第19話 みらいのチャンピオン
「う、嘘でしょ……人類・モンスター連合軍の特Aランク危険集団、屍山血河百豚衆が……土人形とはいえ、アッサリ2回戦敗退だなんて……」
試合のビジョンを見終えたシャルが、イスの上でだらーんとなった。
「何回言うんだよ、それ……」
ツッコミを入れつつも、じつのところ、俺もビビり散らかしていた。あらゆるディフェンスが意味をなさない、ノッカーの圧倒的体術と眼力。
せめて俺たちと逆ブロックのほうは、しょっぱい試合であってくれと願っていたのだが……
あと分かってきたのは、闘技者の多くが、人魔戦争で心の傷を負っているらしいこと。万が一シャルの秘密がバレてしまったら、俺や女王までも復讐の対象になりかねないだろう。
「では、映像はこれで終わりですわ。ニュートさんはお医者さまの診察をうけて、ゆっくりとお休みになってくださいまし」
『えっ、第4試合は!?』
おどろく俺とシャルに、
「見てのとおり樹木召喚と足場くずし合戦のせいで、コロッセオの地面がボロボロらしいですの。その補修のため、2回戦の最終試合は延期……あした、行われるとのこと。ニュートさんの体調がよければ、みんなで観戦にいきましょうね」
と言いのこして、マレーネ女王は部屋を出ていった。
◇◆◇◆◇
「……っつう……」
「大丈夫? 明日はやっぱり休んどいたほうが、いいんじゃない?」
「いやいや、選手が見にいかなくて、どーすんだよ。ここが、勇者のクソ力の出しどこ……いてて」
「ほらー……」
侍医の診察が、終わったあと。俺はシャルに肩をかりて、自分の部屋にむけて通路を進んでいた。その足どりはメチャクチャ重かった、のだが……
理由は、もうお分かりだろう。トーナメントに勝てるかは、別として……優勝したあと、ちゃんとヴァンパイアをブッ殺せるかどうか、ということだ。
正直、3割ぐらいは俺の手が止まる可能性があると、言わざるをえない。日に日に彼女への親愛の気持ちが、膨れあがっていくのを感じる。
こうやって、かいがいしく世話や看病をしてもらっているだけなら、まだいい。問題は、ふとした拍子に意識にチラッと出てくる、彼女のかなしい過去らしきビジョン。
魔族への憎しみは、いささかも揺らいでいない。だが、シャル個人に対しては、どうか……感情がメイルストロムの刀身のように、ぐるぐると渦を巻いている。
そもそも先ほど、「はい、ニュート」「ん……あんがと」って感じで、すんなりと肩をかりてしまった。これではアナウンサーに煽られても、しょうがないというものだ。
テンプテーションで狂わされているだけと、笑う人もいるだろう。そーいうのは、いっかい食らってみてから言ってほしい。
「……苦しいの?」
「いんや、平気だ」
顔をしかめまくっている俺を見て、彼女が声をかけてくれた。ああ、やめてくれぇ……!
◇◆◇◆◇
『みなさま! まことにお待たせ! いたしましたあああ――!! これより比翼連理杯、2回戦の最終試合を、とり行いまああああ――っす!!!』
『うおおおおお――っ!!!』
けっきょく俺は翌日、えっちらおっちらコロッセオに向かい、貴賓席から試合のようすを観戦していた。護衛も大幅増員したので、さすがにサイン会のときのようにはならないだろう。
女王の両となりに、俺とシャルが座る。そして、俺のうしろには、なぜか……
「あのドラゴン、さすがに太りすぎですね。自分の重さで足が骨折しても、おかしくないのでは……」
「じゃが、1回戦ではよう分からん攻撃をしとったぞ。ブレスでも、気流操作でもなさそうじゃったし……なんかの、特殊なスキルじゃろうな」
「あの、なんでいるんすか……」
1回戦で対戦した槍兵ライオネルと、2回戦で戦ったサムライのサジが、俺の両肩にそれぞれ手を置いて盛りあがっていた。
「まあ、そー言うな……わしらは、ハーピーチームにパートナーをやられとるからの。みらいのチャンピオンの勇姿を、しかと見守ってやることにしたぞい」
「そうです。ちょうど、私の心の整理もつきましたし。ハーピーさんとの……その……イチャイチャは邪魔しませんから、アドバイスだけでもさせて下さい」
「うふふ、うちの見習い勇者を、よろしくご指導のほどお願いしますわね」
マレーネ女王のオッケーが出てしまっては、しょうがない……彼らにシャルの秘密がバレないよう、めったなことは口走らないようにしないと。
……ってか、サムライのじいさん元気すぎるだろ。俺、かなりの深さまで斬りこんだぞ?
『東ゲート……ではなく! コロッセオをご覧ください!! 巨体のあまりゲートを通れないので、あらかじめ待機していただいております!! 頑丈なオーガをひき肉寸前まで痛めつけた衝撃は、記憶に新しいことでしょう! しかも、一歩も動かずにです!! 彼女こそ! 戦場の安楽椅子探偵にしてフードファイター!! ドラゴンのナールングと、“ミリオンステッチ”ボドカーマに、大きな拍手をお願いしまあああ――っす!!』
『うおおおおお――っ!!!』(パチパチ)
……あいかわらず、デカい。ほかのモンスターのような女性型ではなく、ガチのドラゴンが鎮座している。全長、推定60メートル。フィールドの東がわの半分ちかくは、彼女のカラダで占められていた。
サジとライオネルによると、一時的に観客席防御フィールドが解除され、上空からふわふわと入場してきたそうだ。
あの丸々と膨れあがった胴体にくらべて、圧倒的に貧弱な翼で飛べるとは、とうてい思えないが……いちおうパートナーの弓兵を、乗せられるほどの強度はあるっぽい。
『つづいて、西ゲートから入場! 1回戦でのミミックとのバトルで、ファンが急増中!! ダンサーこそが最強の格闘士とは、よく言ったもの!! デビルパピヨンのように舞い! キラーホーネットのごとく急所を撃ちぬく! 今日ついに! タツジンの奥義がベールを脱ぐのか!! 妖精族きっての武闘派、サテュロスのリンケと“無限工房”アレンが、内臓をアルコール消毒しながらやって参りましたああああああ――っ!!!』
『うおおおおお――っ!!!』
頭からヤギの角をはやした、道着すがたのグラマーな美女……なのだが、様子がおかしい。目の焦点が定まっていないし、手もふるえている。
隣のアルケミストの腰ベルトから、酒のボトルを引ったくり……彼が抵抗。何回か取りあいをくり返したあと……ぼかっ。サテュロスがパートナーを、ぶん殴り。奪いとって、ぐびぐびやり始めた。
ここにも、イチャイチャしてるヤツらがいたとは。なんか、ほっこりしてしまうな。ん……イチャイチャ? クソッ、うしろのライオネルが、余計なことを言うから。おのれ……!
コロッセオ中央まで進みでて、ドラゴンを見あげるサテュロス組。アルコールが入ったので、手のふるえはおさまっている。まるで砦とアリンコみたいな、サイズ差だ。
『では、時間いっぱいでございます!! 試合、開始いいいいいいい――っ!!!』
『うおおおおお――っ!!!』




