第15話 さあ、ふるえるがいい
「ほ、ほかの2回戦の、録画あああ――っ!? あっ、イテテ……」
スライム組との激闘から、2日後。徐々にキズが治りつつある、俺とシャルは……宿舎の一室で、女王が持ってきたクリスタルを前に顔を突きあわせていた。
あのあとサムライから「ぜったい優勝するんじゃぞ♡」というメモといっしょに送られてきた、大量の膏薬……あと、シャルの凝血による止血効果のたまものだ。
彼女の血を、俺の傷口に塗りたくるのは……なぜか、だんだん嫌じゃなくなっていた。やはり、闇魔術テンプテーション……だが、そんな小細工に屈するわけには……!
「ふーん……なかなか、サービスがいいわね。でも比翼連理杯の闘技は、録画録音いっさい禁止じゃなかったかしら」
カーテンが閉めきられ薄暗い部屋のなか、けげんそうな顔のヴァンパイア。彼女も、まだ勝敗は知らない。自分もキズだらけの中、かいがいしく俺を看病してくれていたからだ。
……おそらく、媚びてわが国に取り入ろうというのだろう。汚い……魔族……め……
「うふふ、ニュートさんたちの治療の手配があったので、私も2回戦は見れなかったのですが……1回戦で戦ったセントール組から、けさ、極秘提供がありましたの。自分たちを倒したチームが少しでも上に行ってくれないと、彼らのメンツにも差しつかえるみたいですわ」
「なにそれ。サムライといい、ゲンキンなヤツらねぇ……」
やれやれ、という顔のシャルにかまわず、女王がクリスタルを起動。ぴぽっと音をたてて、会場のミニ・ビジョンが浮かびあがった。
砂かぶり席から集音魔法をいっしょに使って撮影されているので、ある程度の声も拾えているっぽい。敵ながらグッジョブだ、ライオネル!
◇◆◇◆◇
『みなさま! おまたせ! いたしましたああああ――!! 第1試合の激闘の興奮も、冷めやらぬところですがあ――!! 2回戦第2試合! 選手入場でええええええ――っす!!』
会場に、アナウンサーのバンシーの声がひびく。
『1回戦では、ラミア族のお株をうばう、締め技で勝利! 同時に何種類もの木を生みだすという、掟やぶりの戦いを見せてくれました――!! 地面が土なら、コイツが強い!! トレントのメアーディと、“天誅牙”ニシキの登場だああああ――!!』
『うおおおおお――っ!!』
東ゲートから、約6メートル大の木がのっしのっし入場。幹の中央部からは、肌に木目がきざまれた、女性の上半身が飛びだしている。いちばん大きな枝にぶら下がるのは、黒づくめのニンジャ。
女性型のコアがなければ、その辺の街路樹と言われても、違和感はないが……1回戦で出した、つる草と竹のコンビネーション。扱える植物の種類によっては、ヨユーで優勝にも届きうるだろう。
『対するは、美貌のセイレーン! あの九尾を圧倒した1回戦の衝撃を、みなさま覚えてらっしゃいますでしょうかあああ――っ!! わたくし! 忘れたくても忘れられません!! 人気シンガーから、闘士への鮮やかな転身!! ピエスィニアと、“ルーインメーカー”バノッサの入場です!!!』
『うおおおおお――っ!!』
西ゲートから、鼻息荒いバーバリアンに守られるようにして、セイレーンがしずしずと歩みを進める。青を基調としたドレスから、すらりと伸びた足。人魚タイプでは……ないようだ。
耳にあたる場所に広がる大きなヒレと、背中にはシャルより2まわりほど小さな翼。首には、革製の黒いチョーカーが巻かれている。
1回戦の様子からも、声や音をつかった戦闘スタイルなのは明らかだ。相性は……分からない。勝敗予想をことごとく外しまくって、自信喪失していた俺であった。
『時間いっぱい! では、試合! 開始いいいいい――!!』
はじまりの合図と同時に……ずもももももも! 大量のツタが、セイレーンの足もとの地面から出現! そのままセイレーンに絡みつき、ラミア戦と同じような展開に……ならない!
ずばずばぁ! 相棒のバーバリアンの斧が、ツタをプリンでも割るように切断! しかし、そのスキにトレントが根っこをもぞもぞと動かして、後方に移動!
「かかってこいや、サカナ女ああああ――っ!!!」
トレントが雄叫びをあげ、気合を入れると……ずごごごご! 地面から生まれでる、何本もの大木! 先端がヤリのように尖ったそれらが、セイレーンに、迫り――
「A――――aaaaaaa――」
ぜんぶ、粉みじんに砕け散った。
のどに手を当てて口をあけながら、壇上のオペラ歌手のごとく、堂々と進軍するセイレーン。
「ニンニン!!」
びしゅびしゅん! トレントの相棒のニンジャが、手裏剣を飛ばす。が、それも空中であえなく爆散! おいおい、鉄だぞ……!?
『で、出たああああああああ――!! ピエスィニア選手の、これは……これは、結局、何でしょうかあああああ――!? わたくし、何も聞こえませ――ん!!』
「もしかして、超音波てきなヤツ……? でも、フツーのセイレーンに、そんな芸当は……!」
シャルが、驚きの声をあげた。
「おそらく、そうですわ。とんでもない出力の、可聴音域を超える音……」
すでに結果を知っているはずのマレーネ女王も、緊張の面持ちでビジョンを見つめている。
「でも、さすがに声で鉄を砕くなんて……アイツの喉が、先にぶっ壊れそうなもんだけど……」
「いや、たぶん単純なエネルギーじゃなくて、固有振動数だ。木や鉄が共鳴して震えやすい周波数の音をぶつけることで、破壊をひき起こしてるんじゃないか?」
「ニュートさん……脳筋なのか頭が切れるのか、どっちかにしてくださいまし」
女王が、ここぞとばかりに失礼なコメント。うーむ。アンタが俺を配属した、国史編纂室……読む本だけは、くさるほどあったからな。
「待ちなさいよ。あの距離なら、声はトレントに届いてるはずよね? なんで、九尾のときみたく本体をやっちゃわないのかしら」
「よく見ろ、シャル。わずかだが、トレントの本体にヒビが入ってる。おそらくカラダ……木材の水分量とか密度を調節して、固有振動数をこまめに変化させて防いでるんだ。クソッ、なんてハイレベルな、戦いだ……!」
「いやいや、アンタ。自分の試合のときも、同じぐらい知恵をしぼりなさいよ」
あきれるヴァンパイア。そう、言われてもなぁ……
「A――――aaaaaaa――!」
ばきん! ばきん! ぱりぃん! セイレーンが次々と、木槍と手裏剣を粉砕しながら、徐々にトレントに迫っていく。振動を伝えにくい柔らかなつる草は、相棒のバーバリアンが伐採!
このまま、バーバリアンの斧がトレントに届くかと思われたの、だが……
「やるじゃねぇか、サカナ女! こいつで、どうだァ――!!」
ぐぉごごごご! これまでとは違う黒い色の木が、セイレーンの超音波防空圏を突きやぶって彼女に迫る! 駆けよってきたバーバリアンが、斧でその木を、伐採――
ばきん。斧の刃先のほうが、粉みじんに砕けた。
「……! リグナムバイタですわ……! 最強の硬度と密度をほこる、水に沈む木! 私のペンが、あの木で出来ていますの……!」
どがぁ! トレントの奥の手、リグナムバイタ木槍の一撃を食らったセイレーンが、後方に吹きとぶ! 片膝をつく彼女。だがその眼差しにやどる闘志は、いまだ、いささかも揺るがず!
『メアーディ選手が、反撃だあああああああ――!! 今までの攻撃とはちがうのだよ、と言わんばかりの……って、えええ?』
「フン……いくぜぇ、全開だああああああ――!!」
ふたたび、トレントが咆哮し……どぅごごごごごごごご!! コロッセオのフィールドの、いたる所から大木が伸びあがり……なんだよ、これ、こんなん、アリかよ……!
『も、森だああああああああ――っ!』
またたく間に、試合場全域が緑あふれる、ひとつの森林となった……




