第13話 勇者のくせにナマイキな
目を覚ますと、1回戦のときと同じ、医務室だった。
ベッドに寝ているのは、俺とヴァンパイア。マレーネ女王が、カーテンのかかった窓ぎわでタオルを絞っている。
「ぐうう……うう……っ!」
全身の激痛のなか、体を起こそうとしたの、だが……
「大人しくしといた方がいいわよ、ニュート。お腹のキズ、もうちょっとで腸がとび出るところだったんだから。私の凝血を塗りこんでムリヤリ止血してるだけだから、へたに動くとヤバいわよ」
無表情のヴァンパイアが、上を向いたまま言う。
「お、おのれ、穢れた血、を、俺の、カラダに……! いや、もういい……俺たち、勝ったんだよな?」
最後のガチキス……唇の感触を思いだして、毒気が抜かれてしまった。
「もちろんですわ。シャルさんが、敵のスライムのコアを、砕いて……ちょっとだけ審議がありましたけど、相手のサムライが負けを認めましたの」
女王が、俺たちの額のタオルをかえた。チッ……最後まで、イヤミなじいさんだ。
「それにしても、あのスライム。脳内に潜りこんで意識を読みとり、あいての行動を先読みだなんて……シャルさん、本当によく気づきましたわね」
「ふん、ツイてただけよ。ひとつは、意識モーロー状態のニュートの攻撃がサムライに当たったこと。もうひとつは、敵のサムライ……私の攻撃は、ちゃんと見て避けてたわ。たぶん、魔族の脳のデータが無かったんじゃないかしら」
『……』
聞きいる俺と女王。コイツなりに、考えながら戦ってたんだな。
「で、立ったまま気を失ったアンタの鼻血のなかに……小さいスライムの粒が、チラっと見えたってわけ。蹴りのショックで脳のちかくから、ちょっとだけ漏れてたんじゃない? たぶんコアといっしょに死んでるから、もう心配しなくていいわよ」
こ、怖ぇ……! スライムに侵入されてたのもそうだけど、俺の頭蓋骨、カチ割れる寸前だったのか……!
「と、いうわけで……ニュートさんは、しばらく絶対安静ですわ。ご存じのとおり、回復術の使える人間は、今この大陸にはいません。3回戦まで毎日、お医者さまに診察していただきますわね」
「わ、分かりました……」
「血圧が上がるといけないので、ほかの試合の話は、落ちついてからですわ。では、ごきげんよう」
そう言って女王が部屋を出ていき、しばらくした後。シャルが、とつとつと口をひらいた。
「ちょっと。私に聞きたいことが、あるんじゃないの?」
「ああ、両親のことだな。うーん……でも、アレは、俺を混乱させて意識を散らすための、作戦だったんじゃないのか?」
「アラ、そーかしら。じつは本当にアンタの親父、勇者グランが聖女を差しだして……」
「……」
「ウソよ、嘘。ゴメンね。じゃあ……私が知ってることを、言うわね。また聞きだから、信用するかしないかは、任せるわ。えっと……当時の魔王軍が、降伏派と徹底抗戦派に分かれてたことは、知ってる?」
「……知るわけないだろ。でも、想像はつくな。魔王軍、負けまくりだったじゃないか」
「それよ。魔王軍の士気が、いまいち上がりきらなかった理由はね……降参した魔族や非戦闘員をコッソリ逃がしたり、重症の魔族を術で治療してたヤツらが、ニンゲンのなかにいたのよ」
「なにっ……人類連合軍は、魔族の降伏を許さないのが決まりだったはず……ってか、回復術ってことは、まさか、俺の母親、勇者と聖女パーティ……」
昔のことを思いだす。俺の両親と勇者パーティのめんめんは、剣術や魔術、必殺技とかについては饒舌だった。
しかし、肝心の戦いの詳細を……頑なに話そうとしなかったのだ。過酷な戦場のようすを、子どもに聞かせたくないからだと、納得していたが……
「そうよ。そのせいで、ニンゲンとの共存をめざす降伏派の魔族がどんどん増えていって……徹底抗戦派としては、何としても勇者ご一行を始末しないといけなかったわけ」
「……だけど、勇者パーティの人たち……両親以外も……ハチャメチャに強かったぞ。あの人たちが、簡単にやられるはずが……」
「それがね。勇者パーティの、最後の場所なんだけど…… 誰が見ても分かるような死地、ホントの捨て駒みたいな扱いだったらしいのよ。私が思うに、たぶん、ニンゲン側にも……」
「魔族をコッソリ助けてたのを、邪魔に思ってた派閥があったってことだな。人類の切り札にそんなことをされたら、士気にかかわると……ソイツらが、オヤジたちをヘンな場所に、送りこんで……」
「多分そう。で、魔族の徹底抗戦派の総攻撃にあって……私が知ってるのは、ここまで。もう、いいかしら」
「……ああ、ありがとう」
◇◆◇◆◇
真夜中。水を飲みに起きた私は、スヤスヤ眠ってる勇者くずれ……ニュートの顔を見ながら、しばし、もの思いにふけっていた。
「なんとしても勇者パーティを始末せねばならん」と会議で熱弁をふるっていた、父親――ヴァンパイア・ロードの姿。
そして、吸った血といっしょに流れこんできた、ニュートの決意……優勝が決まった瞬間、彼は、私に剣を向けるのだろう。
大人しくやられるつもりは、ない。しかし、もしニンゲンの手に掛けられるのであれば。彼に心臓を貫かれるのが、一番マシなのかも――
何本もの涙のあとが残る、ニュートの顔。また、私がこの国――大陸最弱の王国を、訪れた理由。
ボロボロの、彼のカラダ。私も、人のことは言えないが。
彼の頬のキズを、ぺろりと舐めて……自分のベッドに、戻った。
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