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第8話 もう見た強敵たち

 会場よこの医務室で、目を覚ました。歓声は……聞こえない。どうやら寝てるあいだに、1回戦が終わってしまったようだ。部屋の窓には、分厚いカーテンがかけられている。


 となりのベッドを見ると、ヴァンパイアが寝息をたてている。体を起こし……ううっ、全身が痛ぇ……彼女の、顔を見ていると。なんか、ヘンな気分になってきた。いや、そーいう意味では、ないぞ。


 心のなかの、魔族への敵意……それが、すこし薄れているような……クソッ、面妖な術(テンプテーション)でも、使われたか。ぜったいに、気を許さないようにしないと。


 とんとん……がちゃり。扉があいて、マレーネ女王が入ってくる。その音に反応して、シャルも起きたようだ。


「おふたりとも、ナイスファイト、でしたわ……2回戦は、3日後です。今日はゆっくり、お休みくださいまし。落ちついたら、宿舎に戻りましょう」


 彼女がほほえみながら、ヴァンパイアのベッドに腰をかけた。その手にはくしゃくしゃになった、比翼連理杯のパンフレット……


「どこがナイスファイトよ。あのイカれ馬の寿命が尽きなかったら、完全に負けてたじゃない。ああ、ムカつくわね……!」


 シャルが握りこぶしで、ベッドを叩いた。


「いえ、紛うことなき大健闘ですわ。ひとつは、シャルさんのヒミツがバレなかったこと。もうひとつは……やはりこのトーナメント、一筋縄ではいきませんわね。ほら、見てくださいまし。ニュートさんも、こちらへどうぞ」


 女王がパンフレットをひらき、シャルに手渡す。どうやら、トーナメント表のページのようだ。


「フン、1回戦の結果でしょ? 開会式の時点で、だいたい想像が……つく……え、これ、マジ……!?」


 驚愕の表情をうかべる彼女のそばに、えっちらおっちら寄っていって……トーナメント表を、のぞき込む。俺たち以外に、マルがついた、チームは……


「……は?」


「私たちいがいの国も、魔王城エリアの確保に、本気のようです。すでに知られている強豪ではなく、あのセントールのような……一芸にひいでた在野の猛者を、スカウトしてるみたいですの。いまから、ほかの試合の様子をお伝えしますわね」


 一気に、真剣な顔になる女王。


『……ゴクリ』



 ◇◆◇◆◇



 女王の話では、1回戦の残りの7試合は、こんな感じだった。第2試合をのぞき、人類の闘士どうしの実力は、ほぼ互角。モンスターの戦力差が、勝敗を左右したのだ……


 ●第2試合、アラクネ組vs.スライム組。


 勝負が始まったとたん、妙なことが起こった。スライムが、一気にそのサイズを縮め……ちょこんと、パートナーのサムライの肩に乗っかったのだ。


 ゆったりと前進するサムライは、襲いかかるアラクネの爪や牙、雨あられと降りかかる糸を、こともなげにかわし――シーフの投げてくる短刀も、後ろに目が付いているかのように、避け――


 あっさりと、アラクネ――シュピンネの胴体を、袈裟斬り一刀両断。……するが早いか、横にステップ。


 つぎの瞬間、彼がコンマ数秒前までいた場所を――クモの体内から飛びだしてきた、寄生バチ型モンスターの毒針がつらぬいた。


 アラクネの、奥の手……グレーゾーン上限ぎりぎりの、秘中の秘である。


 刀をひっくり返し、今度は切り上げ。ワスプ型モンスター(おかわり)を仕留めた、サムライは……


「おーい! これは、ルールてきにアリなんかの――!」


 と叫んで、刀をぬぐい退場していった。アラクネチームの後援国が、ハチャメチャなブーイングを浴びたのは、言うまでもない。


 ――――――――――――

 1回戦第2試合

 〇13373(スライム)&サジ(サムライ)

 vs

 ✕シュピンネ(アラクネ)&??(シーフ)

(0分47秒 決まり手:逆袈裟斬り)

 ――――――――――――



 ●第3試合、ラミア組vs.トレント組。


 試合開始と同時に、ラミアが下半身のバネを使って、大きくジャンプ。敵を上空から襲わんとするも、トレント――メアーディの足もとから伸びあがった何本もの竹が、彼女の蛇体を貫いた。


 もんどりうって倒れこんだラミアに、トレントの体から生まれ出た、これまた大量のつる草(アイビー)が巻きついて……勝負あり。


 ラミアが絞め殺されそうになってギブアップという、皮肉な結果に終わってしまった。


 ――――――――――――

 1回戦第3試合

 〇メアーディ(トレント)&ニシキ(ニンジャ)

 vs

 ✕ザムルサ(ラミア)&??(武闘家)

(0分39秒 決まり手:ヴァージャ・チョーク)

 ――――――――――――



 ●第4試合、セイレーン組vs.キュウビ組。


 セイレーン――ピエスィニアが、のどに両手を当て、口をひらいて数瞬後。会場から、いっさいの音が消え……九尾のもふもふしっぽの1本が、突如として中ほどから爆裂した。間髪いれず、2本目――


 舞い散る血煙。無音のなか、痛みにのたうち回る九尾――ティエンコンと、バフをかけようと焦る相棒の吟遊詩人(バード)


 しかし彼も、パントマイムよろしく、口をぱくつかせるだけで……九尾が四尾になったとき、ひざまずいて、手でバッテンを作った。


 ――――――――――――

 1回戦第4試合

 〇ピエスィニア(セイレーン)&バノッサ(バーバリアン)

 vs

 ✕ティエンコン(九尾)&??(吟遊詩人)

(1分35秒 決まり手:カタストロフィック・シンフォニー)

 ――――――――――――



 ●第5試合、リザードウーマン組vs.ノッカー組。


 リザードウーマン――バシリツァの、渾身の爪撃をかいくぐったノッカーが、トカゲの腹部にでこぴんのモーションで攻撃。


 鱗がボトボトとはがれ落ち、目と耳と口から血を流したリザードウーマンが、その場に倒れ伏す。


 仇と討たんと迫るナイトにも、でこぴん。フルプレートアーマーが、兜をのこしてくだけ散り――両者失神。ノッカーは、「ざぁこ――!」とひと言残して、去っていった……


 ――――――――――――

 1回戦第5試合

 〇ユウェル(ノッカー)&ケケレ(あそびにん)

 vs

 ✕バシリツァ(リザードウーマン)&??(ナイト)

(0分49秒 決まり手:ざこぴん♡)

 ――――――――――――



 ●第6試合、オーク組vs.ミノタウロス組。


 まずは一発殴らせてやるとばかりに、お腹をぽんぽんと叩いたミノタウロス――ハラヴの腹筋を、アンマーの正拳突きが貫いた。


「あら、まあ……! 食べ物を粗末にするから、こんなよわっちいんだわさ!」


 吐しゃ物の海に沈んだミノタウロスの頭を踏みつけ、オークが勝ち名乗り。パートナーのウォーロックも、戦意喪失で短期決着となった。


 ――――――――――――

 1回戦第6試合

 〇アンマー(オーク)&ネザリウス(ネクロマンサー)

 vs

 ✕ハラヴ(ミノタウロス)&??(ウォーロック)

(0分20秒 決まり手:せいけんづき)

 ――――――――――――



 ●第7試合、ドラゴン組vs.オーガ組。


 両手をひろげ、のしのしと巨大な竜に近づいていくオーガ――モゲウイの体が、謎の力で上から潰され……せんべいのごとく、ひしゃげた。


 そのまま丸呑みにせんと食いつくドラゴン――ナールングを、係員がけんめいに制止し……オーガの救助作業が完了するころには。相棒のソードウォリアーの足もとに、汚い水たまりができていた……


 ――――――――――――

 1回戦第7試合

 〇ナールング(ドラゴン)&ボドカーマ(ボウマン)

 vs

 ✕モゲウイ(オーガ)&??(ソードウォリアー)

(0分44秒 決まり手:丸吞み)

 ――――――――――――



 ●第8試合、サテュロス組vs.ミミック組。


 ミミックの能力は、彼女がこれまで見たことがある格闘術を、まねて使いこなせるというものだった。

 パートナーの魔術で強化された、東西南北あらゆる流派の武術が、サテュロスに襲いかかる――


 しかし、しょせんはコピー拳法。すべての攻撃を右手一本でさばききったリンケの回し蹴りが、ミミック――カズィブの、(あごさき)を撃ちぬく。


 くずれ落ちる、彼女――ひとつの武術を極めたタツジンの前には、無力であった。


 ――――――――――――

 1回戦第8試合

 〇リンケ(サテュロス)&アレン(アルケミスト)

 vs

 ✕カズィブ(ミミック)&??(エンチャンター)

(1分59秒 決まり手:ケイシャーダ)

 ――――――――――――



 ◇◆◇◆◇



「ふーん。わ、わたしの予想通りね……」


「嘘つけ嘘! さっき『これ、マジ……?』って、言ってたよな!? 全員、バケモンじゃねえか……! ああ、もう、おしまいだぁ……!」


「落ちついて、くださいまし。まずは、2回戦……あの謎のスライムとサムライを、どう突破するか、ですわよ……!」


 負ければ、国家滅亡の危機。さらなる死闘の予感に、すっかり“勇”をなくしてしまった、勇者のムスコの俺であった……

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