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 ……今こそ、忘れていたことに対する罰なんだと、僕は眉根(まゆね)をきつく寄せた。

 でも、もう思い出せた。やることも思い出せた。もう決まっていること。|自力で歩ける(生きていける)ようになった後のこと。いつまでもどこかで、藤谷(ふじたに)と、美喜(みき)と、祐樹(ゆうき)幸生(こうき)の力になるということ。

 ――なれるのなら、今の自分まで(つな)げてくれた、今までの記憶のような存在になりたい。

 こんなところで死ねないッ。だから今まで内側に向けていた意識を外へ切り替えた。後ろへ身を(ひるがえ)した。最奥(さいおう)の、スピーカー下の出入口へ(すべ)っていった。途中、透明(とうめい)な仕切りの間から、丁度ここだけは雨避(あまよ)けのような二階席がなくて、そして踏み心地の(やわ)らかい床があるそこへ、左足から入ってもう一歩。

 突然鉄が割れたかのような固い破裂音が爆発して、特に真上から連続で叩きつけてきた。

 ハッと顔を()ね上げると、破片を吐き出すスピーカー。――体を丸めて頭を両腕で(おお)った。

 金属の(かたまり)が硬い場所を叩きつける音が、左右から(たた)みかけてくるように胸を圧迫してくる。細かくて(かた)くて、冷たくない破片の雨の叩き。さらには右手の甲に一線の熱を押しつけられた。

 ついに胸を圧迫する音が消えた、その時、僕は(くず)れるように尻もちをつくと、頭をたらした。

 全身が(ふる)えている。心臓がうるさい。……何のつもりだったんだ? 殺す気だったのか?

 しかし、それよりも右手の甲が痛い。だから左手を下ろしながら、右手を目の前へ下ろした。――筆で払ったような切り傷がある。血が一筋を描いて、手首を通りすぎている。

 ゾ、と身震いした。そして、上が気になってくる。だから恐る恐る、顔を上げた。

 見た。割れた卵の(から)の片方のような、スピーカーの網だ。生々(なまなま)しくぱっくり丸く割れている。

 (じく)を引っこ抜かれたかのような脱力に(おそ)われた。さらに、両手がだらりと床にぶつかった。

 破片のとがった箇所(かしょ)が右手の曲がった指に食い込んでいる。それさえも恐ろしい。

 急激な命の危機感に襲われたのは、ここにいては危ないと叫んでいるからに違いない。

 破片が食い込んでいても指を押しつけて、咄嗟(とっさ)に立ち上がった。そしてスケートリンクへと、危ない足取りででも戻る。早足。そうして達したリンク内に右足、左足とハの字にして入った。

 ふと、数メートル先に少年が見える。――いつからそこにいたんだ!?

 本当に小さい背で、小学生としか思えない顔で、長めの黒髪の少年が、こっちを向いている。両目がはっきりしている。まるで茶碗を横から見ているかのような、どでかいレンズの黒縁(くろぶち)メガネの右側に、長い前髪がかかっている。スウェットジャケット。(こん)のスキニーパンツ。(ひも)のない灰色スニーカーに、右手首の重量感のあるマンホールのような赤紫(あかむらさき)の腕時計。

 人のよさそうな笑顔を、嬉しそうに浮かべるそんな少年が、口を開いた。

「やっと二人っきりになれた。さあ。喜ぼう。これから先輩は喜べるんだよ?」

 ――あの時に聞いた、妙に大人びている高めの声だ。

「……君、――が!? 何でここに!? いやそれよりもどうやって!?」

「ごめんな~さい。ずっと前から先輩と話がしたくて、尾行して、こいつで侵入しちまったぁ」

 少年が左手の人差し指を、腕時計へ向けた。――腕時計(それ)が、腕脳(わんのう)だと、僕はよく知っている。

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