第の二 いざ。異世界RPG
お空が綺麗だなぁ…と、友人と遊ぶの楽しいなぁ…と、お米が美味しいなぁ…と、色んなことを漠然と考えて過ごしていたな。ほんと、何も考えずに。
律臣という名前に対して、真正面から向き合ったこと…なかったな。そーいえば。
……どうも、見知らぬ天井を眺めながら過去の記憶に耽っている現状です。
いやぁ…ね。
『気絶するなんて、誰が想像できたかしらね』
「俺でも予想すら出来なかった……っぜ!」
身を勢いよく起こして周囲を見渡す。
なかなかに豪勢な部屋にいるじゃないのよ。眠らされてたベッドもふっかふかのさらさら。もっと寝たくなる心地よさ。なんとお手頃イチキュッパ……桁違いのイチキュッパだろう。この世界なら。
さぁ、外はまだ明るい。というかここどこ?
「リツトミ!起きたんだねっ!」
「お、おうよ。そのまま冥府に行きそうだった程度の睡眠がとれたぜ」
「あははっ!それってかなり酷い状態じゃないかい?」
部屋の扉が開きエノムが入ってきた。なかなかにイケメンで容姿端麗でイケイケな容姿のお姉さん。そう、判明しちゃったよ。………判明しちゃったよ。
いやね、喜ぶ人は喜ぶだろうけど俺はオンナノコNGなのさ。わかるかい?
でもまぁ…改めて見ても素晴らしい見た目。俺が霞むよ。いやほんと。
「エノム、ここは何処なんだ?宿屋でもとったか?」
「ううん。ここは俺の家だよ」
「そっか」
ねぇホタルさん。
『なによ、ハチ公くん』
俺はオンナノコの家に、しかも部屋に来てしまったんだと。ヤバくないかコレは。捕まらないよな?この世界の法律とか何も知らないけど、エノムが直訴しない限り平気だよな?
『なによ、ハチ公くん』
「…………ホタル?」
『なによ、ハチ公くん』
俺の身体の周りをぐるくるとふよふよと飛んでいる羽根の生えた光の玉。ホタルというあだ名をつけて呼んでいるのだが、様子がおかしい。
ゲーム機が壊れて何度も同じセリフを繰り返してしまっているアレを思い出す。実際に遊んで経験したとかじゃなく、知識としてのものだけど…想起するのはソレだった。
「ホタル?なんだいそれは」
「あぁ、気にしないでくれエノム。にしても可愛らしい部屋だ」
「まぁね。好きだったんだ。ぬいぐるみとか、お人形さん集めるのが」
「好きだった?今は違うのか?」
「今は……どうだろう。ずっと……正確にどれくらいかは記憶が曖昧で覚えてないけれど、それでもかなりの年月をループしたように生きていたから…触る機会がなくなってしまってね」
棚の上に置いてあるテディベアをどこか懐かしむように見つめるエノム。ループするように生きていたから…かぁ。わかるよ、俺も学生生活でずっと同じルーティンで進むときマジで退屈だったもん。
なぁ?ホタル。
『なによ、ハチ公くん』
な、なんかバグってるな。普通に話せてた……よな?なんなら俺をイジったりとか、ぶつかってきたりとかしてきてたしさ。
急に壊れたゲーム機のようになってしまった。
「リツトミ、君には本当に感謝しているよ。何を返せばいいのか分からないくらい、すごく」
「感謝って…何かしたか俺?」
「何かしたかって?あははっ、謙遜しなくてもいいのに。救ってくれたじゃないか、NPC病になり、ループする日々を送っていた俺のことを」
「………」
NPC病になり、ループする日々。
身体の周りをぐるぐるふよふよしているホタルを見やる。先の情報を得たからかは分からない。分からないが、俺にはまるでホタルが。
「なぁ、エノム」
「うん、どうしたんだい?俺に答えられることなら何でも訊いていいよ」
「………んんっ!え、エノム」
「うん、どうしたんだい?俺に答えられることなら何でも訊いていいよ」
「……スーッ!(全身の鳥肌を感じながら深く息を吸い込む音)」
俺は…俺は…変な世界に来てしまったらしい。
まるでRPGゲームのように、同じ言葉を、行動を繰り返すようになってしまうNPCという病。それがある異世界。
俺は今から何をすればいいんだよ。
「………魔王」
確か、ホタルが魔王云々とか言っていたような気がする。魔王を倒すといいのか?ホタル…は反応しないか。………とりあえず、魔王を目標にしよう。そいつを倒せば何とかなるんだろ。
「エノム、ついてこい。魔王の城を目指すぞ」
「OK、リーダー」
「………」
エノムを引き連れて外へ出て、そして雑貨屋へ。
壁にかけられたいくつかの革製のリュック。くるくると丸められたこの世界の地図。薬草なんてものもあった。それに、グレードは低そうだが剣も一応。だがここでは買わない。
どれが一番良いとか分からないが、とりあえずはリュックと地図を購入。薬草は買うか迷ったけど買わなかった。見た感じ本当にただの草で回復してくれるか怪しいんだよね。
『あら、雑貨屋じゃない。店の裏に入れれば裏商品があるの』
「ホタル…?」
『どうしたのかしら?ハチ公くん。そんなに怪訝そうな顔をして』
「ああ、いや…なんでも」
でもまぁ、どうせ隠し事は出来ないだろうしな。
ホタル、あんたはさっきまでNPCみたいに同じ言葉を繰り返してたんだ。どう声をかけても、街中のモブキャラみたいによ。
で、教えてくれよ。NPC病ってなんだよ?治し方は?魔王と何か関係しているのか?
『………そう、知ってしまったのね。その病の存在を』
知りたくはなかったかもしれない。
『ええ。ええ。知らないまま魔王のところまで行けたら、どれほど良かったか。…この病は魔王が振りまいた伝染病のようなものよ。だから私達は進むの。なんとか繋いで……進んできたの』
……あのランク、アルファベットを越えたあとのカタカナのランク名。あれってさ、もしかしなくとも名前…だよな?
予想するぜっ…!メイガスが前任の勇者だ!てか、メイガス以外忘れた。
『メイガス、アダロ、エクタル、クェルト、リリアと、私は言った。これは覚えるべき名前達よ。ハチ公くん』
……おうよ。覚えてやる。
『初めの勇者はこの世界の人間に呼ばれたわ。名をクェルト。そして、クェルトがエクタルを。エクタルがアダロを。……アダロが、私とメイガスを』
二人なのか。前任の勇者は。
『初めの勇者はこの世界の人間に呼ばれたわ。名をクェルト。そして、クェルトがエクタルを。エクタルがアダロを。……アダロが、私とメイガスを』
了解だぜ。今はそれだけ知れたってのを大切にするよ。だから、次を喋れるようになったら教えてくれ。俺はハチ公ってあだ名がついてるからいくらでも待ってやるからな。
……なぁ、リリア。
『初めの勇者はこの世界の人間に呼ばれ……』
「さぁ、武器だ武器。それと装備も。これから冒険して魔王城を目指すんだし…食料も必須か。それに仲間もエノム一人だけじゃぁ戦力不足ってもんだろう。俺が戦力として含められるかは接敵してから決める」
さぁ、さぁ………さぁ!
ゲームスタートのボタンを押しますか?
「ああ。Aボタンで良いかよ?ここからだ。俺の異世界RPGは」
元いた世界は少し退屈してたんだよなぁ、ちょうどいいってこった。この個性的であり、それがゆえに個性を失った世界を直す。いいや…治す?長い道のりにはさせないさ。
とりあえずはエノムに仲間を集めてもらおうか?いいや…確か冒険者ギルドで依頼が出来たはず。そこで仲間の募集をかけて、その間に買い物を済ませて…んで、仲間が募ってるか確かめる。
焦ってるように見える?
「冒険者ギルドで魔王討伐の仲間を募る。ついてこいエノム、受付で依頼だ」
「OK、リーダー」
「…あぁ、どれだけ気が持つかな」
場所を変えてギルド内へ。
「よぉ兄ちゃん。冒険者になるなら…」
「はいはいサンクス」
受付に到着したがやはりこの人もそうなのか?病に侵されているとでもいうのだろうか?
「冒険者ギルドへようこそ。今日はどのようなご要件でしょう」
「あー、依頼を頼みたい。仲間を募るんだ」
「はい、仲間の募集ですね。少々お待ちください」
そう言い奥へと引っ込む受付。あれかな?張り紙するための紙とペンを貰えるのかね?
…と、思っていた時期が俺にもありました。
「これはなんだ……?何かのチケットに見えるが…」
……っ…!?じ、情報が頭に流れ込んでくる!?
仲間呼びの札…?これってそんな名前なのか。なになに…?姿を思い起こして名前を呼ぶと仲間として迎えることが出来る…か。セレクトキャラをチケットで選ぶ的なアレだ。初心者が円滑にクエストをこなすためのサポートだ。
頭に情報が流れ込んできたのはスキルのおかげだ。俺自身はそんなスキルを取った覚えはないけどね。
そう、前任者達がコツコツ上げたレベルが、彼らの受け取ったスキルが、俺へと全て継承されているらしい。この情報もスキルで伝わってきた。
おかしいとは思っていた。すでにレベルが高めだったこととか。ステータスが意外と良さげだったこととか。
「そうとう大がかりな魔王退治だな…いや、ほんと…ん?となるとこの受付のお姉さん何歳?」
「冒険者ギルドへ……」
「はぁ…Aボタン連打だわこんなん」
仲間を呼ぶこのアイテム…なかなかにレアなもんだと思うね。だから今は使わない。いざって時に使うほうが良いじゃろうて。
冒険を始める準備ってかなりかかるな。街から街まで野営って考えると食料品の備蓄が気になってしまうし、それに…安易に寝て過ごせるか。
魔王がいんなら、魔物もいるだろ。
お次は武器屋か。
「よう、おっちゃん!やってるぅ~?」
「なんだ?見ねぇ顔だな。だがラッキーだったな。うちより質の良い武具を取り扱ってる店はどこ探してもねぇぜ。それこそ、魔王城付近の前線まで行かねぇとな。…あそこは地獄さ。おっと、すまねぇな。で、何を手に取る?」
「初回だから長いのか…次話しかけてもこうなのか…」
「で、何を手に取る?」
「つぁ…!?」
じ、情報が流れてくる…!すっげぇ便利だけどさ、なんかさ、なんか…この世界に深く接続されてきている気がするよ、俺。
そばでにこやかに立っているエノム。彼女は一定の間隔で髪を整える仕草をしたり、靴を気にしたり、自身の剣や弓に手を当てている。まんまNPC…いや、操作待ちのキャラクターだな。
……本当に俺一人のRPGなのだろうか。
「あー、んー…こんな時にリリアが教えてくれたら良いんだが……何買えば良いか…」
ん?まてよ…エノムが仲間になるときに、リリアが有能だって言ってたよな。しかも初期装備が整っていて質も良さそう。
それこそ、この街…この店よりもかなり。エンチャントか何かされてそうな怪しい光り方してるタイミングあるし。
「なぁ、エノム。あんたなら何買う?俺はビギナーだからよく分からなくてな」
「そうだな…俺ならこの……」
あれ。なんか増えた?こんなのあったかな?
ルート開拓ってやつ?
「この、雷炎槍エクタルがおすすめかな。初めからエンチャントが施されているし、装備するとステータスが最低でも120%上昇するんだ」
「おう…ありがとなエノム。おっちゃん、コレくれ」
雷炎槍エクタル…こんなの確かに無かったはず。
両手で握りしめて穂先をうえに、そして反対側をかつんと地面に突き立てる。穂先の位置が俺の頭より高いぞ。こういう長物って先端に行くにつれて重たく感じるんだけど…エクタルは軽い。ステータスバフかな。
…やはり変だっての!エクタルってエクタルだよな!?あの……なんか…そう、二人目の勇者!確か!
なんで武器に彼の名前が。
「リリア、何か知ってるかよ?」
『………』
「そうか」
ぐるぐるとふよふよと身体の周りを飛ぶ羽根の生えた光の玉。手で進行方向を塞ぐと避けるなりして反応するが、意志があるかは分からない。…っていうか初めからこいつ、俺の身体の周りを。
うわぁ…なんか色々と世界の闇が見えてきた。
頑張らないとって気持ちが湧いてくる。
出会って一日と満たない程度の関係値なのに、なぜだか助けたいって思ってしまう。この世界を救いたいって、病気を治したいって。…まるで病気だよ。また別の病気。職業病とはよく聞くが、この場合は勇者病と言っていいだろ。
うわっ、俺ネーミングセンスありすぎ。
…ツッコミはなしね。
「よし、テンポよく行こう」
槍も手に入れた。…が、防具は蒸れるし熱いし無理だった。
外を歩きながら思案に勤しむ。
「おっ、あれは…リーダー、今日はついているよ。飛空車が停まっている。しかもまだ客はいなさそうだし、どうする?」
「飛空車……?」
エノムが指差す方向へ視線を移すと驚いた。馬車のような四角い箱の上に、もふもふの虫のような、または動物のような、背に複数本の羽根の生えた白い生物がのしかかっているじゃないか。
名前からして空を飛ぶ車。ファンタジーで良いね。異世界はこのくらい自由じゃなくちゃ行けねぇんだよ。
どうする…かぁ。
行きたくねぇ……!虫だぜありゃあ!いや、いくらかもふもふで可愛らしい……?が、あの足!あの羽根!虫だ虫だ虫だ!嫌だ嫌だ嫌だ!
「エノムは…乗ったほうが良いと思うか?」
「あの飛空車は魔王城付近の街まで快速で向かってくれる。数時間は空の旅だから、トイレは先に済ませてからかな。あ、乗るならね」
「……行くぞエノム」
「OK、リーダー」
先を歩むようにして、規則的に進んでゆくエノムの背中。リリアの口ぶり的に彼女は、メイガス&リリアが勇者をしていた時代から居るはずだ。そして、複数のルートを把握している…っぽい。
彼女ほど有能なキャラはいないだろう。
ご都合的な展開だねって?……そうだな。俺も思うぜ。でも、同時によ…それくらい確立されたルートがあるってのが少し考えさせられるんだよな。
先人たちに感謝しないとな。
俺ってこんな性格だったっけ?
俺…この世界に引っ張られてきてるのか?
「リーダー?早くしないと行ってしまうよ」
「お、おう、そうだな。さっさと乗ってちゃちゃっとストーリー進めようか」
今は真理に迫るような事は考えないほうが良いかもな。文字通り、自分を見失うかもしれねぇ。
気を引き締めようか。
「俺は律臣だ…!そして、世界を救う勇者でもある…ぜっ!」
空を指さして高らかに宣言した。誰も反応をしない。何も情報は変わらない。ただ、俺の声がこだまして、遠くから帰ってきたのが聴こえた気がする。
飛空車に乗り込み、特殊な浮遊感。空だ。俺は今、空の旅をしているぞ。でもさ、虫の足が見えるのが嫌すぎて。
あと、
「エノム」
「………」
「……そうだよな。ローディング中は、虚無だよな。………イイコト閃いたぞ…!………けど、今は俺も、虚無が勝つ」
石像のように固まって動かない仲間を尻目に、外の景色をじっと見つめる。地平線はこの世界にもあって、風は冷たい。
自然現象まではRPGのようにはなっていなさそうだ。
何でこんな世界を作ろうと思ったんだ。
魔王は。




