第3話 偽翼恋理のヴァンパイア
「ではこれを持って、ついてきてくださいませ……シャルさん、入りますわね」
マレーネ女王が、装飾のほどこされた箱を俺にわたし……こんこん。ドアをノックして、開けた。
カーテンが閉めきられた小部屋のなかには、ベッドがひとつ。その上には、
「なっ……!?」
先ほどの高慢ちきなヴァンパイア少女、シャルが上半身ハダカで、うつ伏せになって寝ていた。ちょうど、エステを受けるときのような姿勢だ。
いったい何がはじまるのかと、動揺する俺。女王はベッドの横のイスに、腰をおろすと、
「ではニュートさん、箱をあけてくださいまし」
冷静に言いはなった。
箱をベッドにおいて、おっかなびっくり開く。その中に、おさめられていたのは――
「これは、羽……!? デカいぞ、まさか、ハーピーの……!」
巨大な純白の羽毛が、数百本。しかも羽軸――ふわふわした場所と、逆――は、するどい鉄製の串で補強されている。
「ご名答ですわ。今からこれを、シャルさんの翼に余すところなく取りつけ……ハーピーということにして、出場していただくという算段ですの。ハーピー族の長老たちには、話はついています。人類連合の議席は、彼女たちの悲願ですからね……最強のかくし玉ハーピーがいると言ったら、ふたつ返事でオッケーでしたわ」
女王が、ロウソクに火をつけながら説明。
「は、はぁ……」
ダイタンすぎる作戦をきいて、あいた口がふさがらない俺。たしかに、人類と交流がふかいハーピー族が参政権を求めているというのは、聞いたことがあったが……
「では、いきますわね。わたくしは、右の翼。ニュートさんには、左の翼をお願いいたしますわ。シャルさんがヴァンパイアだということは、私たち2人だけの秘密……ほかの人にやらせるわけには、いきません。では、シャルさん、準備はよろしくて?」
「……さっさと、しなさいよ」
「休憩が必要なら、いつでも仰ってくださいまし」
言うがはやいか女王は、手もとのロウソクで羽軸の串をあぶると……ぶすっ。ヴァンパイアの右翼に、ハーピーの羽毛をぶっ刺した。
「……っ」
シャルのカラダが、びくんと震える。
「シャルさん、大丈夫ですか?」
「ぜんぜん。何ともないわ。さっさと2人がかりでやって、終わらせてよね」
気丈に返事するヴァンパイア。いやいやいやいやいや、ぜったい痛いだろ、これ! 人道的に、大丈夫なのか!? あ、魔族だから、人じゃないか……
「あの、女王さま、型をとってすぽっと被せるとか、せめて、接着剤で付けるとかは……」
ああ、何を言ってるんだ俺は。人類の不俱戴天の敵、ヴァンパイアに痛い思いをさせられるなら、本望じゃないか。
「フン。なに、バカなこと言ってんの。被せものの羽で、どうやって空を飛ぶのよ。接着剤とかロウで付けても、戦ってるうちにボロボロ剝げてくるだけじゃない。これがいちばん、確実な方法なのよ」
シャルが言いかえしてきた。
「ぐうっ……」
「え? あらら、もしかして……ビビってんの? 両親の仇とか言っときながら、羽根ひとつ刺せないんだ。うわぁ、なっさけな~い……勇者の息子が、聞いてあきれ――」
どすっ。
「……っ!」
ハーピーの羽根を握りしめ、思いっきり突き刺す。彼女のカラダがビクンと跳ね、両手を握りしめるのが見えた。ふん、いい気味だ。このクソ魔族め。さあ、ぶっ刺しフェスティバルだ……!
「……ニュートさん、ちゃんと消毒をしてくださいまし。あと見た目が不自然にならないよう、向きにお気をつけあそばせ。シャルさんも、すこし黙りましょうか」
無表情で、作業をつづけるマレーネ女王。
「……っ!」「……っ!」「……っつう!」
コウモリ翼が、羽毛で白く染まっていく。出血は……ないようだ。ヴァンパイアの能力で、止血をしているのだろうか。こざかしい真似を、するものだ。
彼女の背中にうかぶ、あぶら汗。握りしめた両のこぶしは、羽毛と同じぐらい白く。ははっ、ざまーみやがれ。その顔が見えるように、鏡でも置いておけばよかったな。
――数時間後。ようやく、羽毛をおさめていた箱がカラになった。
コウモリ翼は……うおっ、すっげーっ! 誰がどう見ても、ハーピー……いや、架空のエンジェルと言っても、立派に通じるだろう。まあ、コイツは天使とは真逆の存在なんだが。
マレーネ女王が、左右の違いがないかどうかチェックして、
「うん、いい感じ……ですわね。シャルさん、お疲れさまでした。今日は、ゆっくりお休みください。いつもの部屋に、棺を用意してありますわ」
「……はい、どーも……」
ふらふらのヴァンパイア。
「あ、そうでした。今日から護衛もかねて、ニュートさんがおなじ部屋に泊まりますわね。棺は中からカギが掛けられますから、ご心配なく」
「……護衛とかいらないけど。勝手にすれば」
ときどき壁に手をつきながら、王宮の闇に消えていった。
「ちょ……ちょっと、女王さま! アイツと、同じ部屋……!? 聞いてませんって! 俺、イヤっすよ!」
ヴァンパイアが見えなくなってから、怒りの抗議。女王はそれを無視して部屋のすみっこに行くと――1本の、剣を引っぱりだした。うむを言わさず、俺に渡してくる。
彼女は、厳しい顔で――
「もういちど言いますわね。ヴァンパイアをかくまっているのは、私たち2人だけの秘密ですの。ぜったいに、彼女のことが表沙汰にならないようにして下さい。誰かにバレそうな場合は、口封じをしても構いませんわ」
「……」
「あと、ニュートさん。あなたの役割は、護衛などではありませんよ。万が一、彼女が尻尾をまいて……尻尾は、ないそうですが……逃げようとしたら、すぐに始末してくださいまし。それは、螺旋剣メイルストロム……あなたのお父さまも使っていたことがある、わが国の国宝ですの」
「……! このニュートに、お任せください。見張りの大役、バッチリ果たしてみせましょう」
「大変けっこうですわ。では、お休みなさいませ」
◇◆◇◆◇
その夜。俺は、なかなか寝つけなかった。いつ、そこの悪趣味な棺からヴァンパイアが飛びだしてきて、寝首をかかれるか分からないからだ。
螺旋剣メイルストロムを抱きしめて、ベッドにすわっている、俺の耳に……
「……ううっ、ひっ、ひぐっ、いたい、いたいよぉ……」
棺のなかから、シャルの泣き声が聞こえてきた。どうやら、棺が防音だと勘ちがいしてるっぽい。
ふん、俺の国にすり寄ってきたばかりか、散々バカにしやがって。せいぜい、苦しむがいい。
「ぐっすん……ひっぐ……こわい……さみしい、さみしい……」
「……」
「たすけて、おかあさま、おかあさま……あいたい、あいたいよぉ……」
どんどんどん。彼女の、棺を蹴りつける。がちゃっ。フタがあいて、真っ赤な目のシャル。
「おい、外に響いてるぞ」
「……ッ!」
ばたん。フタがしまる。そこから先は、朝まで……なにも、聞こえてこなかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
ブクマや感想・評価など頂けたら、励みになります!




