第27話 魔族からは逃げられない
そのあと数日間、俺とシャルは治療に専念した。コロッセオの毒木の除去に時間を要したのは、もちろんだが……
ノッカー組とサテュロス組が、連名で試合順延の嘆願書を出し……大会のイメージアップを狙った運営が、それを受けいれたからだ。
俺のカラダの変化は、というと……ビックリするぐらい、何もなかった。
彼女の話によると、ヴァンパイアの細胞が定着するまで、時間がかかるらしい。前例が少なすぎて、どれぐらいで魔族化するのか分からないとのこと。無責任、きわまりない。
トレントのパートナー……ニンジャのニシキは、ぶじ助かった。気絶していたのが幸いして、毒ガスを吸いこむ量が少なかったのが理由だ。
「いざという時は、拙者の火遁の術でメアーディを燃やして、敵を道連れにする手はずだったのでゴザルが……じっさいにその時がくると、体が動かず……ううっ……まさか、あの子じしんが……」
見舞いにきた彼が、そう言っていた。そんなに負けたく、なかったのか……っていうか、コイツも火属性だったのかよ。手裏剣じゃなくてファイアボールをシャルに当てられてたら、終了だったな。
で、俺とシャルの関係は、というと……まあまあいい感じに、ギクシャクしていた。ギクシャクというか、俺がひたすら避けていた。
理由は、ほかでもない。あと1ミリでも好感度が上がると、間違いなく彼女を殺せなくなってしまうからだ。
命を助けてもらったのは、おたがいさま。魔族化してしまった分、俺が負い目を感じる必要はない。だが……
大量の血液を、分けあった影響で……今までおぼろげにしか見えていなかった彼女の記憶が、ありありと認識できるようになってしまったのだ。
物心つかないうちから異世界に連れてこられ、強硬派の旗じるしとして軍に同行しつづけたこと。母親の死を、目のまえで見とどけたこと。
辺境伯にとらえられ、せっかんを受けながら隣人のドミナと、絆をはぐくみ……彼女の血を飲みほして、脱出したこと。その結果、ドミナの人格をいちぶ、受けいれたこと……などなど。
ヴァンパイア・ロードの娘だったことは、驚いたが……彼女じしんに、罪があるはずもなく。
「シャルなら大人しく魔界に帰って、再侵攻はしないよう説得してくれると思うので、見逃してあげましょう」などと女王に、言えるはずもなく。
じつは、あれからも事あるごとに、キッチリとシャルを殺すよう釘をさされているのだ。
俺は親愛と憐憫がごちゃまぜになった気持ちと、国代表としての責任感のあいだで、悶々とした日々を過ごしたのだった……
◇◆◇◆◇
『みなさま! 大変お待たせ、いたしましたあああ――!!! サテュロスチームとノッカーチームから、ハーピーペアの回復が確認できるまでは試合を延期したいと、申し出があり……再開が遅れましたことを、お詫びもうしあげまああああ――す!! スポーツマン・シップあふれる両チームに、大きな拍手をお願いしまあああああ――っす!!』
『うおおおおお――っ!!』(パチパチ)
『なお!! 売店にて!! ハーピーチームの、おふたり……シャル選手とニュート選手のバトル・コスチュームをイメージした、黒白まんじゅうが好評販売ちゅ……え、完売!? では、準決勝第2試合、選手、入場でえええええ――っす!!』
『うおおおおお――っ!!』
きょうも元気なアナウンサーのバンシーが、大声をはりあげている。ってか、黒白って縁起が悪すぎるだろ……またなんかの、フラグにならないといいが。
『まずは、東ゲート!! 失礼極まりないもの言いとは裏腹な、クリーンファイト! そして、それを裏付けるたしかな実力!! おに~さん、こんなちっちゃい子の試合を見て、こーふんしてるの~♡ うっわ、ヘンタイだね~♡ ……いかがでしょうか! 彼女のユニークな口調が、ひそかに愛好家たちのなかでバズりつつあります!! ワタシを分からせるヤツは、いないのか!! 永遠のマセガキ率いるノッカーチーム、出てこいやあああああ――っ!!!』
『うおおおおお――っ!!』
ぺったんこの胸を堂々と張って、ノッカーが入場。パートナーのあそびにんは……相かわらず彼女のうしろで、モジモジしている。ノッカーが貴賓席の俺を、見つけて……ちゅ♡ 投げキッスした。
『つづいて、西ゲート!! 飲む! 打つ! そして蹴る! ふだんは、臆病な小心者……いーえ、端的にダメ・モンスターと申しあげて、差しつかえないでしょう!! しかしひとたび酒が入ると、圧倒的な完成度の武術が、敵に襲いかかるのです!! わたくしの友人も、シンプルな体術でゴリ押ししてくるヤツがいちばん怖いと申しておりました!! 2面性のある彼女に振りまわされるパートナーの奮闘も、ひそかに話題でございます!! サテュロスチームの、入場で――っす!!!』
『うおおおおお――っ!!』
ボトルをあおり、豊満なバストに水滴をたらしながらサテュロスが入場。そのうしろには、頬を赤く腫らしたアルケミストのすがた。また、酒を奪われてしまったのだろうか。
メカメカしいガントレットを、たずさえた彼。背中には、ドラゴンのときに見せた筒をかついでいる。あのネクロマンサー以上の、魔導具つかいのようだな。
「ねえ、ニュート、ちょっと……いい?」
となりに座っているシャルが、すこし体をよせて俺の顔を見つめる。さすがにこの状況では、彼女を避けることはできない。いまさら離れて座るのも、不自然極まるしな……
「なんだよ」
「えっと、ね……試合が終わったら、聞いてほしい、ことがあるの。イヤなのは、分かってるわよ。でも、すこしだけで、かまわないから……ゴメンね」
そう言いながら、手をかさねてくる彼女。ううっ、魔族からは、逃げられない……!!
シャルの奥からは、「ブチころしますわよ」みたいな表情で、マレーネ女王がこっちを見ている。女王が、膝のうえに置いていたまんじゅうを、ゆっくり持ちあげ……ぐしゃりと、握りつぶした。
『では! 準決勝第2試合!! はじめえええええ――!!!』




