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 考えないといけない。考えないといけない。一時間の制限時間。捕まえた回数が最も多い人は夕食がタダなのだ。最も少ない人が最も多く払うことになる。()めてかかると絶対後悔する。

 しかも、もっと早く(すべ)れるというのにそれができない歯がゆさ。

 しかしジワジワと迫ったり迫られたりするスリル。――より一層集中せざるを得なかった。

 そんな中で僕は、目と鼻の先にいる祐樹(ゆうき)が伸ばしてきた手を、体を()じりながらかわしつつ左へ(すべ)ろうとした時、両足がビーン! と後ろへ滑った。視界がグワン! とブレたと思えば左肩からすっ転んだ。――グワッと目を()いた。まさに内側をバラバラにされたかのようだ。仰向(あおむ)けになりながら左肩をおさえた。知らない内に大口を開けて、(うな)ってしまう。

 少し経った時、丁度左から、祐樹と藤谷(ふじたに)が滑り寄ってくるのに気づいて、その方を向いた。

 その二人の後ろで、左へゆっくりと滑っていく美喜(みき)がいた。――鼻で笑われた!!

 もう頭を抱えていた。思わず体を()った。(たま)らなく恥ずかしくて死にたくて堪らない。顔も全身も(ひど)く熱い。もういっそ死んでしまえばいい。

「櫻……?」藤谷の酷く(おどろ)いた声がして、「えっと、」とも聞こえた。

「……すごいブリッジだよ?」

「やめよう」

「……う、うん。そう、だね」藤谷の声が戸惑っていた。

「うんやめる。……僕はもう男をやめた。運動もダメなんだ。きっとヘタレなんだし」

「……えっ、そっちのことっ!?」

「そんなこと言わないでよっ」突然そう言ってきた美喜の声がクソ真面目だった。

「ウチはそのままでいいとふっ、……フフ……思うフもん。私は好きだし、……フフフフフ」

「笑ってんじゃんかよっ。ちくしょぉっ……最悪だぁ……」そう言いながら上体(じょうたい)を起こす中で、自分の(ふる)えている声が()ねているような感じになってしまっていることに気づいた。

 突然美喜が、今度は膝立(ひざた)ちで、藤谷の左肩()()を滑り抜けて急接近してきた。たまらんっ、と眉根(まゆね)を寄せ上げながら「それなのそれなのぉーっ」と叫んで――なんと抱きついてきた。

「ぇええええ!?」と思わず叫んでしまった時も、僕は美喜に(ほお)(ほお)を合わせられている。

 と、氷の床(スケートリンク)に骨をぶつけた音がした。まるで尻もちの音だった。僕は美喜に向けている目を、音のした正面に戻すと、案の定、右を正面にする藤谷が尻もちをついていた。

 そういえば、その方へ美喜に押し飛ばされたように、藤谷が尻もちをつきそうになったのが見えたのを思い出した。

 そして、藤谷にセクハラをした祐樹が美喜にかっ飛ばされるとは、想像すらしていなかった。


 ……思い出し終えていた。目をきつく閉めていた。涙がジワリと出てくる感覚がする。

 この時もだった。

 みんなと話し合ったり一緒にいたり――それだけでとても楽しかった。

 そして美喜たちとの時間がこの上ない刺激となって、少しずつ立ち上がらせてくれている。

 それだけではない。僕も誰かの力になれるようになった日まで、肩を貸してくれる。

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