第11話 異世界剣客浪漫譚
「居合いだァ、避けろおおおおおお――っ!!」
ヴァンパイア――シャルが目を見ひらき、すぐさま左下にバレルロール……ばしゅん! 一瞬前まで彼女がいた場所を、光波が走った。
その勢いのまま、ごろごろと地面を、転がり……俺の、約3メートル前で停止。駆けよると……
「嘘だろ、火が……!」
斬撃の光波が、羽にかすった部分。そこから、ぶすぶすと煙があがっている。ばんばんと叩いて、消火――
「ほほう! 居合い斬りを知っとるとは、さすがじゃの――!」
こっちに振りかえったサムライが、カタナをふたたび、鞘におさめて余裕の表情。そして鞘の入口“コイクチ”からしたたるのは……青き、スライムのしずく!
『なんだいまの攻撃はあああああああ――っ!! サジ選手が、カタナを抜きはなつやいなや! ほとばしる剣風!! 闇を切り裂く、東方の神秘でありまあああああ――っす!!』
分析。どうやら、肩の上にいたスライムは、そのカラダ……群体の一部にすぎない。
鞘の内がわにスライムを、流し……摩擦力を、自在に操作! サムライ自身の火魔術をのせた、渾身の抜刀術をとばす戦闘スタイルのようだ。っていうか、また、天敵の火属性……!
オヤジの元パーティメンバーにサムライがいて、「サムライがカタナをおさめたら、用心せいよ」というのを、たまたま聞いていなければ……シャルは、真っ二つだったかもしれない。
「う、うぐう……っ!」
「大丈夫か、シャル! あっ、クソ……!」
また、名前で呼んでしまった。彼女の手を、つかんでひき起こし……
ぬるり。その手が、油で覆われているかのようにすべった。
「……は?」
おトイレにいったあと、手を洗っていなかったのだろうか。それとも、ものすごい、手汗……!? いやいや、俺はそこまで、バカではない。分裂・融合・変形自在の、スライムの特性を、考慮……
導き出される答えは、ひとつ。
「おい、ヤツ……スライムの秘密が、多分わかったぞ。自分をキリ状にして、周囲の空気中に、うすく広がって……空間のすべてを認識する、防御特化のスキルだ」
彼女の耳もとに顔をよせて、ささやく。
「はぁ、はぁ……えっ、ウソ……そんなの、反則じゃない……! いや、それなら、“ある”わね……対策が!」
「ああ、そうだ……炎を飛ばしてくる以上、短期決戦しか、ない……! 合わせろよ!!」
単なる負け以上にダメージが大きい、羽根を燃やされての吸血鬼バレ……何としても、それは避けなければ。猛然と、サムライのほうに、突進――!
「ええい、いくわよ、ゲイル……っ、ハーピー大旋風――!!」
――もう一度言うが、この世界の一般モンスターは、魔術は使えない。彼女なりの、ゴマカシだ――
うしろから、風属性術……暴風の、援護! さらにサムライの周囲にまき起こる、砂塵とつむじ風!
渾身の風属性上位術――大竜巻が、スライム・ミストを吹き散らし……敵の、視界をうばう!
『こんどはシャル選手による、風攻撃! その翼のどこに、これほどのパワーが秘められているのでしょうかああ――!! ハーピーの長老たちも、おったまげという顔でありまあああ――っす!!』
「むほぉ……っ! これは、いかんわい……っ!」
焦るサムライ。ざまぁ!
「もらったああああああ――!!」
叫ぶやいなや、砂嵐のてまえで方向転換! 向かって左側、あいての死角から砂嵐に突入! これは、かわせまい……は?
俺の目に、サムライの履物……ワラジの、足裏が大うつしになった。
「ぶべろげろばっ……」
顔面にケンカキックを食らい、ド派手に吹っとぶ。な、なんで……!
◇◆◇◆◇
私の、前方約15メートル。パートナーの勇者もどき――ニュートが、大の字になってのびている。どうやら彼の推理は、的はずれだったようだ。
風魔術……大竜巻が、おさまっていく。その中心から現れたのは……ノーダメのサムライ。ゆっくりと、彼に近づき……
「あああああ、やめなさいよぉ――!!」
憎むべきニンゲンとはいえ、曲がりなりにもこないだ、自分をかばってくれた相手……それを見殺しにするのは、魔族の誇りが許さない。翼を羽ばたかせ、飛びあがった私を――
ぴしゅんっ! サムライの、居合……燃える斬撃の光波が、とらえた。
「きゃあっ……!」
あえなく墜落。羽で受けることは、できない。胸当てが両断され、肌があらわになる。へそ上から胸骨にかけて、甚大なダメージ。熱のせいで、止血もままならず。
『シャル選手! 撃墜!! これで、決まってしまうのかあああああ――!?』
ふたたび、彼がカタナを、ニュートに向けて振りかぶり……
「ま……まだ終わってない……がっ……がぼっ! こっちに、来なさいよ、かかってこい、コシヌケ……!」
必死に挑発。やれやれ、という顔のサムライが、堂々と近づいてくる。よし、射程距離に入ったところを……カラダから伸ばした、血槍で仕留めてやる。相討ちでも、構わない……え?
「……!!」
サムライの、背中がわ。体をガクガクと痙攣させながら、ニュートが立ちあがり走りだす。そしてあの忌々しい螺旋剣で……
ざしゅっ。サムライの背中を、ぶった斬って……立ったまま、ふたたび動きをとめた。
『な、何が起こっているので、ありましょうか! サジ選手の! 絶対防衛圏が!! あえなく破られてしまいましたああああああ――!! しかし、ニュート選手のダメージも、大きいぞおお!! いったいこれから、どうなってしまうんだあああ――!?』
「む、むぅおおおっ、おのれ、こわっぱ……!」
顔を引きつらせたサムライが、一時離脱。カタナの鞘からスライムが出て、彼の傷口に向かう。粘液で、止血をするつもりだろう。
なぜ、攻撃がいまになって通じたのか……分からない。だが、まずは……
「ぐっ、ううぅ……っ!」
這って、ニュートのほうに向かう。たどり着いて、彼のカラダをよじ登って……白目をむいた、マヌケな顔。鼻からは、大量の出血……んんっ?
なにか、違和感。目……網膜の血流を増やし、視力を強化。私の目が、とらえたのは……
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