第20話 ダンス・マカブル
「まだブレスひとつ吐けないのかい。ドラゴンとして終わっておるの」
「お前がいるだけで、種族の平均が下がるんじゃが」
「存在自体が不快。里から出なされ」
超実力主義社会、ドラゴン族。私はどこに出しても恥ずかしい、一族きっての落ちこぼれ。
小さい爪と牙。全力で羽ばたいてそよ風レベルの翼。やわやわの鱗。耳ざわりなだけの咆哮。そして……吐けないブレス。
ただひとり戦場に出ることを許されなかった私がすがったのは……食事だった。
最初は、腹を満たす行為。けれどいつしか、拒絶された悲しさを塗りつぶす手段になった。
年月を重ねるにつれ、カラダは肥大化し……今度は、物理的な重さが牙をむいた。
踏み出すごとに腹の脂肪が波うち、膝関節が悲鳴をあげる。何十たび、節制を失敗しただろうか。
「お前は未来を自分でドブに捨てとるんぞ、分かっとるのかえ?」
族長からの言葉が、また過食のトリガーになった。
ある晩、ついに100トンを超えた私の骨格は、ついに限界を迎えた。へし折れる大腿骨、くだける骨盤、肺に突きささる肋骨……
明け方、カラダの痛みが消えていた。生命が失われる直前に発現した、重力操作の魔眼。
ああ、ギリギリで手にいれた、私の居場所。ここを守るために、敗北は許されない。
◇◆◇◆◇
「ありがとう……さいごにアンタの舞が見れて、幸せだったよ」
私が慰問団として訪れた、前線ちかくの砦。そこが魔族の反抗作戦で包囲されるまでに、それほど時間はかからなかった。
とり残された、1000人の兵士たち。不運なことに収穫期前で、ほとんど食料はなく。水がわりのラムやウィスキーだけは、くさるほどあった。いや、お酒なので、腐らないのだが……
餓死者が続出するなか、燃料をカラダに流しこみ、ひたすら踊り続けた。味方を鼓舞するための、勝利の舞。けっきょく死の舞踏にしか、ならなかったが。
「まだ、やりたいことが、たくさんあるのに……」
「なあ、この際クジを引いて、当たったヤツの……」
夜ごと聞こえる、兵士たちの断末魔。それが辛くて、さらに酒量をふやす。喉が痛み、胃が燃えるのを無視して飲みつづけた。
生きのこりが私を含めて数十人になったころ、ようやく包囲が解かれた。故郷に戻った私を待っていたのは、とうぜん……酒びたりの日々。しらふでは、ステージに上がることすらできなくなっていた。
心配する同僚に嘘をつき、自虐をおりまぜ、ひたすら酒精におぼれた。すさむ生活と引きかえに研ぎ澄まされていく、ステップと拳のキレ。戦っているときの記憶は、ないことも多いけど。
ああ、笑顔を振りまきながら、泣く私。酔いがさめた瞬間に、死ねたらいいのに。
◇◆◇◆◇
ずしん。一瞬前まで、サテュロスのリンケがいた場所。そこの地面が、わずかにひしゃげた。どしん、どしん、どどしん! 舞い散る土ぼこりをかいくぐり、サテュロスが徐々にドラゴンに近づいていく。
「見えない攻撃が出てるのは、間違いなさそうだな……やっぱり、天候をあやつる魔眼じゃないか? 1回戦のオーガがやられたのも、気圧操作で……」
「いんや。それなら、こっちまで風が届くはずじゃろう。おそらくは……」
「重力よ」「重力ですわね」「重力ですね……」
シャルと女王、サジとライオネルが解説。くそっ、俺も分かりそうだったのに……!
闇属性最上位呪文、歪極重力陣……それに相当する攻撃を、ノーコストで連射可能というのか。だが、当たらなければ――
「それにしてもあのサテュロス、恐ろしい足さばきですわ。試合前のぷるぷるしてた時とは、まるで別人……カポエイラのジンガ・ステップ? でしたっけ……」
南方の王国につたわる、踊りをベースにした武術。種族の特性と、相性バツグンというわけだ。
びしゅびしゅん! ドラゴン翼上の弓兵が、上空に向かって連射! 重力の勢いも相まって、恐ろしい勢いで落ちてくる、矢を――
「ホアチャ――!!」
『な、なんだあの姿勢はああああ――っ!!』
逆立ちになって、蹴りで迎撃! バナネイラだ! 重力ハンマー(仮)の射程範囲外に下がったアルケミストも、手持ちの筒から光弾を撃って、矢を撃ち落としている。
やはり今回も、モンスターどうしの戦いがメインになりそうだ。またたく間にドラゴンの真下に到達した、サテュロスが……
「空中殺法、いくアルよ! アイヤ――!!」
『リンケ選手、大きくジャンプ! そのままドラゴンの頭上をとって、キックの連打! ナールング選手の顔のウロコが、みるみるうちに剥がれていっておりますううう――っ!!』
「おのれ、妾の顔に、キズを……! おい、ボド! はよう何とかせい!」
「この、ちょこまかと、あったま、きたわよ――ぅ!!」
ばしゅばしゅ! 翼上の弓兵が、放った矢を――
「甘いアル!」
「あら、やだァ……!」
空中でつかんで、投げかえす! そのうちの一本が、オネエことばの弓兵の、得物の弦を断ち切った!
「いやいや、サテュロス、強すぎるだろ……! しかも、ぜんぜん落ちてこないぞ!?」
「おそらくあのドラゴンは重力操作で、自分の骨格にかかる負担を減らしていますの。と、いうことは……」
「自分の上空だけには、重力場が張れないってことね。そんなことしたら、カラダが潰れちゃうから……」
「ふーむ、敵のアタマを踏み台にして、安全地帯を確保しつつ蹴り技の連発とは。たまげたのう……」
「理論上は可能ですが、卓越したバランス感覚が必要なはず。彼女もまた並はずれた超人、いや、超モンスター……!」
感嘆する俺たちをよそに、サテュロスの猛攻がつづく。
「ハイ! ハイ! ハイィ――ッ!!」
「こ、こんな、ところで……! かくなる上は……! がああああ――っ!!」
「よ、よしなさい、ナーちゃん! ……ぐえっ!」
ずずずずん! 顔面を朱に染めたドラゴンが、意を決して自分中心の重力場を発生!
サテュロスと弓兵が、もんどりうって地面に落下! ずしん!
『ナールング選手の、謎パワーが炸裂!! これは、相撃ちねらい! おっと――』
「ぎゃああああああああ――っ!!」
とうぜん、ドラゴンへのダメージも甚大。……っていうか、もともとの重量のぶん、致命傷に近い。両ひざから竜骨が飛びだし、息もたえだえだ。
「チッ、不覚アル……」
「リンケお姉ちゃん、大丈夫!?」
駆けよってきたアルケミストが、“鎮痛”と書かれたビンを、渡そうとして……サテュロスが彼のベルトから“酒”のほうを、引ったくった。そのまま飲み干し、ふたたび臨戦態勢!
「ふぅ――とどめヨロシ!」
サテュロス、ふたたび空中に大きくジャンプ! そのまま、蹴りの体勢に――
「が……がぼっ! く、くたばれ……!!」
ドラゴンが最後のチカラを振りしぼり、首を持ちあげ……ドバァ! ごぼぼぼぼぼぼぼぼ!
『強酸ブレスだああああああああ――っ!!』
大きく開いた口からほとばしる、吐しゃ物の奔流! 胃液がサテュロスをとらえ、グズグズに溶かすかと、思われたが――
「ハイヤ――!!」
サテュロス、上空のなにもない場所をキック! 軌道を変えて、ブレスを回避! そして――
「これで……終わりネ! アチョ――!!」
くるくる回りながら落下しつつ、ドラゴンの脳天に両足蹴り一閃! くずれ落ちるナールングを、倒れ伏したまま見つめる弓兵に……アルケミストが、“麻酔”と書かれたビンの液体をぶっかけた。
両者失神、試合終了!
「あ、圧倒的すぎる……!」
――――――――――――
2回戦第4試合
〇リンケ(サテュロス)&アレン(アルケミスト)
vs
✕ナールング(ドラゴン)&ボドカーマ(ボウマン)
(3分34秒 決まり手:酔いどれアルコイリス)
――――――――――――




