第2話 ~負ければ国が滅び去る~
「お、俺が、比翼連理杯に出場おおおお――っ!?」
開会式にさかのぼること、1週間。俺――ニュート=ダルベック――は、夜の王宮の一室で、素っ頓狂な声をあげていた。
「しっ、ニュートさん、声が大きい……ですわよ。ギリギリまで闘士の情報はヒミツにして、少しでも戦いを有利にすすめませんと……ね」
目のまえに座っている、マレーネ女王が唇のまえに指を立てる。王とはいっても、姉と母親と友人と教師をごっちゃにしたような間がら。
俺の両親が10年前に戦死してから、いろいろと面倒を見てくれているのだ。
「国史編纂室みたいなところ……ド閑職に、追いやっておいて……今度はいきなり、あの国対抗トーナメントに出ろだなんて……いや、女王さまの命令なら、なんでもやりますけど……」
「ごめんなさいね……ニュートさんがお父さまと同じぐらい強かったら、近衛兵団とかに入れてもよかったんですが。率直に言うと、あなた、実力のわりに死んだときのリスクが高すぎますの」
「あーあ、分かってますよ。勇者と聖女のひとり息子を、失うわけにはいきませんもんね」
この国出身の、俺の両親――勇者グランと聖女エリス――は、人魔戦争の最終局面で帰らぬ人となった。いまだに、遺骨や亡きがらも見つかっていない。
「まあまあ、そう腐らずに……」
ほほえむ女王。久しぶりにこの顔が見れただけで、呼びだされたかいがあるというものだ。
「……で、なんで俺なんすか? いやまあ、確かに、剣と魔術には自信がありますけど。騎士団長さんとか、宮廷魔術師長さんとか、諜報員のあの人とか……もっと、強い人いますよ」
彼女が、真剣な顔になる。
「そこです。大陸16国のうち国力ダントツ最弱の、わが国ですが……ここにきて千載一遇の、勝ちの目が出てきましたの。詳しくは……どうぞ、お入りなさいな」
女王がぱんぱんと、手をたたく。奥のとびらが、ガチャリとあいて――
「コイツが、勇者の息子……ね。なんか、フツーってかんじ。ああ、でも……やっぱり、いい匂いがするわ」
金髪ツインテールに、深紅の瞳。ゴシック風のドレスに身をつつんだ少女が俺のそばに寄ってきて、くんくんと鼻を鳴らした。
いっけん、お人形さんのような可憐な姿だが……背中には……巨大な、コウモリの、翼……
「魔族!? う、嘘だろ……!? 10年前に、魔界に逃げてったはずじゃあ……! 女王さま、わるい冗談は、やめてくださいよ……!!」
話すうちに、ちょっとだけ冷静になってきた。ははーん、さては俺をビビらせるつもりだな。彼女らしからぬ、悪趣味なイタズラだ。椅子から立ちあがり、魔族コスプレ女の、羽をむんずと――
「汚い手で触るんじゃないわよ、血袋」
ぺちん。払いのけられてしまった。
「何しやがる、この……!」
気色ばむ俺に女王は、
「ニュートさん、紹介いたしますわ。彼女はこの世界に残った、おそらく最後の魔族……吸血種、ヴァンパイアの……えっと……」
「シャルラーハフィン=シャルシールよ。発音しにくかったら、シャルでいいわ。この世界の人間ごときに名前を省略されるのも、ムカつくけどね」
「ほ、ほんとうの、魔族……! おのれ、両親の、カタキ……!」
腰に手をやって、執事に剣を預けてしまっていたことを思いだす。なら、魔術で……!
「おやめなさい、ニュート。まずは、私の話を聞いてくださいまし」
「ぐうっ……!」
女王に制される。
「知ってのとおり、こんどの国対抗タッグトーナメント……比翼連理杯に勝てば、旧魔族支配エリアの、中心部の領有が認められますわ。魔王城あと地も含めて……ね。で、わが王国は存続のために、そこを確保しないといけませんの」
「は、はぁ……それは、いったいどういう理由なんですか」
なんか、話のスケールがどんどん大きくなっていく。
「魔族がこの世界からいなくなって、10年……人類どうしの戦争が、起ころうとしていますわ。我が国にとなりあう、4つの大国……それらが、ひそかに侵攻の準備を、始めているとのこと。このまま順調にいけば、数年後には……攻められて分割統治でしょうね」
「そ、そんなぁ……!」
せっかく数十年かけて、魔族を駆逐したのに。人類の50パーセントが、失われたのに。また、戦争……!
「では、ニュートさんに質問です。この国が攻められないようにするには、どうすればいいと思いまして? 先制攻撃は、ダメですよ」
「うーん……同盟……それか、強力な、抑止力……秘密兵器、とか?」
彼女は、再びほほえんで……
「さすがです。じつは、ここだけの情報なんですが、魔王城の地下には――」
「魔界につづく次元ゲートの、最後のひとつがあるのよ。ものすごく念入りにカモフラージュされてるから、まだ見つかってない。たぶん、あと1回か2回ぐらいは起動できるわ」
ヴァンパイア――シャルが引きついで説明。うおっ、そんなヤバいブツが、マジか……!
「なるほど、分かりました。魔王城エリアを手に入れて、ゲートをブッ壊すんですね」
「うーん、ぜんぜん違いますわ。我々が魔王城あと地を手にいれたあと、ゲートの存在を公表すれば、どうなりますか?」
やれやれ、という顔の女王。ヴァンパイアも、あきれ顔だ。コイツめ……!
「あっ……まさか、最強の、抑止力……! うかつには、この国を攻められなくなりますね」
「ニュートさん、ご名答ですわ」
胸の前で手をあわせる、マレーネ女王。だが、その目はどこか寂しそうだ。魔族の遺物をつかって大陸各国をおどすことに、彼女も思うところがあるのだろう。
「んで、私の目的はゲートを起動して、魔界に帰ること。この女王サマと、利害が一致したというわけ。アンタたちのためにほかの出場チームを、蹴散らしてあげるわ。ありがたく思いなさい」
シャル――ヴァンパイアが腕組みをしながら言う。
「ちょっと待ってください。うちの国とこの……コイツが、魔王城ゲートを求めてる理由は分かりました。でもトーナメントは、人類の男性とモンスターがペアで出場する、はずじゃ……ま、まさか……」
女王が、立ちあがり――
「ニュートさん、このヴァンパイアといっしょに、比翼連理杯に出場してくださいまし。ご両親の仇と手を組むのが嫌なのは、百も承知……でも、この国を助けると思って……お願いいたします」
そう言うと、床に両手をついてひざまずいた。俺が生まれてはじめて見る、マレーネ女王の土下座だ。
「や、やめてください……! そもそも、なんで、俺……? 勇者の血筋だから、戦いを通じて覚醒するかも……とかですか?」
俺も床に両ひざをついて、彼女に寄りそう。すると、ヴァンパイアが上から、
「それは、私が説明するわね。アンタの父親、勇者の血なんだけど……当時のヴァンパイア族に、飲んだ人がいるのよ。そしたら、メチャクチャ力が湧いてきたらしいのよね。その息子のアンタなら、同じような効果が期待できるじゃない?」
「な、なんだと……!?」
彼女を見あげる。
「べつに血を飲まなくても、この世界のモンスターと人間ごときに、私が負けるはずないわ。でも、どーせなら、楽に勝ちたいじゃない。血袋として、有効に活用してやろうって言ってんのよ」
唇のはしをつり上げて、せせら笑うヴァンパイア。
「ぐうっ、貴様……人間を、舐めるなよ……!」
「ふん、私たちだって、別のセカイの人間よ。さあ、さっさと決めなさいよね。女王サマは、もう納得してるんだから」
顔をあげて、うるんだ目で俺を見つめるマレーネ女王。俺は、うんうん唸って――唸りまくったあとに――
「仕方ない、国のためです。分かり、ました……」
弱々しく、そう言うしかなかった。
「ううっ、ぐすっ、ニュートさん、ありがとう、ございますわ……!」
「フン、どんな大会か知らないけど、血だけくれれば文句ないわ。ぜんぶ、私がワンパンしてあげる。ああ、それにしても、たまらない匂い……」
じつのところ、引きうける以外に選択肢はなかった。もし断ったら、機密保持のために女王は、俺を殺すだろう。ひそかに魔族――ヴァンパイアをかくまうなんて、国際犯罪レベル……ん?
「あの、女王さま。出場するのは、いいんですが……ヴァンパイアを出した時点で失格……っていうか、それこそ世界の敵……攻められて即、滅亡では?」
女王のひとみに、なぞの光がはしった。
「問題は、そこですわ。私とシャルさんで、考えて……とっておきの、策がありますの。シャルさん、となりの部屋に行って、準備してくださいまし」
「……分かったわ」
真剣な顔にもどったヴァンパイアが、ドアの向こうに消えていく。とっておきの、策……? なんだろう。
何かすごく、危ない予感がする。勇者のカン――正しくは、勇者の息子だが――が、そう告げていた。
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