↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/32

第24話 見よ、コロッセオは赤く燃えている

『うわぁ――っ!! どうしたことでしょう! コロッセオが、あかく燃えております!! 突如としてメアーディ選手の生みだした樹が、すべて炎上!! 死なばもろともの、奥の手なのでしょうかあああ――! ただちに、消火班を――』


 アナウンサーのバンシーが、さけぶ声が聞こえる。だが、消火は厳しいだろう。理由は、2つある。


 ひとつは、ただでさえこのへんは乾燥地帯なのに、俺が水属性術をガンガンつかって湿度を消費してしまったこと。


 そしてもうひとつは、さっきから俺のまわりでハラハラ舞っている、シャルの唇みたいな色の花びら……うーむ、こりゃ、まいったな。


『えー、いま、情報がはいりまし……え゛!? み、皆さま、落ちおちついて下さい! あのピンク色のは……ネリウム・オレアンダーの、花とのことです!! 葉、幹、花、根、ぜんぶ猛毒の、激ヤバ植物!! とうぜん燃えた煙を吸っても……死にまぁす!! 客席防御バリアでは、ガスは防げません!! みなさん、速やかに避難してくださああああ――い!!!』


『うわああああああああ――っ!!』


 まったく落ちつかせる気の感じられないアナウンスによって、観衆がなだれをうって逃げていく。将棋だおしで、ケガ人が出ないといいが。


 俺の目の前では、満足げな顔でトレントのメアーディがこと切れている。彼女のなきがらも、みるみるうちに炎に包まれた。


 ほんらいネリウム・オレアンダーは、燃えにくいはずだが……ユーカリのように木の中の油脂を増やし、枝をぶつけてこすり合わせることで、発火温度を超えたのだろう。最期まで、迷惑なヤツだ。


 まだ俺のところまでは、煙は届いていない。いまなら、ヨユーで逃げれる。んで、たったひとつの、問題は……


「アンタ、ぜったいに、変なこと考えるんじゃないわよ――! 来たら、殺すわよ――!」


 積みかさなった燃える毒木のど真ん中に、足と翼がボロボロで動けないシャル。あと梢が燃えた影響で、上から落ちてきて気絶してる敵のニンジャが、ガッツリとり残されているということだ。


 トレントの死亡と同時に、はやにえが崩壊し……拘束からは、逃れているが。穴だらけの左脚と、樹液でくっついて動かない翼。


 彼女はなんとか、ニンジャのところまで這っていき、風魔術で煙を防いでいる。しかし風のシールドも、シャルのHPとMPが減るにつれて、どんどん小さくなりつつあった。


 むろん、にっくき魔族や敵の選手を助けてやる義理はない。俺はきびすを返し、さっさとコロッセオを脱出。


 残っている闘士のなかでいちばん強そうなセイレーンをスカウトしに、彼女のもとへ向かうのだった……


 ――完――


 そんな妄想をしながら、最後のMPをつかって水魔術を発動。ハンカチを湿らせて、それを顔に巻きつけると……煙のなかに、身をおどらせた。


「ば、バカぁ――!」


 煙の向こうから、ぱちぱちと樹が燃える音にまざって、シャルの声が聞こえる。俺の愚行の理由を、説明しておこう。


 まずは、国の評判の問題だ。パートナーを見捨ててスタコラ逃げたとあっては、かりに優勝したとしても、スポーツマンシップにうんぬんということで物言いがつく可能性がある。


 つぎに、吸血鬼バレの件。焼けあとからハーピーの羽根が燃えて、コウモリ翼のシャルの死体が見つかってしまっては、ジ・エンドだ。


 そして、俺の負けん気……っていうか、ひねくれ気質。捨て身とはいえ敵の思惑どおりにしてしまっては、なんかムカつくからな。“勇者たれ”という意味でも、ここは前ダッシュが正解だろう。


 ……ああ、テンプテーションが、効いてるなぁ……


 燃えあがりつづける毒木を、避けつつ進むこと数十秒。風前のともしびの風ドームに、到達。俺のコンディションは……すでに、限界が近かった。


 息を切らして走ったことで、大量のケムリを吸いこんでしまったこと。あと全身のキズから、毒ガスがじわじわ染みこんでくるのが原因だ。


「ごほっ、ぐふっ、ううっ……」


 喉とクチビルが痛くて、何もしゃべれない。視力も、失われつつある。2人のそばに、しゃがみ込んで……ごぼごぼと、嘔吐した。うわっ、汚ねぇ……


 口のなかに残った吐しゃ物をはき出し、ボロボロのシャルと失神状態のニンジャを、両肩にのせる。


「ひぐっ、ぐすっ、なんで、なんでよぉ……!」


 彼女が、俺の背中をぽこぽこ叩きながら泣いている。だが、ヴァンパイアの側にも問題があるだろう。


 本当に見捨ててほしいなら、さっき俺が見ている前で、ニンジャと自分の心臓を爪で貫けばよかったのだ。卑劣な、魔族……め。


 めまいをこらえ、よろよろと歩きだす。風バリアは、もうない。記憶をたよりに、コロッセオの入場ゲートを目指して……ぐさっ。俺の背中に、燃えおちてきた毒木の破片がぶっ刺さった。


「ひぃっ、ごめん、ニュート、ごめん、ね……!」


 シャルが木片を抜いて、キズを手でおさえて止血してくれている。しかしそこからも、じわじわ体内に、毒ガスが……彼女に当たらなくて、よかった。


 熱気と煙、かすむ視界のなか。俺は出口にむけて、絶望的な行軍をはじめた……



 ◇◆◇◆◇



「はなして、くださいまし! ニュートが、ニュートが……! これでは、先代勇者たちに顔向けが、できませんわ……!」


「お気持ちは分かりますが、抑えてください、クイーン……!」


 コロッセオの、一般客用エントランス外の広場。半狂乱になっているマレーネ女王を、ライオネルが羽交い締めにして止めている。まわりでは、闘士のめんめんが深刻な顔をしていた。


「私にも、風魔術の心得が、ありますの! 今からでも、助けに……はうっ」


「ごめんアル」


 彼女の首すじを……すとん。サテュロスのリンケが手刀で叩き、気を失わせた。煙がコロッセオを覆いつくしてから、約10分が経っている。みなが諦めはじめた、そのとき……


「ん……むおっ! なんと! 出てきよったわい!!」


 入口を眺めていたサジが、驚きの声をあげた。黒煙のなかから、よろよろと現れるニュートのすがた。ハーピーとニンジャを、地面に投げだし……ばたりと、倒れこんだ。


「あわわ、救護班! 応急処置と酸素! 急いでくださ――い!!」


 アナウンサーのバンシーに連れられて、スタッフが走ってくる。タンカに乗せられる、3人。ハーピーだけは、わずかに意識が残っている様子だった。


「す、すごい……これが、勇者のクソ力……いや、愛のパワー……」


「オゥフ……ニュート氏……助かる以外、ありえないですぞ……」


「ぐすっ、アンタ、マジのブレイブよ……アーシ、惚れちゃうわよ――ぅ……」


 アルケミストのアレン、ネクロマンサーのネザリウス、弓兵のボドカーマ……敵対するチームの選手たちからも、賞賛の声。


 運ばれていく3人を、その場の全員が、心配そうに見つめていた……



 ――――――――――――

 準決勝第1試合

 〇シャル(ハーピー)&ニュート(勇者)

 vs

 ✕メアーディ(トレント)&ニシキ(ニンジャ)

(12分26秒 決まり手:螺旋剣メイルストロム)

 ――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。