第17話 がんばれ♡がんばれ♡
『……』
カーテンがひかれ薄暗い、宿舎の一室。眼前のビジョンで繰りひろげられた、トレント組対セイレーン組の激戦に、俺たちは言葉を失っていた。
「……つぎの相手は、あのふざけた大木ね。私たち、本当に……いや、ぜったい勝つのよ……!」
しばしの沈黙のあと、自分に言いきかせるようにシャルがつぶやく。
「作戦を、考えないとな。少なくともさっきの戦いで見た攻撃には、ぜんぶ対応できるようにしておかないと」
対戦相手のセイレーン組も、決して弱くはなかった。いや、むしろ……セントール組やスライム組あいてなら、圧勝できるポテンシャルがあっただろう。
樹木による質量攻撃と、取れる戦術の幅広さ。そして、残忍なファイトも辞さないメンタル……! トレントの恐ろしさをまざまざと実感した、俺であった。
「では、第3試合の映像をチェックしましょうか。それともその前に、ちょっと休け――」
ぐぅーっ。
「あっ、ゴメンね……」
ヴァンパイアのお腹が、鳴った。
「シャルさん、おとといの試合のあとから、何も食べていないでしょう。はい、どうぞ」
言うが早いか、女王が上着を少しはだけさせ、首すじをさらす。
「す、すいません、いつも……では、失礼します」
かぷり。シャルが後ろから、遠慮がちに女王の首筋に噛みつき……血を吸いはじめた。
「お、おい、もしかして、今まで……」
うろたえる俺。女王が――
「あら、ニュートさん。彼女も、食事が必要なんですの。試合いがいで、勇者の稀血をつかうわけにはいきませんわ。ご存じのとおり、シャルさんの秘密を知ってるのは、私たちだけ。であれば当然、くうっ……」
「……」
数十秒後、ヴァンパイアが女王の首筋から口をはなした。彼女は、少しだけ寂しそうな表情をすると、
「どうも、ありがとう……ございました。女王さま」
そう言って、再びイスに腰をおろす。
「……よろしいですね。では、ノッカー組対オーク組の試合ですわ。いきますわよ」
ぴこん。ふたたび、記憶媒体のクリスタルが起動した。
◇◆◇◆◇
『みなさま! おまたせ! いたしましたああああ――!! 会場の清掃に時間がかかったことを、心よりお詫びもうしあげまあああああ――っす! では、2回戦第3試合! 選手! 入場でございまあああああ――す!!』
『うおおおおお――っ!』
アナウンサーのバンシーが、声を張りあげる。
『東ゲートから、まいりますのは……でこぴん一発でリザードの猛者を瞬殺した、謎のゴブリン! こんなヤツが今まで、鉱山の地下ふかくに眠っていたとは! 私いがいは、すべて雑魚!! 今日も我々は、彼女に分からせれ……失礼! 分からせられてしまうのか!! ノッカーのユウェルと、“チョロすぎ”ケケレでございまあああああ――っす!!』
『うおおおおお――っ!』
観客をあざ笑うかのようにぴらぴらと手を振りつつ、小柄なノッカーが入場。3歩うしろを、あそびにんがモジモジしながらついてくる。
『西ゲートを、ご覧ください! 戦闘民族ミノタウロスをワンパンで沈めた、戦うオカン! 恥ずかしながらわたくし、たまには実家に帰ろうと思います!! なんと宿舎では、自ら食事を作ってスタッフに振るまっているとのこと!! 何しに来たんだ、コイツ!! お残しは許さない!! オークのアンマーと、“陰の守護者”ネザリウスの登場だあああああ――っ!!』
ずっしりとした体格のオークが、堂々と歩みをすすめる。後ろに控えるのは、黒いケープに身をつつんだ魔術師。アナウンサーの煽りが、キレを増している……俺たちのときが、怖い。
モンスターのふたりが、会場の中央で拳をあわせ……試合開始エリアに、戻っていく。
『時間いっぱい! では! 闘技、開始いいいいいいい――っ!!』
試合がはじまると同時に、あそびにんのケケレがその場から離脱。壁際にむかって、走っていく。逆に、ノッカーはとことこと前進! 腰を落としたオークが、カラテの構えをとる――
「ほぅ……アンタひとりで、戦おうってのかい! 教育が行きとどいてて、たいへん結構なことだわさ! ふん! はぁっ! でりゃあ!」
ぶんぶんぶん! 流星のごときオークの打撃が、ノッカーをおそう! だが……
「え? その程度なの? ざっこ~♡」
ひょいひょい! 身軽さをいかして、全てかわしきる彼女。飛び道具メインだった第2試合とちがって、今回はアツい格闘戦が見れそうだな。
「あのオークの打撃……大振りに見えて、一発一発が正確に急所を狙ってるわ。あんなファイターがなんで、無名のままだったのかしら……」
シャルが首をかしげる。
「それが、わが国の諜報員によりますと……ずっと、育児休暇をとっていたらしいですの。私たちとは別のブロックなので、それ以上の調査は打ちきりましたが……」
と、マレーネ女王。ヴァンパイアが「ふーん?」みたいな顔をして、ビジョンに視線をもどした。
「ちょこまかと……なら、こいつでどうさね!」
どがぁ! オークが片足で、力強く地面を踏みしめる!
『これはあ――っ! アンマー選手の、震脚てきなヤツが炸裂うううう――っ!』
一帯の大地がひび割れ、その勢いでノッカーが空中に打ちあげられた!
「お゛おっと~」
「ママのところに、帰りな! お嬢ちゃん!!」
ぶぅん! 渾身の逆突きが、ノッカーをとらえ……
「よっわ~♡」
空中で体勢をととのえ、拳にあわせてデコピン一閃。ばきばきぃ! オークの右腕が、折れ線グラフのごとく、ひしゃげた!
『デコピンが決まったあああああああ――!!』
「なんだってェ!?」
驚きの表情をうかべたオークが、腕をかばいながらパートナーのもとへバックステップ! 右腕のいたるところから、骨が飛びだしている。
彼女は、ネクロマンサーが差しだした包帯を巻いて、止血すると……
「ふん、効くねぇ……やるじゃないか」
戦いはこれからと言わんばかりに、ノッカーを睨みつけた。
「な、なんなのよ、あのバカみたいな態度と、デコピンは……!!」
耐えきれず、シャルがリアクション。
「いやぁ、こればっかりは、さすがの俺も……」
「謎、ですわね……既存の武術のどれにも当てはまらない、彼女のオリジナル技なのでしょうか……」
首をひねるしかない、ハーピーチームであった。
「はい、負け確定~♡ おばさん、ざっこ~♡」
ビジョン内のノッカーが、相手チームをあおる。
「ほう、そうかい……じゃあ、切り札を出してやろうかねぇ? いくよ、ネザリウス!」
「フヒヒ……デュフっ!」
パートナーのネクロマンサーが、ローブのフードをはずし、呪文を唱えはじめる! たしかに二つ名にふさわしい、“陰”のふんいきを感じる容貌だ……!
「うっわぁ、キモ~い……敗けしか知らなそ~♡ じゃあ、がんばって魔術つかえるように、おーえんしてあげるね♡ がんばれ♡ がんばれ♡ がんば……え? ウソ……」
こんどは、ノッカーの顔が凍りついた。
ネクロマンサーの詠唱にあわせて、オークが左手でなにやら白いものをばら撒くと……ずどどどどどど! 筋骨隆々たるオーク戦士たちが、地面を割りひらいて次々と出てきたからだ。
その数、なんと……数十体以上!
『な、何が起こっているんだああああ――っ!? 当コロシアムは、厳重な入場チェックを行っているはずです!! 超ド級の召喚術だとでも、いうのでしょうかああああああ――!?』
アナウンサーが絶叫……ふと、マレーネ女王がイスから立ちあがった。
「あ、あの鎧のエンブレムは……ま、まさか……伝説の、屍山血河百豚衆ですの!?」
「え、ウソ、あいつらが、屍山血河百豚衆……!?」
シャルも目を見ひらいて、ビジョンをまじまじと見つめる。
「なんだよ、それ……」




