第12話 ニューロンの申し子
魔王城の、地下のいち区画。高位魔族が近づきたがらない、尋問部屋エリア……そのドブのなかで、わたしは産声をあげた。
――スライム責め。
人類やモンスターの捕虜を、拘束し……ありとあらゆる穴からわたしを流しいれて、苦しませると同時に尊厳を奪う。半日ともった生物はいなかったと、わたしが言っていた。
使われたあとのわたしは、排水溝に捨てられる。13373個の、それが寄りあつまって……ひとつの、群体生物となった。
わたしに、流れこんできたのは……敵対者への、恐怖と恨み。自分を助けてくれなかった味方への、失望と怒り。罪悪感・羞恥心・不安・嫉妬……負の感情の、オンパレード。
そして、魔族をのぞいた、全ての生命体のカラダの構造……
とくに、中枢神経系の情報が好きだった。拷問・尋問を受けるときには必ず、脳内のニューロンが異常に活性化するからだ。
魔王城が、陥落したあと。調査に入ったニンゲンが、次々と精神に異常をきたし……ついに、とある国に、わたしは回収された。
わたしの特性は、空間把握のみにあらず。
一般のスライムとは完全に別種となった、神経寄生体。対象の脳に潜りこんで、意識の流れを本体に伝える、群体ならではの最強戦術。
ああ……あなたの尊厳は、どんな味がするのかしら?
◇◆◇◆◇
ぺちんぺちん。頬が叩かれる感触で、俺は意識を取りもどした。目の前には、ヴァンパイアの顔と……白い、羽の内がわの光景。
「あれっ、俺は、気を失って……試合は!? っていうか……ひいっ、また、吸血……!」
「しないわよ。相手のサムライは、私が一発食らわせて回復中。それよりも……ヒヒ。あー、おかしい」
シャルが、下卑た笑いをうかべている。
「ど、どうしたんだよ……」
「ふふ。アンタの間抜けな顔を見てたら、両親……勇者と聖女の、最期の様子を思いだしちゃってね。ゴメンゴメン」
「なにっ……!?」
10年前、人魔戦争の最終局面で未帰還となった俺の両親。その死にざまを、このヴァンパイアが見ていたというのか。っていうか、なんで、今さら……!
「アンタの両親が、魔王軍につかまったとき……アンタの親父、勇者グランはね。妻を、敵に差しだしたのよ」
「……は?」
「聖女エリスを魔王軍の慰みものとして使わせたら、命を助けるって言われてね。そりゃもう、ノリノリで。でもアイツもけっきょく、あうあうあーって言いながら、血を……おっとっと。続きは、あそこの死にかけを始末したら、教えてあげるわ。じゃね」
言うが早いか、ふわふわと上空に離脱していった。そして彼女の奥からは……ざりっざりっ。居合い斬りの構えをしたサムライが、すり足で接近!
「はぁ――、はぁ――っ……」
……俺の気持ちは、ぐちゃぐちゃだった。彼女の出まかせかもと一瞬疑ったが、この状況で仲たがいをするメリットがない。
誇り高きおしどり夫婦のはずだった、勇者と聖女。戦勝に沸くなか自分の両親だけが、帰ってこなかったときの記憶。お気の毒ですがうんぬんをくり返すだけだった、周囲の大人たち……
『おおっと――!! ハーピーペアが、やっとチューを終えましたああああ――!! しかしニュート選手! なぜか、うかない表情だぞおおお――っ!? そこに迫るのは、サジ選――』
だまれ。
「うぐっ……ぐおお……うぐぅあああああああ――!!」
右手の螺旋剣を握りしめ、雄叫びをあげながら突進。サムライの着流しが、赤く染まっている。上空のヴァンパイアからも、したたる鮮血。ああ、全員ブッ殺すのに、ちょうどいいな。
サムライが、カタナを解放。光波が俺の胴体に、着弾。痛みは、感じない。
ホルモンてきなヤツで痛覚が麻痺しているのか、それとも体内に満ちた怒りの気が、飛ぶ斬撃をかき消……どばっ。出血。ははっ、どーでもいい。
上空から、ウィンドカッター。サムライが、体勢を崩す。チッ、余計なことをしやがって。螺旋剣を、思いきり振りかぶって……ぶつける。ぶつける。ぶつける。
サムライのカタナが、俺をとらえる。全身に、無数の傷……関係ない。ヴァンパイアをぶった斬る右手だけが、残っていればいい。
何十回、打ちあっただろうか。ついに相手のカタナが……ぼきんと折れた。
「がああああああ――!!!」
獣のごとき咆哮をあげて、敵の肩口に一撃。鎖骨と肋骨が、くだける感触。
……!?
サムライの傷口、胸あたりから……粘液につつまれた、ミニトマトぐらいの何かが、飛びだしてきた。それは、間髪いれず、俺の口へ――
「う……むぐっ……ぬぐうううっ!?」
うしろに倒れこみ、もがき苦しむ。それは軟口蓋をおし開き、どんどん食道の奥へ。ぜったい、ヤバいやつだ。体内から、破壊するつもりか――
ばさっ。ヴァンパイアが、舞いおりてくる。俺が仰向けのまま、刺し殺さんと突きだした螺旋剣を、わき腹と腕で、はさみ込み……
唇を、かさねてきた。
「ん――っ!! んんんん――っ!!!」
ものすごい勢いで、吸引。5秒……10秒……すぽん。それが、ぶっこ抜かれる。彼女は、ごくんと飲みこむと……
どぐん。目を見ひらいて、気合いを入れた。倒れこんで、嘔吐。吐き出したそれは……真っ二つに、割れていた。
彼女が横たわったまま、片手をあげる。俺が覚えているのは、そこまで。
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2回戦第1試合
〇シャル(ハーピー)&ニュート(見習い勇者)
vs
✕13373(スライム)&サジ(サムライ)
(8分23秒 決まり手:血槍殺(体内))
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