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「では最後は補助魔法です!」
「もう止めにしない?」
レイラの言葉にわたくしは辟易する。
ステータスに書かれた魔法をレイラとセオドアに言われるまま試し、すっかり時間が経ってしまった。
窓がないから正確には分からないけれど、きっと日が傾いている頃だわ。
空き始めたお腹を押さえると、ぐうっと小さな音をたてた。違ったわ。夕方ではなくて夜、きっと食事時ね。
「補助魔法で終わりですよ。もう少しです」
「明日にしますか。そちらの方がゆっくりと試せそうですね」
明日来れないから今日の内に全て終わらせたいレイラと、ゆっくりとわたくしの魔法が見たいセオドアが互いを牽制し睨み合う。
わたくしはため息をついた。
「今日中に終わらせましょう。早く帰りたいから基礎だけお願い」
「やったー!」
「基礎だけでは応用が効かないかも知れません」
「後日レイラに聞くわ。レイラも補助魔法が使えるでしょう?」
「はい! 何でも聞いてください!」
分かりやすく肩を落とすセオドアを横目に話を進める。早く帰って食事したいけれど、これが明日も続くなんて絶対に嫌。せっかく牢から出たのに、部屋に閉じこもってばかりなんてうんざりよ。
わたくしはにっこり笑って手を叩く
「さあ、始めましょう」
体の中に流れる魔力を意識して、右手に集める。兵士の鎧や盾のような守る物をイメージすると、光はパチパチと弾けた。火花のようだけれど、熱くはない。
レイラとセオドアを見ると、二人が浅くうなずいた。わたくしは右手で左手の手首から指先までを撫でる。一瞬光り、すぐに染み込むように見えなくなった。
「パトリツィアさん、つねってみてください」
「分かったわ」
レイラの言う通りに手の甲をつねる。触った感覚はある。でも痛みはない。
成功? わたくしの力が弱いだけかしら。
「パトリツィア様、いかがですか」
「どうです? この魔法も一度で成功ですか」
「叩いて」
わたくしは左手を出した。二人はぎょっとした顔で目の前の手を見る。
「そんな、恐れ多い」
「えええええ! そんなことしたらパトリツィアさんを呼んだ飛び切りすごい人に怒られますー」
「自分だと加減してるだけかも知れないじゃない。実験、したいでしょう?」
「んーまあ、そう言うなら」
渋々と言う声を出しながら、レイラの口元はにやにやと緩んだ。隣のセオドアは期待と不安が入り混じった顔をレイラに向けている。なんだか羨ましそうにも見える。
すぐにレイラは体勢を整えた。
「いきますよー」
「ええ」
ぺしっ。
大きく振りかぶった割に衝撃が少ない。
「加減したわね」
「日和ったの分かりました? 次は頑張ります」
ぺしんっ!
強くはなったけれど、痛みはない。
「もっと強くできる?」
「できますよ。……良いんですか」
「やって」
分かりました、と言ってレイラは左手の指先で右手を撫でた。左指の光が右手に溶け込むようにじんわり光って消える。
これは、わたくしの強化魔法が弱いと危ないんじゃないかしら。
レイラは満面の笑みで体をそらせて振りかぶった。わたくしの背中に冷や汗が流れる。
「えっ、少し待っ……」
「そおれー!」
ばちんっ!!
レイラのかけ声のあと、部屋中に衝撃音が響き渡る。魔力の火花がいくつも散り、床の土を跳ねて消えた。
でも、それだけ。
「痛く、ないわ」
「えええ!? けっこう本気でしたよ!? 自信なくしますー」
「それでは次は私が」
「結構よ」
やる気に満ちた申し出をそっけなくに断ると、セオドアは首を垂れてうなだれた。横目でわたくしを見ている。
刺さる視線を無視して、わたくしはステータスを確認する。
「次の魔法は……また攻撃の強化魔法ね」
「さっきは物理の強化で、次は魔法の強化です」
「パトリツィア様、手加減をお願いいたします」
レイラとセオドアの目線が、わたくしから見て左にある壁に向く。ただの白い壁だけれど、五分ほど前に大きな窪みができた。魔法を吸収する壁も物理攻撃には弱いらしく、わたくしの強化した打撃で大きく破損した。
窪みもヒビもすぐに消えて、今はどこを殴ったかも分からないじゃない。
「大袈裟ね。魔法は吸収するのでしょう?」
「パトリツィア様は規格外なので、どうなるか分かりません」
「もし壊れても元に戻るし……」
「凹みや欠損であれば元に戻りますが、穴は戻るとは限りません」
「穴が戻るかどうか分からないの?」
「今まで開けた人がいないので予測ができません」
「はい!」
わたくしとセオドアの会話を静かに聞いていたレイラが、まっすぐに手を上げた。
「私はパトリツィアさんが穴を開ける所見たいです!」
「私も見たい! 見たいが、この神殿の長として……」
セオドアはぶつぶつ言い始める。
勝手に始めて良いかしら。わたくしは早く帰りたいのよ。
一人で始めようとして、手が止まる。
さっきもかなり手加減していた。わたくしはただ、コツンと打ち付けただけのつもりだった。
物理攻撃強化より魔法攻撃強化の方がレベルが高いのよね。
わたくしは床に置かれたステータスを見る。物理攻撃強化は十五、魔法攻撃強化は十七と書かれている。
これはもしかすると、手加減してても危ないんじゃないかしら。
その時、重厚な扉がノックされた。
「神官長、いらっしゃいますか」
「どうした」
扉が開くと、神官が一人立っていた。額に汗がにじみ、ひどく焦ってている。
「東の城門より三キロメートル先に魔物が現れました。市役所が動いておりますが、人手が足りずこちらに要請がきました」
「分かった、向かおう。種と数は分かるか」
「種はスカイリザード、及び牛喰いセンティピード。数は二十と十五と聞いています」
「数が多いな。五人連れてすぐに出る」
セオドアが言い終わると、神官は軽く礼をして走って行った。




