第1話「うわ、すっごぉ……」
土と古い木材の匂いに混じり、汗と淫らな蜜の香りが、薄暗い倉庫の中に満ちていた。
睦み合う二人の女――はだけた修道服の隙間から、白い肌がくっきりと浮かび上がり、木窓の隙間から漏れ入る光に汗の玉が反射している。
「ああ……セレン、愛してるの、セレン」
一人の修道女が、切なげな吐息とともに愛の言葉を囁く。
亜麻色の髪をした女――セレンは、その声に応えるかのように、相手の黒髪を掻き抱きながら、身体を細かく震わせた。
「ナンシー……私も、愛してる。……大好きよ」
そう言って、セレンはナンシーに口付けを落とす。ナンシーはセレンの背中に腕を回し、互いの体を強く密着させた。
舌と舌が絡まる水音が、倉庫に響く。
弄り合う手は互いの服のなかに潜り込み、セレンとナンシーの声が次第次第に大きくなった。
蒸発した女の汗が、臭いとともに熱気となり、土床の倉庫に満ちていく。
やがて、二人はどちらともなく衣服を脱ぎ捨て――、
「うわ、すっごぉ……」
その様を、アリサは農具が納められた棚の影からこっそりと見ていた。
普段は細められている目をこれでもかと見開いて。
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巨乳糸目修道女の覗き見日記(えちちが見たいです!)
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アリサ・ヴィンヤードは、ヴィンヤード商会の娘である。そんなアリサが修道院に入ったのは、
「将来的に箔が付くから。良いところの縁談につながるから」
と、二年前に父親に頭を下げられたからだ。
心配性な父は「週に一度は手紙を書くように」と旅立ちの日にアリサへ言いつけた。
元々日記をつける習慣があったアリサは、二つ返事でそれを引き受けた。
そして今、アリサは、
「……シスター・セレンとナンシーは暗い倉庫の中、互いに一糸まとわぬ姿になって――」
ブツブツと独り言を発し、ランプの明かりを頼りに文机へ向かっている。
細やかに情景を思い浮かべると、下腹部に熱を感じた。アリサはそれを、日記のページへと叩きつけた。
やがて、全てを書き終えると、アリサは体を一つ伸ばす。
「ん〜! 書けたぁ!」
つい出た少し大きめの声に、慌てて口元を押さえる。
実家からの寄付で一人部屋が割り当てられているとはいえ、夜中にはしゃぎすぎた。
アリサはランプの火を消す。虫よけのポプリに混じって、油の臭いが鼻についた。
そのままベッドのシーツへ倒れ込む。既に寝間着に着替えているので、そのまま寝てしまっても良かった。しかし、
「……ん」
身体の芯に、燃えくすぶっているものを感じた。
良くないことだと分かっていたが、セレンとナンシーにあてられた情動は、その熱へと手が伸びるのを止めてくれなかった。
――こういうのできるの、一人部屋の特権よね。
アリサはせめて迷惑はかけぬようにと、近くにあった手拭いを噛み、ひとときの慰めに耽る。
――あ、手紙そろそろ書かなきゃ。……明日でいっか。
そんなことを、頭の片隅で思いながら。
■
乾いた植物の匂いが宙に舞うなか、アリサは天秤の片皿へ慎重に薬草の粉末を載せる。皿が釣り合うと、それを薬壺へと入れた。
鼻と口を覆う布が息苦しい。不快さに、アリサは知らず眉をひそめた。
ちらと向かいを見れば、金糸の髪を一つに束ねた修道女――ヴィオラが真剣な表情で同じ作業をしていた。息苦しさは変わらないはずなのに、その表情はどこか楽しそうにも見える。
「ヴィオラさんは、楽しそうねえ」
ヴィオラの手が止まったのを見計らい、アリサが声をかける。ヴィオラは照れくさそうにしながら、
「実は好きなんですの、こういう細かいこと」
「さすが、早々に薬草の調合をさせられるだけあるわね。真面目で気配りをできる人にしか任せられないのよ」
アリサの言葉に、ヴィオラは耳を赤くし「滅相もありませんわ」と謙遜してみせた。こういうところなんだろうな、とアリサは思う。
「こら、あんたら! 無駄話してるんじゃないよ! 粉薬が飛んだらどうするんだい!」
背後のドアが開き、腰の曲がった老女が怒鳴り声をあげる。
「薬草婆の声の方が、よほど粉を吹き飛ばしそうだわ」
「わたしゃいいんだよ。こうやって口元を覆ってるからね」
「私たちも同じですわよ」
クスクスとヴィオラが笑う。薬草婆は肩をすくめ、
「やれやれ。こんな口答えするんじゃ、奥の部屋に連れて行くのはまだ無理だね」
「そういえば、あちらでは何を作っているのです?」
ヴィオラの問いに、アリサが答えた。
「あっちは繊細な調合を必要とするものや、秘伝の配合の薬とかを取り扱っている……らしいわ」
「秘伝というほどのものではないよ。ただ、取り扱いに気をつけなければならないものもあるのさ」
「まあ、そんな危ないものが?」
布の上から口元を押さえたヴィオラに、薬草婆が意地悪く目元を歪めた。
「ああ、例えば子供ができにくくなる薬さね。調合の時に舞う粉を吸い続けてたら、知らぬうちに石女になっちまうのさ」
お貴族様や金持ちによく売れるのさと、薬草婆はカカと笑うのだった。
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