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【三章後日談連載中】「嫌なら嫌と言いなさい」~公爵令嬢に転生した三十路素人童貞、紳士の心得で百合ハーレム築いたら優越的地位の濫用で訴えられる~  作者: 無屁吉
【第2章】TS追放令嬢修道院無双百合ざまぁ(えちちは控えめ?)

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第2話「エーデルシュタインの名を名乗ることはありません」

 ■

 ■


 ヴィオラが修道院に着いたその日、院長である年嵩の修道女――カミユ・オーウェンは、


「ヴィオラ・エーデルシュタイン。ここで貴女が公爵家の出自であることを知る者は、私しかありません」


 そう、修道院長室でヴィオラに告げた。

 焚かれた香の甘さが、鼻につく。

 ほんの少しだけ、ヴィオラはその意味を咀嚼した。そして、


「オーウェン院長。それはつまり、ここでは公爵家の権威など通用しない――そう、おっしゃりたいのですか?」

「話が早くて助かるわ、シスター・ヴィオラ。そして貴女自らが、公爵家の人間であると公言することも禁じます」


 カミユの言葉に、ヴィオラは我が意を得たりと深く頷いた。


「もちろん、そのつもりですわ。――私がこの修道院に来た理由は、ご存知でいらっしゃいますか?」

「ええ、おおよそのところは」

「なるほど、()()()なのですわね。――はい、ご心配はもっともです。

 私が語らずとも、()()()()()()()()()()()という事実は消えません。

 そして、人はその威に抗えなくなることもある――そのことを、私は学び、反省いたしましたの」


 ――だから、私が自らエーデルシュタインの名を名乗ることはありません。


 そう、きっぱりと、ヴィオラはカミユの前で宣誓した。


「思ったより素直な娘ね。貴女の所業を聞く限り、もっと傲慢な性格をしていると思っていたわ」

「いいえ、傲慢だったのです。だからこそ、私は取り返しのつかない過ちを犯したのです」


 カミユは嘆息を一つし、憐れみを込めた瞳をヴィオラに向ける。


「ひとつ、忠告をいたします。貴女はエーデルシュタインの名を名乗ることはなくとも、エーデルシュタインの名を背負っていることを忘れてはなりません」

「ええ、名乗ることは許されなくとも、私はヴィオラ・エーデルシュタイン。公爵家の誇りにかけて、この名をこれ以上汚すことなど、決していたしません」

「よろしい」


 カミユが立ち上がり、ヴィオラの前に立つ。部屋の香と同じ香りが、カミユから立ち上っていた。


「貴女に指導役をつけます。彼女は男爵家の出ですが、幼い頃からこの修道院で修行を積んでいるベテランです。下級貴族だと見くびらず、先達であると心得て尽くしなさい」

「承知いたしましたわ」


 その時、低い鐘の音がヴィオラの鼓膜を震わせた。それが九度。

 ――聖印があしらわれた大鐘楼。

 この地に来た時、見上げたその姿が、脳裏をよぎる。


「ちょうどいいわね。三時の鐘が鳴ったら来るように言いつけていたの」


 カミユの言葉から程なくして、扉を叩く音がし、その向こうから「シスター・エルザです」と名乗る声が聞こえた。

 カミユが入室を促すと、扉が軋んだ音を立てて開く。


「失礼いたします」


 深く礼をし、室内に入った修道服の女――エルザが、ちらりとヴィオラに横目を送った。

 エルザがヴィオラのそばに来た時、ちょうど彼女の髪が鼻の下を横切った。

 甘い香の匂いに、わずかに石鹸の香りが混じる。


「時間通りね。規範となるべき行いだわ、シスター・エルザ」

「ありがとうございます。オーウェン院長」


 エルザはカミユに褒められ、わずかに頬を赤らめた。その様にカミユは目を細め、口元を緩める。


「シスター・エルザ。こちら、今日からこの修道院で勤めに励むことになりましたシスター・ヴィオラです。貴女には彼女と同室になって、公私ともども指導をしていただきます」

「ヴィオラ、と申します。ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたしますわ」


 染み付いた習慣がカーテシーの動作を取ろうとし、それを留める。結果としてぎこちない礼をすることになり、若干顔に熱を感じた。

 一瞬だけ、エルザは戸惑ったような表情を見せたが、すぐに顔を引き締める。


「はい、承知いたしました」

「よろしい。では、シスター・ヴィオラ、彼女の言う事をよく聞き、精進なさい」

「ええ、改めてよろしくお願いいたします。シスター・エルザ」

「こちらこそ、シスター・ヴィオラ。ここでの生活が実りあるものになるよう、私も精一杯力を尽くします」


 それが、ヴィオラとエルザが初めて交わした会話だった。


 そして、二人が院長室を退室し、少し離れたあと、エルザはキッとヴィオラを見上げながら睨む。


「あんた、いいこと? ()()()が指導役になった以上、あたしの言うことは絶対! ここでは世俗の地位なんて何の意味もないんだからね!」


 カミユの前とはまるで違う態度に、ヴィオラは顔にこそ出さないものの、戸惑いがあった。

 エルザは、まくし立てるように言葉を続ける。


「それから、敬意を持ってあたしのことは『先輩』と呼ぶ事。わかった!?」

「ええ、承知いたしました。エルザ先輩」

「よろしい! それじゃ、ここの中を一通り案内してあげるわ。ついてきなさい!」

 

 まるでカミユのような口ぶりをして、エルザは鼻息も荒く、ヴィオラの前を行く。

 ずんずんと大股で進んでいくエルザの後ろ姿を見て、ヴィオラはつい含み笑いを漏らしてしまい、気づかれなかったかしら? と胸中で心配した。


 これが、ヴィオラとエルザが交わした二度目の会話であり、


 ――つ、ツンデレ? いや、デレはないけど、これ、ツンデレパターンじゃね?


 ヴィオラの中の精神年齢三十代男性が、エルザを「今まで周りに居なかったキャラ」と認識した瞬間でもあった。

お読みいただきありがとうございます。

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