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王を譲ったので、正体を隠して国を旅します!  作者:


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橋を渡れない村

「この先に川魚の美味い店がある村があるんだよ!」


ティヒカイトが嬉しそうに歩く。


「お主、来たことがあるのか?」


「かなり昔だけどな。まだ店が残ってるといいが」


「確か、この辺りには橋を造ったはずじゃ。橋が完成すれば流通も良くなり、村も栄える。報告では無事完成しておった」


「前の町みたいに、また報告と違うってことはないよな?」


「今回は違う。王都から文官も派遣し、完成を確認したと報告を受けておる」


シュングは本を読みながら歩いている。


「シュングよ、歩きながら本を読むのは危ないぞ」


「大丈夫です。周囲を感知する魔法を使っていますから」


「そんな便利な魔法があるのか……」


三人が笑っていると、小さな村が見えてきた。


「おお、あれじゃ」


「こじんまりしておるが、良い村そうじゃな」


「俺は宿を取ってくる」


「頼んだぞ。わしらは橋を見ておる」



「イデアール様! 橋が見えました!」


「おお……」


立派な石橋だった。

幅も十分あり、大きな荷車でも余裕で渡れる。


「見事な橋じゃ」


しかし。


「……誰も渡っておらんな」


橋の下を見る。

小さな渡し船に大勢が並んでいる。


「何故じゃ?」


橋の入口には兵が立ち、人を通していない。

その時。


「おい! まだ順番かよ!」


魚を積んだ荷車の男が叫んだ。


「早く市場へ行かねぇと魚が傷んじまう!」


別の農夫もため息をつく。


「橋があるのに遠回りだ。渡し船代まで取られちゃ儲けが減る」


さらに老婆が困った顔をしていた。


「向こうの村へ薬をもらいに行きたいんだけどねぇ……」


イデアールは静かに目を閉じる。


「……橋は民のために造ったはずなんじゃが」


兵へ近付く。


「すまぬ。この橋は修繕中なのか?」


「初めて来たのか、爺さん」


「ああ」


「なら渡し船を使え。この橋は使えん」


「何故じゃ? こんな立派な橋があるのに」


「村長命令だ」


「理由は?」


「知らん。さっさと行け」


兵はそれ以上答えようとしなかった。

そこへ旅人が話しかけてきた。


「あんた達、初めてか?」


「そうじゃ」


「橋を使わせると渡し船が儲からねぇんだとよ。だから村長が封鎖してる」


「……そうか」


イデアールは小さく息を吐いた。

そこへティヒカイトが戻ってくる。


「宿取れたぞ! ……って何だ、この橋」



食事処。


「なるほどな」


ティヒカイトが焼き魚を頬張る。


「橋があるのに渡し船か」


「完成だけ確認して、後は好き勝手ということじゃな」


イデアールは静かに頷く。


「橋とは、人が行き交うためのもの。それを止めてしまっては意味がない」


「村長を調べるか?」


「頼む」


「まずは飯だな」


「シュング。魚もちゃんと食べなさい」


「……苦手なんです」


「好き嫌いはいかん」


「ったく。本当に孫と爺さんじゃねぇか」



翌朝。


「橋が完成したと聞いて安心しておった」


窓の外を眺めるイデアール。


「だが、書類だけでは国は見えぬものじゃ」


コンコン。


「起きてるか?」


「入れ」


ティヒカイトが入ってくる。


「調べてきた」


「どうじゃ」


「村長が渡し船を管理してる」


「ふむ」


「渡し船代でかなり儲けてるらしい」


「やはりか」


「橋を使うと利益が無くなるから閉鎖したそうだ」


「馬鹿な……」


イデアールはため息をつく。


「橋が出来れば物流は良くなり、もっと村は豊かになるというのに」


「しかも商人はこの村を避け始めてる」


「本末転倒じゃな」


少し考え、


「村長より上役へ文を送れ」


「分かった」



数日後。


「そろそろ来る頃じゃな」


イデアールは橋へ向かう。

兵が立ちはだかる。


「またお前か」


「今日は橋を開けてもらう」


「出来ん」


「なら……仕方ない」


ティヒカイトが前へ出る。


「悪いな」


一瞬で兵の武器を叩き落とす。

騒ぎを聞き、多くの村人が集まってきた。


「何事だ!」


豪華な服を着た男。

村長だった。


「貴様ら、何をしておる!」


イデアールは静かに答える。


「橋を本来の姿へ戻しに来た」


「捕らえろ!」


村の兵が動く。


「またか」


ティヒカイトが剣を抜く。

シュングも杖を構えた。


「エアフレーム!」


突風が兵たちの動きを止める。

そこへ一団の馬車が到着した。


「大村長様のお着きだ!」


村長が慌てて駆け寄る。


「大村長様! この者たちが橋を――」


「嘘をつくな!」


村人の一人が叫んだ。


「橋を使わせねぇのは村長だ!」


「そうだ!」


「渡し船で金を取ってる!」


次々と声が上がる。

大村長は厳しい視線を村長へ向けた。


その時。

イデアールは静かに一本の短剣を取り出した。


陽の光を受け、王家の紋章が輝く。


大村長の表情が変わる。


「そ、その短剣は……」


「元ルーエ国王、イデアールである」


全員が息を呑んだ。

大村長はすぐさま膝をつく。


「建国王陛下……!」


村長も青ざめ、その場に崩れ落ちた。

イデアールは橋を見上げる。


「橋とは、人を止めるために造るものではない」


静かな声が辺りに響く。


「人が行き交い、商いが生まれ、村が豊かになる。そのために国費を投じた」


村長は震えている。


「それを己の利益のため封鎖するとは、民を裏切る行いじゃ」


大村長は深く頭を下げた。


「私の監督不足でした。視察の際は橋が使われておりましたので……」


「民の前だけ取り繕ったのじゃろう」


「……はい」


「後の裁きは任せる」


「必ず厳正に対処いたします」



翌日。

橋は開放された。

魚を積んだ荷車が橋を渡る。

商人も笑顔で行き交う。

子どもたちは橋の上を元気に走り回っていた。


「ああ、これでようやく橋が橋として役目を果たす」


イデアールは満足そうに頷いた。


「イデアール様!」


ティヒカイトが笑う。


「今日はちゃんと魚が食えますぜ!」


「私は……少しだけ食べます」


「好き嫌いはいかんぞ」


「またそれですか!」


三人の笑い声が橋に響く。

そして三人は、次の町へ向かってゆっくりと歩き始めた。

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