第10話 あいてはヤバいいスライム
サイン会から4日後。選手入場口てまえの、物かげ。
『みなさま! お待たせ! いたしましたあああ――!! 卑劣なるテロの影響で、開催が遅れましたことを、ふかくお詫びもうしあげまあああああ――っす!! では! 比翼連理杯の第2回戦! 闘士の入場まで、今しばらくお待ちくださあああ――い!!』
『うおおおおお――っ!!』
けっきょく、猶予は2日間しか貰えなかった。チケットの払い戻しやらなんやらの、関係らしい。
さいわい、俺の背中のキズとシャルの日焼けは、ほぼ完治。あのサムライがくれた薬が、本当によく効いたのだ。
マレーネ女王は、「マッチポンプですわ」と、怒っていたが……残念ながら、サムライの国がやったという確たる証拠はない。正面突破で叩きつぶすしか、ないだろう。
また、我が国の諜報員のがんばりで、ひとつだけ新たな情報が得られた。対戦相手のスライムは、終戦ギリギリまで魔王軍に所属していたと……いや、だからどうだという話なのだが……
「じゃあ、吸うわよ。相手のサムライのスキルは、圧倒的な先読み。それを上回るスピードとパワーで、制圧しないとね……あむっ」
がぶり。こないだと同様、俺の左外頚静脈から血液が、じゅるじゅると吸い出されていく。
「うぎぃっ……もっと……ゆっくりぃ……!」
彼女のせなかに爪をたてながら、数日前……俺が伏せっていたときの、マレーネ女王との会話を思いだす。
◇◆◇◆◇
「ニュートさん、あなた……襲撃のとき、ヴァンパイアをかばったそうですわね。たしかに、彼女は重要な戦力……しかし、気持ちがほだされては、なりませんよ」
背中のキズに、軟膏を塗りながら女王が言う。その口調は……険しかった。
「す、すいません。つい、勇者のマインドが前面に出てしまって……」
謝るしかない俺。
「ハァ……いいですか? 私がアナタに螺旋剣を渡した意味を、よーく考えてくださいまし。最後までハッキリ言ったほうが、よろしいでしょうか。それともまさか、魔王城ゲートをヴァンパイアに大人しく使わせるつもりじゃ、ありませんわよね?」
「いや、まさか……アイツがゲートを開いた瞬間、大量の魔族が押しよせてくる、可能性が……」
「そうでなくとも、こちらの世界の情報が流れて、再侵攻の引きがねになるかもしれませんわ。もし再び攻めてきた魔族が、わが国がヴァンパイアを逃がしたことを、しゃべったら……」
俺は、ベッドのシーツをいぢいぢしながら――
「……分かってます。大丈夫です。だから俺たちが優勝したあと、頃合いを見はからって、ブスリと……」
「よろしい。それが聞けて安心しましたわ、ニュートさん」
女王がぺちんと、俺の背中をたたいた。
◇◆◇◆◇
『選手、入場でええええ――っす!! まずは、東ゲート! 1回戦での激闘と熱烈なキッスは、皆さまの心にふかく刻まれていることでしょううぅ――!! ハーピーのシャル! そして! “勇者の血脈”ニュートの登場だああああああ――!!』
『うおおおおお――っ!!!』
俺をジロリと睨んだヴァンパイアが、コロッセオ中央に飛んでいく。オメーが悪いんだろ、オメーが。よたよたと、追いかける。
『つづいて、西ゲート! 1回戦では、強豪アラクネ族を完全封殺!! 今宵も……お昼ですが……剣のキレに、いっさいの曇りなし!! イケオジには! 無機質ガールがよく似合う!! スライムの13373と……“カタナマスター”サジが、堂々入場ですううううううう――!!』
『うおおおおお――っ!!!』
あごに手をやりながら、ゆっくりと出てきたサムライが、開始位置についた。隣のスライムは……まだ、通常のサイズだ。
彼が、こっちを見てウィンク。ふん、格上ぶりやがって……!
『では、時間いっぱい! 2回戦第1試合! 闘技、はじめえええええええ――!!!』
試合開始とどうじに、俺とシャルがバックステップ。セントールの時のように奇襲を食らっては、たまらないからだ。
……やはりというか、先制攻撃はこなかった。女王から、聞いていたとおり……スライムがその身を1.5メートルから20センチメートルぐらいまで縮め、サムライの肩にぴょこりと乗っかる。
「おや、来ないんかの?」みたいな顔をしながら、堂々と歩みをすすめる彼……
「手はず通り、やるぞ!」「ふん!」
ヴァンパイア、離陸! ばひゅん! コロッセオ外周からまわり込み、敵のうしろへ――
ずばずばぁ! 彼女が口をあけ、ウィンドカッターの連打! おそらく、「ハーピー真空波――!」とか叫んでいるのだろう。
「――食らえ、氷矢! 氷矢!」
それに合わせて、氷魔術を連打しながら前ダッシュ! しかし、当然――
きんきん! ひょいっ! シャルのほうを向いたサムライが、長いカタナをきらめかせ、余裕のムードで風刃を斬りはらっていく。アイスボルトも、後ろに目があるかのように回避!
『で、出たあああああ――っ! カタナマスター、サジの絶対防衛圏んんん!! 鉄壁のガードをこじ開けるのは、知略かそれとも、愛の力かあああああああ――っ!!』
うるせぇよ。……想定内だ。ここからが、勝負……!
「うおおおおおっ、こいつで、どうだァ――!」
サムライの手前、約10メートル! 全MPを消費して、渾身の大技を発動!
「氷嵐!!」
ばひゃうっ! 絶対零度(たぶん)の嵐が、薄着のジジイを包みこむ――かと、思われたのだが……
ぷるるるん! アイスストーム発動の、コンマ数秒前。サムライの肩上のスライムが飛びあがり、彼の背中がわに、粘体の防護膜を展開!
冷気を周囲に受けながし、自らも凍りついて落下! ぱりぃん!
『勇者の、大技が決まった――! ス、スライムが、戦闘不能おおお――っ!? いやいや、ウーズ族の死亡確認は、きわめて困難!! 続行!! 続行でありまああああ――っす!!』
……やはり、こちらの動きが完全に読まれている。東の国につたわる、心眼とか先の先ってヤツか……? いや、そもそもアイツは、こっちを見てすらいなかったぞ?
考えを巡らせるあいだに、シャルがこっちに急接近! 曲がりなりにも、スライムを始末できたのは事実。一気に、勝負を決める算段のようだ。
それに呼応し、サムライがカタナを鞘におさめ……体をかがめ、片膝をついた。
サムライと俺のほうを見すえるシャルの顔が、「体勢が崩れたわ。もらったわね!」みたいな顔に、変わる……あの、馬鹿パイア……!!
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