第1話 モン娘・曇らせ・ころしあむ!
ずぶり。
彼女の2本の犬歯が、俺の首――右がわの動脈をとらえた。
今までのような、すこし力を奪うための、浅い口づけじゃない。
骨に届くほど深く、もう二度と抜けないほど深く。
びゅくり、びゅくりとほとばしる血。それを、彼女は一滴もこぼさず飲んでいく。
頬が濡れる。俺の涙ではない。
両腕ですがるように抱きしめ、肩をふるわせながら、彼女は俺を飲みつづけている。
命に届くには、あとどれぐらいだろうか。
……ああ。ありがとう。
俺はもうない右手のかわりに、残った左手を持ちあげて……彼女の金色の髪をなでた。
◇◆◇◆◇
「では、続いて人類の闘士とともに戦う、モンスターの皆さまをご紹介しまあああ――す!」
『うおおおおおおお――っ!』
直径約300メートルの、巨大な石づくりの闘技場。その中央に等間隔で並んでいるのは……16組、32体の影。実況席から、アナウンサーのバンシーが声を張りあげて煽る。
魔力をおびたクリスタルで増幅された、彼女のクソデカボイス。それにも負けない大歓声が、周囲360度、超満員の客席からあがった。
「1回戦第1試合に出場しますのは……まずはハーピー族代表、シャル!」
「……はい」
俺のとなりに立っている、背中から白い羽を生やした少女。左手で日傘を持っている彼女が右手をあげ、ちょっとだけ気だるそうに返事をした。
彼女の、見た目だけはマシな横顔に、ちらりと目をやる。なにをかくそう、コイツはハーピーなどではない。人類の天敵にして、俺の両親のかたき……魔族、ヴァンパイアなのだ。
人魔戦争が終結し、魔族たちが魔界に逃げかえったあと。この地上にとり残された、さいごの1人のヴァンパイア……
やむを得ない理由で、俺は彼女とタッグトーナメントを、優勝まで勝ち抜かないといけない。
ああ、さっさとぜんぶ終わらせて、コイツの心臓に剣をブチ込みたい……そう思う俺をよそに、モンスター闘士たちの紹介がつづく。
「対するは……セントール族代表、エスロー!」
「はいぼほっ! ごほっ!」
俺とハーピー組の左となり、セントールの口から……鮮血がほとばしった。パートナーの戦士が、心配そうに彼女のカラダをなでている。
おいおい、ガチの重病人じゃねえか……なんでこんなヤツが、種族代表としてここにいるのやら。まあいい、1回戦は、楽勝だな。
「つづいて1回戦、第2試合……節足モンスター族代表、アラクネのシュピンネ!」
「ククク……」
蜘蛛の下半身に、女性の上半身が乗っかっているモンスターだ。
「対するは、ウーズ族代表、スライムの……えっと……これ、名前でいいのよね……13373!」
「……」
女性のフォルムをした、青いゼリー状のモンスターがぷるぷる揺れている。どー考えても、勝つのはアラクネだろう。生物としての、格が違いすぎる。
「第3試合……ラミア族代表、ザムルサ!」
「まだるっこしいのう……はやく始まらんのかえ」
ヘビの下半身に、これまた女性の上半身。
「対するは、植物モンスター族代表、トレントのメアーディ!」
「やってやるぜぇ……」
木の幹から、女性のカラダがのぞいている。根っこを器用に動かして入場してきた時は、びっくりしたものだ。だが、ラミアの機動力の前にはなすすべもないだろう。
ここから先は、距離がはなれているので、モンスター闘士たちの声は聞こえない。
「第4試合……海洋モンスター族代表、セイレーンのピエスィニア! 対するは、東方妖怪族代表、九尾のティエンコン!」
大妖怪の九尾を見たときは、おどろいた……まあ賞品を考えたら、出てくるのも当然か。セイレーンは、ご愁傷様だ。
「逆のブロックにいきまして……1回戦第5試合! デミヒューマン族代表、リザードウーマンのバシリツァ! 対するは、ゴブリン族代表、ノッカーのユウェル!」
『ざわ……ざわ……』
ざわつく会場。いったい、どうしたのだろうか。
「……ユウェル選手は、やむを得ない事情で、遅刻とのことです。かわりに、魔導通信をいただいております。えっと……『こんなザコしかいない開会式なんか、行ってもムダ。挨拶で気持ちよくなっちゃうなんて、頭よわよわじゃん♡』だそうです……ああっ、物を投げるのは、おやめください――!!」
……たいした自信だが、しょせんは鉱山で働くゴブリン。種族みな戦士のリザードウーマンに、フルボッコにされるのが関の山だろう。
「第6試合! オーク族代表、アンマー! 対するはダンジョンモンスター族代表、ミノタウロスのハラヴ! あっ! ちょ、ちょっと……!」
『ざわ……ざわ……』
おいおい、またかよ!? 見ると、「なんてことするんだい、バチ当たりだねぇ」みたいな顔をしたオークが、地面に落ちたリンゴをバスケットに入れている。
どうやら、オークがお近づきのしるしに的なかんじで差しだしたリンゴを、ミノタウロスがはたき落としたようだ。ファイティングスピリットが、違いすぎる……順当に、ミノタウロスの勝ちだろう。
「第7試合……ドラゴン族代表、ナールング! 対するは、鬼族代表、オーガのモゲウイ! ナールング選手、開会式が終わるまで、お食事はご遠慮くださぁい……」
……今さらながらあのドラゴン、デカすぎるだろ。あんなんで、まともに動けんのか? しかも、開会式だってのに羊を持ちこんでガツガツ食ってるし……意外と、オーガのほうが勝っちゃうかもな。
「1回戦、第8試合! 最後を飾るのは……妖精族代表、サテュロスのリンケ! 対するはシェイプシフター族代表、ミミックのカズィブ! リンケ選手、立てますか? おーい……」
顔を向けると、サテュロスが地面に座りこんでいる。近づいたパートナーの腰から、ビンを引ったくって……飲みはじめた。
あれは、酒……なのか? なんて、緊張感のない……闘技が成立するのかすら、怪しいもんだ。
「……以上、16組! 人間とモンスターのタッグバトルトーナメント、“比翼連理杯”を、これより開催いたしまああああ――す!!」
『うおおおおおおお――っ!』
「なお、優勝チームの後援国には、旧魔王城エリアの領土!! 優勝したモンスター種族には、人類連合の永久議席が与えられまあああああ――っす!!」
『うおおおおおおお――っ!』
さて、このあとすぐ、俺たちの試合だ。魔族――隣のヴァンパイアの圧倒的パワーでもって、ちゃちゃっと優勝。そのあとはスキを見せた瞬間、コイツをブッ殺してめでたし、めでたしだ。
信じてくれた女王さまのためにも、絶対に負けられない。俺とヴァンパイアはひと言も交わさないまま退場して、出場選手の控え室へと向かった。
※本作は、依存症、難病、動物の死、肉親の死、性被害、摂食障害、火災などを示唆するハードな描写を含みます。注意してください。
※本作に登場する医療行為は、ファンタジー上の演出を多分に含んだ仮想のものです。
※本作は、法律・法令に反するいっさいの行為を容認するものではありません。




