、そして胸の形なぞるようにゆっくり這い回る。


「や、やめてくださいまし。私には、愛する方が……」


 ヴィオラは、拒絶の言葉を吐き出す。しかし、シャーロットは微笑んだまま、その手を止めない。


「嫌なら、突き飛ばしてでも逃れてくださいね。拘束なんてしていないのだから」


 そして、そんな風にのたまうのだ。

 ヴィオラの両手がシャーロットの体にかかる。だが、それだけだった。

 突き飛ばすという行為を、ヴィオラはどうしても取ることができなかった。


「ヴィオラお姉様、可愛い。私、令嬢殺し殺し(レディキラー・キラー)だなんて名乗ろうかしら」


 シャーロットの唇が、ヴィオラのそれに再び近づく。温かい吐息が肌に触れ、薔薇の香気が鼻をくすぐった。

 ヴィオラが強く目をつぶった、その時だった。


「シスター・ヴィオラ、シスター・シャーロット。いるの? ずいぶん時間がかかっているようだけど」


 入口の階段から誰かが呼ぶ声がした。

 シャーロットが忌々しげに舌打ちをしたのもつかの間、ころりと表情を変えると、


「はーい! いますよー! もう戻ります!」


 そう叫んで返した。

 そして、ヴィオラから名残惜しげに離れると、


「続きはまたの機会にね、ヴィオラお姉様」


 とだけ言って、シャーロットは一人階段へと向かった。

 ヴィオラはその場に座り込み、その背を見送る。

 抑えた胸の中からは、鎮まりきらない鼓動がいつまでも鳴り響いていた。


 ――その日、ヴィオラはエルザを抱くことなく、床についた。


「え、どうしたの、あんた? 体調悪い?」


 体を求められないことに驚いたのか、エルザがヴィオラの体調を気遣ってくる。

 ヴィオラは「なんでもありませんわ。少し、疲れてるだけなのです」と言い、なるべくエルザの顔を見ないように壁へ向いた。


 シャーロットに唇を奪われたことだけは、どうしてもエルザに知られたくなかった

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