第3話「私だって、拒めるものならそうしたわよ!」
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シャーロット・オーウェンは、第一印象からは想像がつかないくらい、修道女として優秀だった。
「昔からここには、よく遊びに来ていましたの。小さい頃は、カミユ叔母様……オーウェン院長に教わりながら、お勤めのお手伝いをさせてもらったりもしていましたわ」
華美なドレスから質素な修道服に替えたシャーロットはそう語る。
その言葉に偽りはなく、指導役とされたヴィオラが、改めて教えるようなことなど何もなかった。
つい、閨の中で「私、要りますの?」などと存在意義に疑問を呈し、エルザに「わかる、わかる」と慰められるほどだった。
だが、カミユから命じられた本来の目的は「シャーロットの性根を叩き直す」こと。
過去の自分と同じ過ちを犯したというのならば、先達として正しい道に導かねばならない。
しかし、
「ヴィオラお姉様、一緒にお食事しましょう」
「ええ、シャーロットさん」
指導の最中も彼女の行動をつぶさに観察したが、シャーロットは常にヴィオラの指示に忠実で、まるで尻尾を振る子犬のように懐いてくる。
「あ、これを運べばいいのですか? 私がやりますよ」
「あら、シスター・シャーロットありがとう。助かるわ」
辺境伯令嬢という立場をもっと振りかざしたりするのかと思えば、ヴィオラ以外の修道女にも後輩として振る舞っており、周りの受けも良い。
「シャーロットさん、気配り上手ですわね」
「意外でしたか? よく言われるんですけどね。人を見てると、何となく何を求めているのかわかるんです」
「素晴らしい資質だと思いますわ」
初対面のときに垣間見えた、過去の罪を悔いていない様子が顔を出したのならば、その時はきちんと話をしなければならない。
そう考えていたが、そんな素振りはついぞ見られず、ヴィオラはシャーロットと深い話をするタイミングを逃し続けていた。
「ヴィオラお姉様、私、小屋の整理へ行って参ります」
「ええ、シャーロットさん。お願いしますわね」
だから、一月も経つころには、つい「このくらいならば」と、簡単な作業は目離しして任せるようになってしまった。
「あ、シスター・ナンシーも小屋の当番ですか? 一緒に行きましょう!」
「あら、シスター・シャーロット。ええ、そうしましょうか」
シャーロットがナンシーの背後から駆け寄り、共に連れ立って歩く。二人が談笑しながら去っていくのを見送り、ヴィオラも自分の勤めへと向かった。
シャーロットなら、大丈夫。そう思って、
――任せるように、なってしまったのだ。
■
シャーロットがヴィオラからほぼ独り立ちして、務めをこなすようになり、ヴィオラがする指導といえば細かい日々の心得を語る程度しかなくなっていた頃。
「ねえ、ヴィオラさん。シスター・セレンとナンシー、最近うまくいってないみたいね」
燭台磨きの最中、隣に来たシスター・アリサがそんな噂話をヴィオラに囁いた。
ヴィオラはそれに小さく頷き、答える。
「私も、お二人が大きな声で、喧嘩をされているのを見てしまいましたわ。仲裁しようとしたのですが、入る間もなく、別々に歩かれていってしまっていました」
「ヴィオラさんも見たのねえ……。あんなにわかりやすく、いちゃついていたカップルだったのに。同室だと、喧嘩したとき気まずいでしょうにね」
二人の破局を惜しむアリサに、ヴィオラは、
「仲直りしていただければ一番。でもせめて、お互いに納得できる別れであってほしいですわね……。余人が立ち入っていい話かも分かりませんし」
「そうねえ。……そういえば、ヴィオラさんはエルザさんと喧嘩とかしないの?」
ニヤニヤとしながら、尋ねてくるアリサに「ええ、喧嘩なんかしませんよ」と答えて、すぐに「え?」と動揺し、手が止まる。
「わ、わかりますか? あの、表には出さないよう努めてたつもりなんですが」
「アレで? 食堂で食べさせ合いとかしてて、よく言えたものねえ」
「あはは……」
言われたことに心当たりがあり、もはや笑ってごまかすしかない。
アリサは「隠してるつもりだったら、もうちょっと自重した方がいいわよ」と言って、自分の持ち場へ戻った。
ヴィオラはため息をつき、燭台の煤を落とす作業に戻った。
――喧嘩、か。そういえば前世は兄貴とよくしてたけど、転生してからは誰かと争うとかしたことがないな。
誰とでも仲良く過ごせるなら、それに越したことはない。けれどもエルザとする痴話喧嘩なんてシチュエーションを思い浮かべて、少しだけ憧れる自分がいることに気がついた。
そして、ふと、セレンとナンシーの喧嘩を思い出す。
「なんで、私というものがありながらっ!」
涙声で叫ぶセレンへ、ナンシーは眼尻を吊り上げ、
「私だって、拒めるものならそうしたわよ!」
やはり涙混じりで返していた。
はじめは痴話喧嘩かと見守ろうとしていたが、尋常ではないものを感じ、ヴィオラは割って入ろうとはした。
しかし、結局二人はそのまま別方向へと去っていく。
――どちらかからでも、お話を聞いておくべきだったかしら。
どことなく覚える胸騒ぎに、ヴィオラは少しだけ後悔していた。
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