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第16話 世界のアイコトバは森

 ――空気が震える。


 それは、かつて世界一、美しいといわれた歌声だった。


 慰問ツアー最終日、当日の朝のこと。私を待っていたのは万雷の拍手ではなく……にび色に光る凶刃。


 過酷な戦場のせいで心の病をわずらった、人類連合軍の兵士……彼が、警備の一瞬のスキをついて襲いかかってきたのだ。


 暴漢が、取り押さえられるころには。私のステージ衣装には、赤いネクタイがかけられていた。


 最高の医療チームによって、救命措置と声帯形成手術がほどこされた。けれど、つけられた傷は、あまりにも大きく――私の歌手としての人生は、終わった。


 いくたび、自ら命を絶とうとしたか、覚えていない。


 それでも諦めず、たゆまぬリハビリの結果、手にいれたのは――美しく歌うこと()()の、すべての音を放つ能力(ちから)


 セイレーンの血とありあまる才能は、私をふたたび、舞台に押しあげた。


 ああ……また、観客を揺らせる。世界が振動で出来ている限り、私は無敵だ。



 ◇◆◇◆◇



「若木だけでも、生きて……!」


 人魔戦争の、終盤。風のささやきを理解し、大地の脈動を感じとれる一族――トレントの生息地を、大火が襲った。


 原因は、分からない。人類の新兵器か、モンスターのブレスか、それとも魔族の焦土作戦か。


 山脈を焼き尽くす、炎の舌が迫ってきたとき。逃げきれないことを悟った古木たちは、ひとつの決断をくだした。


 同胞の全員が、耐火性の樹脂をカラダの表面に分泌し……いちばん樹齢が若かった私に、覆いかぶさって守ったのだ。


 無限とも思えるほどの長い間、地獄の業火が私たちを、責めさいなんだ。


 こらえきれず、断末魔をもらす姉妹たち。ばちばちと幹が、はぜる音。


 そしてその試練も、ついに終わりの時を迎えた。


 ひとり残された私の根に、伝わってきたのは――彼女たちの灰から与えられた、無限の養分。そして受け継いだ、すべての種子。


 ああ、今度は、私がみんなの代わりに戦う番だ。



 ◇◆◇◆◇



「意味、分かんねぇ……闘技ってレベルじゃねえぞ、これ……」


 またたく間に完成した、コロッセオを覆いつくす緑のドーム。縦横無尽に走る枝のジャングルジムを使って、トレント組が仕掛ける!


 ひゅるるるる……


 セイレーンの、真うえ……頭上の枝から落下する、小ぶりなカボチャのような物体! 共鳴攻撃で、破壊――


 どっかああああああん! とどろく爆音と、飛びちる種子! セイレーンがよろめき、地面に倒れこんだ。


「爆裂する果実、スナバコノキの実ですわ……! まるで、技のデパート……!」


 ビジョンを見守る女王の顔が、青ざめている。


 セイレーンの共鳴攻撃は、固有振動数を自在に変えられるトレントの本体には届かない。トレントの切り札……リグナムバイタ木槍も、コストだか種のストックだかの関係で連発はできないようだ。


 均衡状態を破るため、どちらかが大技を撃ってくるとは思ったが、これほどとは……!


「ニンニ~ン!」


 びしゅびしゅん!手裏剣の追加攻撃が、セイレーンの肩口をとらえた。


 見ると、トレントのかたわらに控えていたはずのニンジャの姿がない。3次元の森林環境を余すところなく活用した、隠密戦術……アンブッシュ攻撃だ。


「グガアアアアッ!」


 バーバリアンがセイレーンを後ろから抱きしめ、彼女の盾になる。しかし、根本的な解決にはなっていない。


 つぎつぎと手裏剣が突きささり……バーバリアンの肌とセイレーンのドレスが、朱に染まっていく。これは、勝負ありか。と思ったのだが……


 セイレーンが相棒のバーバリアンを押しのけ、立ちあがる! 決意をひとみに宿し、ふたたび、口を開いて――


「A――A――aaaaaaaaaa――!!!」


 ぼごん。彼女が見すえる、その先。トレントの上半身が、大きくひしゃげた。


「うっぎゃああああああああ――!!」


 絶叫するトレント。つづいて、セイレーンがななめ上を向くと……どごん。


「ふ、不覚でござるぅ……っ!!」


 コロッセオ上空に、ひろがる梢。緑色のカモフラージュから吹っとばされたニンジャが、地面に墜落!


「反響定位での索敵、エコーロケーション……!」


 今度はコウモリの専門家、シャルが解説。


 しかし、セイレーンも苦しそう。両目と口……そして喉のチョーカーの奥から、したたる鮮血!


 どうやら攻撃手段を、共鳴振動から直接音エネルギーをぶつける方式に変えたことで、喉に多大な負担が掛かっているようだ。


 必殺の音波砲を少しでも近い距離で浴びせんと、じりじりと距離を詰めるセイレーン。ふと、トレントの手前に――


「はぁ、はぁ……そう、来なくちゃな……っ!」


 ずずずん! 巨大な、なんだろう……竹筒? が出現!


「A――A――aaaaaaaaaa――!!!」


 セイレーン、音響兵器を発射! たちまち崩壊する竹筒。だが……


「……!!」


 彼女も、ド派手に後ろに吹っとんだ。


「何が、起こったんですの……?」


「天然の、メガホンみたいなもんだ。巨大な竹の筒で、超音波を増幅して……反響させ、跳ねかえしたんだ。筒のほうも壊れるが、生長のはやい、竹なら……!」


 ずもももも! トレントの眼前に、ふたたび竹筒が出現! これは、チェックメイトだ……


 そこから、セイレーンは3たび音波砲を発射。しかしいずれも、トレントの竹リフレクターで弾かれ……


「ぎゃ――っはっはっは!! なかなか、楽しめたぜェ――!! お礼に命までは、取らないでおいてやるよォ――!!」


 ばきばき……ばきん。動けなくなったセイレーンの、目の前で。相棒のバーバリアンの両手両足に、つる草が巻きつく。そのまま引っ張られ……四肢脱臼。


 声を出せない人魚のかわりに、後援国の王が、ギブアップを宣言した……



 ――――――――――――

 2回戦第2試合

 〇メアーディ(トレント)&ニシキ(ニンジャ)

 vs

 ✕ピエスィニア(セイレーン)&バノッサ(バーバリアン)

(10分10秒 決まり手:超音波衝撃破砕砲がえし)

 ――――――――――――

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