350 ファティマの優しい諭しでした
「マスター、お加減はいかがでしょうか?」
お子様ズだけでなくマイシスターりぃちゃんからも、ジト目で見つめられている状況の中、天の助けよろしくファティマが私室のドアをちゃんとノックしてから入室してくれた。
まあ、なんと言いますか。
フィディルは自身の属性柄、周囲の時間軸やら把握しているので割と無頓着に私のいる場に転移してくる。
レオンも農作業に従事している時は、私の周囲を視ているのでこちらも前もって念話や声掛けしないで転移してくる。
逆に、お子様ズとファティマはちゃんと確認してから転移してくる不思議さを覚えているこの頃だ。
「ティア姉、マスターはまだ安静だからね」
「ユリスもエスカに同意。
今日は、マスターの休養日」
「……セレナも、同意。
……話し相手に、……妹ちゃん来たから、問題無し」
「ええ、フィディルから聞いておりますわ。
妹君が結界に弾かれた感触があったので、確認して欲しいと頼まれましたの」
ぷんすかエスカモード解消ならず。
再度、頬が膨らんだ。
そして、おっとりユリスと慎重派セレナは、エスカに同意して私の安静状態継続希望している。
いや、出血は派手だったし、いっときふらついて貧血擬きになったけどね。
数時間横になっていたら貧血は回復した。
暇で退屈していたら、りぃ来訪で話し相手に困らなくなったのも確かだけどさぁ。
私が安静状態になった代わりに、謹慎していたフォードさんはお仕事に復帰したので決済待ちの書類なんか貯まっていっているのではと思いますわ。
せめて、書類仕事くらいは免除してくれないかなと思った次第でございます。
『あっ、お久しぶりです。
お姉の守護者さん。
はしゃぎすぎて、結界にぶつかってしまいました。
ご迷惑おかけしました』
ファティマの視界に入るまで浮かんで、頭を下げるりぃ。
お子様ズもりぃも、きちんと間違いや失念していた事には謝罪できる良い子であった。
「はい、お久しぶりです。妹君。
試験とやらは、終わられたのですね」
『試験、試験は終わりました。
できるだけはやりました。
後は、試験用紙が返却されるまでの期間は、自由時間となりました』
ファティマの挨拶に、ヤケになったテンションで返すりぃがいた。
さては、結果に自信がないとみた。
りぃは理数系は得意科目であるも、私同様歴史や英語問題を苦手とする。
語呂合わせの年表や、英単語は覚えれても文章に繋ぎ合わせる助詞や動詞や形容詞のケアレスミスが多い。
済まぬ。
姉は同じく苦手なんで、力になれない。
で、成績も苦手分野が足を引っ張り、それが無かったら進学校に推薦できたのにと三者面談で毎回担任教師に嘆かれている。
『赤点は回避したはずだ。
でないと、お祖父ちゃんに受験終了までVR機器封印が〜。
切実に回避したいです』
紅林家は基本的おおらかな性格の家柄ではあるが、学生の本質から逸脱する行為には昔ながらの鉄拳制裁がくだされる。
思春期特有の家族に反抗する態度は見逃されたり、他人に反抗して口喧嘩までは許されるも、怪我を負わせたり所有物への器物破損、万引き行為等もってのほかで判明しようものなら怒髪天な祖父の鉄拳制裁&お説教が悔い改めるまで続く。
いっとき、グレるのが成長の証とばかりに従兄弟が破壊衝動に突き動かされ、コンビニスタッフさんのある言動にスイッチが入り、店内で暴れまくった。
その原因となったのが常連のお客さんとの会話だったそうで、
「◯◯しますか?」
ではなく、
「◯◯する?」
と言ったのが気に入らなかったらしい。
常連さんの背後に並んでいた従兄弟は、カチンときてお互い笑顔で常連さんとスタッフさんが会話しているにも関わらず、キレた。
後に聞いた話であるけど、そのコンビニは従兄弟の地元の店舗で、なんと常連さんとスタッフさんと従兄弟は通う時間帯と勤務時間帯が被り世間話を気軽に話せる顔馴染みでもあった。
だというのに、従兄弟がキレた瞬間を目の当たりにした常連さんとスタッフさんは、顔馴染みの従兄弟に似た別人かと疑ったほど荒れて暴れたそうである。
また、コンビニオーナーさんは祖父とも知人だったりする。
事務所で作業していた店長さんの通報で駆け付けたお巡りさんに、従兄弟は補導され近場の警察署に連行された。
運が良かったのか、悪かったのか。
ちょうど、オーナーさんと祖父が趣味の将棋を指していたところに、オーナーさんには店長さんから、祖父には警察署から連絡がそれぞれいき、祖父激怒と相成った。
身柄を引き取った後、従兄弟は祖父の鉄拳制裁くらい顔面腫れ状態になり、金髪に染めた髪を丸刈りされ、荒らした店舗の清掃作業に祖父と伯父三人して参加させて貰いにいった。
無論、破壊した諸々については全額賠償金を支払いました。
オーナーさんと祖父が知人であれ、従兄弟はそのコンビニ店舗出禁になったのは言うまでもないかな。
社会人になった従兄弟は、自ら黒歴史を暴露し年下の身内にグレても他人に迷惑掛けるなと釘刺し役を担っている。
また、支払われた賠償金は立て替えられた分であり、以降のお年玉やら親戚一同から貰うお小遣いはすぐに徴収され、社会人となった今でも支払い継続中だとのこと。
どれだけ賠償金支払われたのか、恐ろしくて聞けやしなかった。
証拠の顔面腫れ写真も披露されたので、青ざめる年下の身内は皆固く誓った。
絶対に、従兄弟の様にはなるまいとね。
祖父曰く、学業もサボって困るのは自分だから、他人に迷惑掛けないなら何も言わない。
しかし、高価なVR機器を購入する代わりに約束した、一定の成績キープを守れないならVR機器没収は覚悟するように念押しはされている。
我が家は父親が不在がちな職業で、母親は私とりぃに負い目があり甘い。
よって、VRゲームに熱中して勉強が疎かになっても、注意や警告が発せられないと見越され、紅林家の祖父が不定期に確認しに来たりしていた。
現在は母方の祖父母が同居中な訳だけど、紅林家祖父から通達がなされ、りぃのVRゲーム使用に監視がついている状態にある。
まあ、そのVR機器を使用して異世界転生した姉に会いに来ているのは、双方の祖父母も認めているけどね。
さすがに試験期間は前週からVR機器使用禁止令が出て、今日解禁されて異世界に来訪してきたみたいである。
赤点取ったら封印は、りぃが受験生でもあるから約束された条件の一つになる。
かくいう私も、受験生の身でVRゲームしてました。
苦手分野で赤点取らないように頑張っていたら、成績あがった恩恵がありました。
「りぃ、享保の改革を成した将軍は誰かな?」
『はえ?
えっと、八代将軍だから吉宗』
「その八代将軍が設定した御三卿の家名は?」
『えっと、一橋家、田安家、……松平家?』
「ぶぅー、不正解」
うむ。
姉妹は似るな。
私と同じ間違いしておりますなぁ。
時代劇ドラマを視聴すると、結構頻繁に松平家の名前が出てくるので勘違いしがちなのだ。
そも、徳川初代将軍が徳川姓に改姓するまでは松平家だったしで、松平家ってのが頭に入り込んで消えないんだ。
『あれ?
御三家が、水戸と紀伊と尾張、だよね。
そっちは、徳川姓なのはかわらないのは、覚えてる。
松平家じゃないの?』
「エスカ、知ってる。
しみず、なんだよ」
「ユリスも、知ってる。
マスターが、何回も口にしてたからね」
「……マスター、ある時、……そればかり言ってた」
まさかの、正解がエスカから出た。
ユリスとセレナも、頷いておりますわ。
くすり、とファティマも微笑ましく笑う。
「そうですわね。
わたくしも、初めはどの魔法の詠唱句かと思いました」
「とくがわ、しょーぐん。
十五人いるんだよね」
ファティマが同意したら、お子様ズがエスカの合図で徳川将軍の名前を謳う形で連ねていく。
一人の間違いもなかった。
思わず、姉妹二人して拍手した。
だがしかし、その謳い方は私の真似なのは、私とうちの子達だけの秘密にしといて欲しい。
なんせ、ところどころ調子が外れるのは、私が音痴なせいだから。
済まぬ、お子様ズ。
音程が外れる覚え方させてしまったのを、エララに矯正して貰おうとしても治らない頑固さは、ひとえに私が記憶させるぐらい口にしていたせいだから。
実演されると、本気で謝罪したいです。
『あ〜、お姉は音痴なのを思い出しました』
りぃちゃんや、せめて口に出さない配慮が欲しいです。
「ふふっ。
エスカのご機嫌は直ったかしら」
「ご機嫌? そうだ。
エスカはぷんぷんだった」
にこやか笑顔で音痴な私の謳い方を真似たエスカは、ファティマの一言でぷんすかモードに戻りかけた。
ファティマも言わなければ良かった気がしたが、念話でエスカと話し合いたいと届いたので静観しときます。
「あら、エスカはまだご機嫌斜めなのね。
ですけど、わたくしはもうフィディルとレオンを許してあげて欲しいと思っていますのよ?」
「なんで?
フィル兄とレオ兄は、マスターが怪我した原因になっちゃったんだよ?
反省は大事だよ?」
「そうですわね。
反省は大事ですわ。
けれども、フィディルとレオンに、ごめんなさいと言わせないのは、違うと思わないかしら」
ただいま、フィディルとレオンは私との接触禁止をエスカからくらっている。
ニ柱がおとなしくエスカに従っているのも、やはり原因となってしまった事が理由でもある。
一番の理由は、エスカにギャン泣きされておバカと連呼されたからだけどな。
特にレオンはかなり凹んでいた。
エスカが大地の上位属性の大精霊ってのもあるけど、レオンはエスカを妹的な存在と認識しているしね。
先代の樹木の大精霊が分体のエスカに役目を押し付けて代替わりした一件で、止められないでいた不甲斐なさを今でも引きずって悔いているのは内密にしている。
ゆえに、先代の件もあり、レオンはエスカに批難や批判されると、極端に凹む。
ましてや、おバカと連呼されたりしたら、ますます凹む。
知っている私も、エスカのご機嫌が早く直り、レオンを許してあげて欲しくておとなしくしていた面もあった。
私が許してあげてと説得するのは簡単だ。
マスター至上主義のうちの子達だから、私のお願いには甘くなる。
ただし、私の主張を叶えて、内面の不満解消が中途半端なままな精神状態は、本来大精霊が持ち得ない精神状態異常発生に陥りやすくなる。
これを忌避したかったので、私は仲介をしないでいた。
ファティマはエスカの不満を把握しつつ、優しく諭す様に話しかけていた。
「……エスカ、ごめんなさいを言わせてあげてないの?」
「えぇ、そうですの。
確かに、確認を怠ったフィディルとレオンも悪かったとの、エスカの主張は理解できましたからわたくしもお小言をしましたわ。
ですけど、フィディルとレオンにも、理由はあってのこと。
一方的に断罪して、マスターにごめんなさいを言わせないのは……。
あら?」
ファティマの問いかけの途中で、エスカの姿が消えた。
さほど、遠くない場所からエスカの泣き声が聞こえてくる。
ごめんなさい〜。
「ティア姉。
ユリスも、ごめんなさいした方がいいのかな?」
「……セレナも」
「あらあら。
ユリスもセレナも悪かったと思うのでしたら、ね」
次に、ユリスとセレナも姿を消した。
ごめんなさいが、連呼される。
ふふふと、ファティマが笑う。
ごめんなさい連呼で、フィディルとレオンから慌てた様子の念話が飛んできた。
『雨降って地固まる、的な感じ?』
りぃが、ぼそりとつぶやいた。
私的には、策士ファティマ勝利と言わせて貰おうかな。




