港町の密輸
「川を下れば港町じゃ」
イデアールが海を眺めながら笑う。
「久しぶりに海を見たくなってのう」
「私は初めてです!」
シュングは目を輝かせる。
「本当に行き当たりばったりなんだな」
ティヒカイトが呆れる。
「旅とはそういうものじゃ」
◇
港町。
潮風が吹き、多くの船が港へ出入りしている。
海鳥が鳴き、屋台では貝や魚が焼かれている。
「これは美味そうだ」
三人は焼き貝を頬張る。
「海は賑やかじゃのう」
イデアールは港を眺める。
その時。荷下ろしを終えたはずの大型船が目に入った。
「……妙じゃな」
「何が?」
「喫水線じゃ」
ティヒカイトは船を見る。
「荷物を降ろした船なら、もっと浮くはずじゃ」
「確かに……」
「じゃが、あの船はまだ重い」
◇
宿。
ティヒカイトが調査結果を報告する。
「最近急成長した商会の船だ」
「主人は?」
「誰も顔を知らない」
「ほう」
「船長も書類のやり取りだけらしい」
イデアールは静かに頷いた。
「実体を隠す商売ほど怪しいものはない」
◇
翌日。
港管理組合を訪ねる。
しかし荷物の記録は見せてもらえない。
「当然じゃな」
イデアールは納得する。
「管理組合は規則通り仕事をしておる」
「なら?」
「夜を待とう」
◇
深夜。倉庫街。
三人は荷物の陰から港を見張る。
昼間の船が動き始めた。
船員たちが誰にも見られぬよう木箱を運び始める。
「やはりな」
イデアールが立ち上がる。
「そこまでじゃ」
男たちが振り返る。
「昼間の旅人か!」
「夜更けに忙しいことじゃのう」
「やれ!」
武器を持った男たちが襲い掛かる。
ティヒカイトが剣を抜く。
「またこの役か」
シュングも魔法を放つ。
「エアフレーム!」
突風が男たちを吹き飛ばす。
数分後。立っているのは三人だけだった。
イデアールは一本の短剣を取り出す。
月明かりに王家の紋章が輝く。
「元ルーエ国王、イデアールである」
全員の顔色が変わる。
「建国王陛下……!」
「さて」
イデアールは船を指差す。
「その船には隠し船倉があるな」
男たちは黙る。
「荷を降ろした船なら喫水線は上がる。しかし、この船は沈んだままじゃ」
静寂。
「つまり、まだ大量の荷が残っておる」
イデアールはティヒカイトを見る。
「探せ」
「了解」
しばらくして。
「ありました!」
船底の床板を外す。
その下には大量の木箱。蓋を開ける。
「これは……武器!」
剣。槍。弓。
そして大量の矢。
「国へ申請されていない武器じゃ」
イデアールは静かに言う。
「どこへ運ぶ予定だった」
男たちは観念したように頭を下げる。
「反乱軍です……」
その瞬間。
港の警備兵たちが駆け付ける。
「何事だ!」
「ちょうど良い」
イデアールは短剣を掲げる。
「この者たちは密輸と反乱幇助の疑いがある。全員捕縛せよ」
「はっ!」
◇
翌朝。
港管理組合。
帳簿と押収した武器が並べられる。
商会の主人も連行された。
取り調べの結果、多額の利益を得るため反乱勢力へ武器を密輸していたことを認める。
港の管理責任者は深く頭を下げた。
「港の信用を傷付けてしまいました」
イデアールは静かに首を振る。
「人が集まる場所には必ず悪も集まる。だからこそ、見張る者が必要なのじゃ」
「肝に銘じます」
◇
港には再び活気が戻った。
漁船が朝日に照らされながら次々と出港していく。
「さて」
イデアールは海を眺める。
「次はどこへ向かいます?」
「風の向くままじゃ」
ティヒカイトは笑う。
「結局、目的地は決まってないんだな」
「それが旅じゃ」
三人は港町を後にし、新たな街道へ歩き出した。




