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第の一 ビバ!異世界FOOOOO!

ルートが分岐しました。前者へと進みます。


実績を解除しました。


『涙面上の彼方』



 よっ!俺の名前は律臣りつとみってんだ!まぁ……名前も読みも、何処かで見たって可能性あるけど……改めて覚えてくれよ。律した臣下で律臣だ。あだ名はハチ公!お似合いだろ?




 俺ってばなかなかに良い高校に通ってたんだけどさ…聞ぃ~てくれよぉ~!酷いぜ!?酷い話なんだぜこれが!まぁまぁ、どんな話だったかはちゃんと話すから落ち着けって。物事には順序ってのが………って、怒んなよ。分かった分かった。言うから!




 え?誰も俺の話なんか待っちゃいない…?うーん…お前難しい事言うなよ。良い高校に通っている俺ですら理解するのがしんどいぜ。




 俺は、高校の帰りにバスに潰された。




 運転手は悪くないんだ。横断歩道を待っていたんだよ。青になるのをな。




 でも…まぁ……なんつーか、子供が飛び出したんだ。それを助けてバスの下敷きになったのかって?………だったらかっこよく散れて良いもんさ。




 だけど現実は、飛び出した子供を避けるために急ハンドルを取ったバス。そのバスが勢いに耐えきれず信号待ちしていた俺に向かい倒れてきた。ってことだ。




 いやぁ~…ね。




 ちょっと申し訳ないよね。中に乗ってた人には。




 潰れてる人間がさ、窓越しに、透明なガラス越しに………ね?言いたいことわかるでしょ?しかもバスは横転してるから離れようにも離れられない。視界から外そうにも…人によっては首の向きを変えれないかも。




 生きている間の心残り?そうだなぁ……あっ!友達たちともっと遊びたかったかな。それと…それと…あー。




 ………それとな。





 心残りなんか無かったけど、俺…まだ生きていたかった………かな。いやぁ、だってさ!ここからってところでしょ高校生なんて!未来しかないぜ!?なのに夢半ばでお陀仏よ。




 ん?夢半ばって言ったのは………まぁ、お前にゃ関係ねぇよ。そう、訊くな。答えられねぇし、訊いたお前が気まずそうにするとか、そういうのダルいから。




 でもまぁ!俺はポジティブに考えた。




 子どもたちが本来死ぬ予定だったけど、俺が!この超絶イケてる俺が!その代わりに命を差し出したんだって!子どものほうが未来がある。何年もアドバンテージがある。なら、社会的にもそっちのが良い。……経験をした人間は、強くなる。




 あ、なに?話が長い?はぁ~…!分かっちゃいないな!




 だって、いきなりよ。



「死んだと思ったら何もない無の世界に居て、身体も亡霊のようにスカスカで、んでもって極めつけはお前だ。なに?羽根の生えた光の玉…?案内でもしてくれんのかって!あ、緑の服に着替えた方が良い?なんつって!」




 そう、ここは何もない無の空間。上も下もない、まさに平等すぎた世界。右も左も区別がつかないしな。…あとなんか不自然に俺の周囲に水溜りが。も、漏らしてねぇしッ!?




 俺は立ってんのか浮いてんのか…はたまた吊り下げられてんのか、動いているのかも何もわからない。…が、光の玉は俺のことを吟味するように周囲をぐるぐるとふよふよと飛んでいる。




 蛍かよ。って思った途端に気持ち悪くなってきた…!虫は嫌いなんだよな俺。



「ねぇ、ここって何?俺は死んだんだよな?さっきから飛んでるけど何してるの?」



 が、光の玉は答えず。シカトこかれたよ。まったく困ったもんだ。いや…ここが俗に聞く天国というものなのか?確かに退屈そうだとはイメージしていたけど、これは退屈にもほどがあるよな。




 え?一生このまま?ま?いや、死んでるから一生はおかしいな。




 え?死後このまま?輪廻転生とかを迎えるまでこれ?



「流石に嫌だな…う、動け!ふんっ!フンガァァァァァーーーー…………!!」



 無理だ!




 音もない。温度もない。臭いもない。見えているが視えていない。感じているが何も感じていない。やべぇ…このままここに居たら悟り開いちゃうよ。




 と、ため息をつくと。



『うんうん、よしよし…終わり終わり…』



 確かに言った。光の玉は。



「え?な、何?終わりぃ~……?な、何が終わったんだよ」


『え?ごめんごめん、ずっとずっと集中していたから何もな~んにも聴いてなかったわ。何かしら?』


「いや、聴いてなかったって……聴こえてはいたけど無視してたって事だよね?それ酷くない?かなりさ」


『シカトはしたけど、無視はしてないわ。ハチ公くん』


「げぇ…!」



 こいつアレだ!




 そう考えると、光の玉は顔の前で止まって。まるでクスクスと笑うかのように上下に、小刻み震えた。そして何事もなかったかのように、また俺の周りのぐるぐるとふよふよと飛ぶ。




 まったく…当たって嬉しくないビンゴとか、最悪だ。



『貴方には』


「なぁ、俺って………あぁ、ごめん」


『…貴方には』


「ヘックション…!あぁ、ごめん」


『……あ』


「ゲホゲホッ…!ゲボコホッ!あ、ごめん」



 ………いやぁ~、なんか喉の調子が悪くて。ね?許しておくれよ~。そんな怖い光り方しないで、ね?




 いや、ほんと、ほんと。だから顔の前で止まらずにほら、また身体の周りぐるぐるとふよふよと……ほら。ね?




 悲しきかな。この思い光る玉に届くこと(あた)わず。めちゃくちゃに顔面に向かい突進してきた。



「痛っ!あでっ…!へぶっ…!わ、わかったって!ごめん…!いたずら心の収まらない年齢で!まだ高校生なんですぅー!…なら変わるべきだな?あいだっ!?」



『私は貴方をこのまま無に置いて去ることも出来るの。意味が分かるかしら?ハチ公くん』



 それを聞いて血の気が引いていく感覚がした。いや、もう霊体?だから血とかないんだろうけど。



「す、すみませんでした…」



 くそっ…可愛い声だから従っといてやる…!あとは身体が光の玉じゃなきゃなぁ……!ほんと、惜しい…!



『ヒトの身体にもなれるけど、この状態が楽なの。呼吸もいらないし、貴方のようなムッツリにも触られることもないし。かなり便利よ』


「そりゃ便利だ…いや、ムッツリやめてね!?俺への風評被害をやめてね!?」


『間違ったこと言ったかしら?』


「ぐ…ぬぬ…」



 畜生…!




 触れるようになったらあんな事とかこんな事とかしてやる…!そりゃあもう色々と(規制済み)ってなるような事…!



「で、俺がいるここって天国?黄泉ってやつか?」




 先の思考について突っ込まれる前に質問。



『ここは…そうね。黄泉で良いわ。ちゃんとした名称がないの。あっ…いい記憶があるじゃない』


「え」


『ここはスタート画面よ』


「あ、あの。スーーーッ(焦りに染まった呼吸)………き、記憶って…お、俺の?ですか?」


『………ええ。ええ』



 ………俺はもう。誰にも顔向けできない。さぁ、神よ…俺を成仏させておくれ。ついでに記憶ごと全て…いやほんと、むしろ記憶を優先して!




 またも顔の前で止まる光の玉。




 なんだよ。…なんですか?俺の記憶に何かケチつける気ですか?プライバシーがあると思うんです。いや、ほんと。ね?




 だからほら、身体の周りをぐるぐるとふよふよと…ほら!



『…ムッツリ』


「キャァァァァァァァーーー……!!!」



 思わず耳を塞ぐ。何も知らない相手からの言葉は効かない…!けど、記憶を覗かれた上での言葉は効く!注射針よりもメスよりも鋭いぞこれ!




 耳を押さえてその場でうずくまる。多分上手くできてないけど、気持ちだけでも丸まっている。もう私お嫁にいけません!



「ぐ、ぐぅ…も、もう殺してくれ…」


『だ、駄目よ駄目よ!やっとやっと見つけた適性だもの!貴方は私の未来そのものなの…!』


「そーですか…ならメンタルヘルスしておくれ」


『………』


「いでっ!痛い、痛いって!なんで霊体なのに物理効くんだよ…!」



 分かったよ!分かった立ち直る!ほら!立ち直った!物理的にもほら!ぐるぐるふよふよ!




 はぁ~…死ぬ。死んでるけど。



「スタート画面だって?ここが?何もボタンとかないぜ。ゲームタイトルも、背景も」



 改めて見渡しても一面の無。虚ろが広がっている。もしもこの光の玉が姿を消したらと思うとゾッとするな。



『貴方には今から、貴方には今から、魔王が支配する世界を救ってもらうわ。貴方の知っているRPGゲームのようなイメージで構わないわ』



 どうやら、俺は勇者として魔王を討伐しないといけないらしい。多くの世界を恐怖に染めている悪い奴がこの光の玉の暮らす世界へ侵略してきたのだと。で、ここの空間はやはりスタート画面。それ以上教えてくれない。




 とりあえずはテンプレート通りのRPG。俺は勇者となり世界を救う。




 と、なるとだ。




 あるんじゃないの?チートスキルとか、チート装備とか。なんなら、ドラゴン的な強い使い魔とか!いやぁ楽しみで楽しみで仕方がない。




 …が。現実は酷い。



『ないわよ』


「キャァァァァァァァァーーー……!?」


『い、いちいち叫ばないでくれないかしら?』



 生身…!?そ、そんなことあり得ていいのか!?良いや駄目だよ!駄目だと思う!




 ん?あぁ、仲間だ。その世界きっと仲間が強いんだ。それか、つよい装備が落ちてるとかして、それを集めるんだ。そりゃあそうだ。叫ぶにはまだ早かったな。まずは革の装備にひのきの棒スタートってことか。



『………ない…わよ?』


「キャァァァァァァァ!?それなら魔王はどうにも出来ないじゃないの!俺TUEEEEは?ないの!?」



 いやまて!まだ希望はある!ついてくるんだろ?



「あんたが俺に、ついてきてくれるんだろ!?そうだろ!」


『………』


「あいたぁ…!?」


『そうよそうよ』



 こ、この光なぜ俺を攻撃する…?合ってるなら普通に言ってくれるだけで良いのに。




 とりあえず、一人では無いことを知れた。最低でも一人と一匹のパーティ。……魔王って単体で行動してるわけないもんな。足りねぇ…戦力。




 まぁ、展開が進まなくてそろそろ苛つく人も出てきそうだし、決意を固めよう。俺は出来る子。俺はやれる子。律臣くんは今日も、明日も、明後日も頂点だ。




 魔王なんか屁でもねぇぜ。なんなら俺の屁で蹴散らしてやる。



『うええぇ……』


「あぁ…ごめん」



 そっか。筒抜けだったわ。



「さぁ、いつまでもスタート画面を眺めているなんて、ゲーム実況者とかのやる事だ。俺はパンピー、スタート画面は見るが長居はしない主義。さぁ!異世界へ!魔王でも何でも、俺が解決してやらァ!」


『………』



「………」



『……?』



「……あ、あのー、早くスタートしてくれないと俺が滑稽なのですが…」



 と、世界が切り替わる。上には空。下には地。右左、前後ろには人と街並み。まさにファンタジー。おお、何て天気がいいんだ。




 今かい。



「………まぁ、まぁまぁ!切り替えよう!異世界FOOOOOO…!!」



 さて、まずは持ち物チェック。




 血濡れた学生服。ヘアピン。学生証。



「以上?」


『うるさいわ。こっちに来てそうそう叫ばないでくれないかしら?…あら、ご愁傷さま。痛々しい服ね』



 服の破けた方向通りに指を這わせる。




 何とも言えない。死の実感。あっちの俺は、この服の通りに。




 ……いやいやいやいや、先ずはお金の確認。所持金がないと何もできない。



『………お金なら私が貯め込んでいるから心配ないわ』


「おっ、サンクス!助かるぜ。…なら、次は情報と宿、夜に備えての食料と綺麗な水。と、マップ。先ずはこれだけ集めようか。ついてこいホタル」


『ホタル…?まぁ…何でもお好きなようにどうぞ』



 石造りの道。通る馬車。シンプルな衣服の人々、並ぶ露店に立つ店の人。おっ、あの人剣を持っている。俺も欲しい。ロマンロマン。




 でも、後で。




 俺の進む通りにホタルはついてくる。何も言わず、俺への干渉を控えめに。




 俺の記憶を見たから?



『…いいえ。そんなことはないわ。なんなら、頭の上にでも乗ってもいいのよ?』


「え、なにそれ可愛い。やって」


『えぇ……』



 嫌そうな声を上げたが、頭のうえにぽふっと重さが伝わる。なんか、誰かに手を乗せられている感覚だ。懐かしい気持ちになるよ。昔、俺にも頭を撫でてくれる人がいたんだぜ?




 まぁ、そんなことはさておきだ。




 ホタルを頭の上に乗せたまま、俺は周囲のものより一回りも二回りも巨大で立派な建物へと入りこむ。看板の文字は読めなかったが、よくあるようなゲーム通りの世界なら、ここは冒険者ギルドのはずだ。



「はっ、ビンゴだな」



 扉を開けると人が賑わうよくあるギルド。何人かが振り返り見つめてきて、でもすぐにお仲間さんとの会話に戻る。まぁ、定石だな。でも、話しかけてくる奴も居たりするよな。こういうのって。



「よぉ兄ちゃん。冒険者になるなら右から二番目のカウンターだぜ」


「おお、サンクス。あそこだな」



 ほら。髭面の怖い顔した大男が声をかけてきた。世紀末的な服装も含めて怖いけど、ファンタジー世界だと思うと別に普通かもとなる。この現象ってまさに魔法だよな。何か起きても、ここはどこだからって冷静になるの。




 強面髭大男の教えてくれたカウンターへ足を動かし、そして受付の女性に声をかける。あるあるだね。受付は女性とか。んで、周りの男はデカくてムキムキとか。



「貴方は初めての方ですね。冒険者ギルドへようこそ。今日はどのようなご要件でしょう」


「俺は勇者になりに来た。ってことで、ライセンス…?とか、冒険者としての証となるものが欲しい」


「分かりました。では、こちらの魔道具に手を置いてください」


「おお、魔道具とかロマンあるぅ」



 真っ黒な、黒曜石で出来ているような球体。手を当てるとゴツゴツとしていて、見た目よりも滑らかではなかった。でも、触るとどんどん温かくなって光が増していく。




 凄いな。見ていて楽しい。




 ……おっ、ヒビが入った。




 ……おっ、割れた。




 ……これはつまり、俺の力が規格外ということなんだろうよ。




 え?待ってよお姉さん。次の玉用意してどうしたの?あ、また手を当てるの?今度は琥珀で出来ているような透き通った玉。滑らかな表面が手にしっくりくる。




 そして同じように熱と光を放ち、そして割れる。また、破片が回収されて次の玉。いやどういう?



『黒い玉が割れたらF。オレンジの玉が割れたらE。段階的に試しているのよ。貴方のランクをつける意味合いでね』


「へぇ~。あっ、割れた」


『あら、今度は青ね。一つ飛ばして出してもらえたわ。これはB。割れたらなかなかよ』


「ふ~ん。…あっ、割れた」



 因みにランクって言うけど、どのくらいの細かさなんだろうか。最低ランクがF?っぽいかな。



『最高ランクはメイガス。アルファベット表記よりも高い表示は文字で出て来るの。上からメイガス、アダロ、エクタル、クェルト、そして………リリア。そのしたにAからFよ』


「なかなかに多いんすね…」


『………そうね』


「あっ、割れた。ってこれ、何個目だっけ」



 普通に会話してる中でも玉に手を当てる作業は続いていたから、今が何個目なのか把握できていない。NowLoadingがあるのなら丁度良いテンポ感のシルエットだと思う。いやほんと。




 ホタルも何個目なのか分からないらしく、頭の上でもぞもぞするばかりで何も答えない。仕方ない、お姉さんに訊こう。それが一番だよな。



「ねぇ、この玉のランクってなに?なんか…禍々しいけど」


「ただいまのランクはアダロ。こちらが割れればメイガスとなります」


「うおっ、かなり凄いんじゃね俺って。ねぇ、ホタル」


『ええ、ええ。ほんとうにほんとうに凄いことだと思うわ。まさか、こんなに……』



 でも、ランクとか言われてもステータスが分からないからな~。何とも言えない。例えば、武の才能が高くても、商の才能が高くてもコレは皆高いランクとなるケースが多い。




 つまりだ。俺のランクが高さは、ステータスの良さを表しているわけじゃない。筋力、知力、体力、どれも自信がない。でも、高いランクならば秀でているはず。何かが。何がだろ?ハチ公度合い?



『なわけないじゃない。高いとしたら…【耐性】かしら』


「身体が頑丈なのか。あっ、メイガスも割れた。……それより上無いんだよね?」


『いいえ…まだまだ、あるわよ。でも、メイガスより上だったとして割るのは一つだけ』



 そりゃそうだ。ランク超えてんのに無限に割られても、名前のつけようがないもんな。メイガスプラスワンとか。そうなってしまう。




 まぁ…構わないが。別にかっこいいし!メイガス!



「ん、割れた。じゃあ、最高ランク更新?」


『…………そうよ。ハチ公くん、以外と本当に規格外なのかもしれないわ』


「まじ!?やりぃ!」



 …と、声を上げて喜んだのも束の間。リンリンと甲高いベルの音が鳴り響く。音の源は俺の目の前。受付の女性のもつ金色に光るベルだ。



「ランク更新者が現れましたー!」



 受付の声に呼応するように続くのは。



「おお!やるじゃねぇか!」

「俺は初めから分かっていたぜ!あんたは雰囲気から違うって思ってたんだよ!」

「俺のパーティに来てくれよ!」

「今夜は宴だぁ!魔王討伐も夢じゃねぇぞー!」



 ムキムキマッチョ達のファンファーレ。



「あはは、なんか照れるなぁ」


『さぁ、手続きを再開して』


「あ、はい。すみません?」



 ホタルは冷静だな。




 その後、なんやかんやの手続きがあり、ライセンスを受け取った。少し厚めのプラカードのような、機体の基板のような、そんな感じだ。




 名前、律臣。性別、男。レベル、八十三。職業、交渉人。各種ステータスに、各種スキル。




 そして、



「ランク…アマツ?」


『おめでとう。メイガスよりも上のランクよ』


「………お、おう。何はともあれ俺が最高ランクだぜー!FOOOOOーー!!」


『あぁ…もう!うるさいのよ毎度まいど、自重してくれる?』


「すまないが、俺は俺の心に従うんだ~……ぜっ!」



 見えはしないだろうが、頭のうえに向かい指を差し、ウィンクした。さぁ、冒険者の登録は済んだ。なんか交渉人になってるけど勇者だ俺は。自認勇者で行かせてもらう。




 次は宿と飲食、マップについて情報を得たいな。受付の人に言えば良いのだろうか?



『飲食ならそうね。それと、軽い情報なら教えてくれるわ。あぁ、それに依頼の受付もね』


「そうか…」



 なら次は宿と雑貨屋といったところか?




 受付の前で顎に手を当てて考え込んでいると、視界の端から誰かの近づいてくる姿が見えた。この人も冒険者登録か何かなのだろうと、そこから少し離れて椅子に座る。…が、どうやら目的は俺のようだ。




 警戒すべきは初心者狩りという輩、そして、情報が少ないうちにホラを吹きこむ詐欺師。さぁ、距離が近くなってきた。敵か…味方か…果たして。



「ねぇ、君。最高ランクなんだって?」


「お、おうよ。何だ?俺に何かようでも?」


「あはははっ!そんなに警戒しなくたって良いよ。俺はエノム。君は?」


「俺は…律臣だ。よろしくな」


「リツトミ…か、よろしくね」



 金髪でイケメン。にこやかで何か話してるだけで自分の容姿が不安になる。



『ええ、彼のほうがかっこいいわ』


「はぁ!?」



 思わず椅子から立ち上がる。



「ど、どうしたんだい?急に…」


「あ、あぁ…いや、すまないな。たまに俺を罵る幻聴が来るんだ。それもかなりウザいのが」



 声は可愛いのに。ん?…まてよ?閃いた。



『……貴方の世界では、通報しました。って言うべきなのかしら?』



 記憶覗くなって…!一番効く!いやほんと!



「あはっ!君は感情豊かなんだねぇ」



 おっと、またこの完璧容姿のエノムを置き去りにしてしまった。でも、なんだかとても楽しげだ。今も目元を指で拭いながらこちらを見つめているくらいだし。ゲラなのか?エノムって。




 まぁいい。目的を訊こう。俺に近づいた理由も含めて。



「脱線させて悪いが、エノム、君の目的を知りたい。なんで俺に声をかけた?」


「目的…かぁ~」



 テーブルを挟んでお互い座っている状況。もし逃げだすならどこが良いんだろうか。水でも頼んでおくか?いいや、俺が相手視点なら警戒する。俺が人一倍警戒してるだけだと思うけど。




 両腕を広げて伸びるエノム。その姿も絵になる。



「ん~~!ふぅ~…まぁ、特に理由はないよ」


「ない?」


「うん。ない。ただ、なんか…何だろうな。君に声をかけないとって、そう感じたんだ」


「ふ~ん」



 つまりどういう事だ?エノムの意思ではなく、そうなるようにして成ったとでも?ベルトコンベアに置かれた資材かよ。




 と、なると、俺は今一人パーティだ。まぁ一匹いるけど。実質は一人のパーティだ。




 そして、目の前の彼に仲間は居ないように見える。なるほどな。



「仲間イベントってことか…」


『察しが良いのね。エノムは有能よ。魔王討伐に向かうなら必須レベルでね』


「………」



 なら早く言ってくれないか?めちゃくちゃメンチ切って印象悪いんだけど俺。



『ええ、ええ、なかなかに滑稽だったわよ』



 ぐ…ぐぬぅ…!



「リツトミ……?」


「おう、エノム!あんた、俺と魔王討伐に行かないか?宿と飯の金銭関係、それに交渉力?…は、保証しよう!」


「仲間に…か。良いね。なぜだかしっくり来るよ。よろしくね、リツトミ」


「おう!よろしく」



 エノムと机を挟んで握手を交わす。細く綺麗な手。畜生羨ましい。握る手を強くしたらそのまま折れんじゃないのかこれ…?




 一応、彼は腰に剣を携えていて、背中には弓も。オールラウンダーな前衛も後衛も務まるタイプ。なるほど強い。有難いにもほどがある。




 にしても、こんな手で剣が振れるのか?



「リ、リツトミ…?少し…くすぐったいよ」


「あぁ…ごめん。やけに綺麗な手をしているもんだから」


「ほ、本当?あはは、ありがとう。……なのかな?」



 めちゃくちゃ困った顔になっている。いやほんと、ごめんなさい。申し訳なくなってきた。




 とまぁ、仲間を得た。ここで起きそうなイベントはもう無いか…?うん、思いつかない。少なくとも今日の俺にはもう思いつかないわ。



「さぁ、ついてこいエノム。宿を探しに行くぞ」


「OK、リーダー」


「リーダー…!めちゃくちゃナイスな響きだ!」


『その割には、リーダーを務めることを避けていたみたいだけど?』


「ぶふっ…!!」



 き、記憶見んなよっ!!エッチ!このムッツリさんめ!



「リーダー!?だ、大丈夫かい…?」


「ふん、これしきのこと…俺にはナイフで切られた程度よ」


「何を言っているのか分からないけど、それってかなり致命的じゃないかい?」



 さぁ、気を取り直して宿探しだ。




 ギルドを出て、再び露店の並ぶ街へ。恐らくはこの店のどれかに紛れてんじゃないかなと思う。まだ外は明るい、予約くらいなら取れるんじゃないかな。




 エノムを引き連れて街をゆく。見たことないフルーツや野菜、鎧を着た人に、ムキムキと女性、元気に駆け回る子供。



「ん?どうやら、向こうでイベントがあるようです」



 道に落ちているビラを拾い上げ、教えてくれるエノム。



「全国規模の宿屋を営んでいるヤドヤー夫婦の主催で、優勝すれば十年間も宿泊費が無料になるパスポートが貰えるんだとか」


「ほー。なかなかに都合がいいイベントだ。よし、行くぞエノム」


「おお、予約があっても最優先で泊めてもらえるようになるそうだよ」


「よし、行くぞエノム!」



 エノムの指す案内のもと、俺は会場へと近づいてゆく。少しずつ賑わいが多くなり、人混みもかなり高く。




 流石に人が多すぎて足踏みしているっぽいエノム。だが俺にとってコレは試練の一つに過ぎない。俺はパスポートを取るんだ。虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うだろ?



「うぅ…通れそうにないね。回り道をして行こうか」


「いいや、平気さこの程度。スーパーの割引の取り合いよりは平和だぜ…!」


「す、スーパー…?」



 エノムの手を握る。いや…この人混みだ、途中で離れてはもう二度と会えないぞ。そんなことないだろうけど。




 エノムの手をより強く握り込む。



「リツトミ…!?え、えっと…ここからは通れないよ…?」


「いいや、行けるよ。エノム」


「で、でも……うわぁっ…!?」


「レッツラ……ゴー!」



 エノムの手を引いて人の集まりを通り抜く。ガードが硬いところは「通りますね」で切り開く。人というものは、毎回作られた道を通る必要はない。自分が通りたいと思ったところも、一つの道として進んでいいんだ。




 そして振り返ると、そこに少し人の隙間が生まれているだろう?ほら、道は俺たちの通った過程に過ぎない。



「エノム、通れないって言うのは」


「リツトミっ…ここは、道じゃないよ…!」


「通れなかったら言うもんだ。見ろ、俺たち今、進めていないか?」


「いいや、目的地に近づけているよ…!でも、正規なものじゃ…」


「ゲームとは、いかに開発者の虚を突くかだ。それが一つの戦略となり、そして公式となる」


「何を言っているのか…俺には分からないよ……」



 おっ、人混みが少なく、疎らになってきたぞ。もうすぐで人の開けた場所に出られるわけだ。遠回りより効率的で、そして刺激的で楽しい。




 人がコレを不正というのなら、俺は不正と受け入れよう。でも、ゲームは俺一人が動くわけじゃない。



『……ど、どういう事なの?』



 なんかうるさいな。…と、ふと左右を確認すると、俺と同じようにして人混みを掻き分けながら進む人達が見えた。ほら、やっぱり一つのルートじゃないの。



『ルートが………増えたっていうの…?』



 よし、人混みはこの列で終わり…だっ!




 無事、抜け出せたぜ~!



「FOOOOOOOOー!」


『あ、貴方…本当に規格外なのかもしれないわ』



 光の玉が頭の上から俺の身体の周りへ。ぐるぐるとふよふよと。これって何してんだろうね。



「リーダー…君は、凄いね。こんな道、俺には見つけられないよ。うわわわ…!」


「おぉ、驚かせたか。綺麗な髪にゴミがついちゃってたからよ。よし、受付探そうか。どこだー?」


「……リーダー!」



 ん?あれ、なんか怒ってる?



「俺…なんか、よく分からない気持ちだよ…!君のせいだ!もともと見えていた道が、何本もの道が…!」



 いや間違いなくキレている!



「もう…俺の道を壊したのは君だ。だから、俺は君についていくしかなくなった。それ以外、見えなくなった。……あはは…あははは!」



 ん?笑って…!?どういうこと…?



『…………解放されたのよ。だから、ああなってる』




 なるほどね。で、どういうこと?



「あはは…はぁ~…!リーダー」


「お、おうよ。何だエノム?」


「ありがとう。それと、改めてよろしくね。俺の名前はエノム・リェストン。リェストン伯爵家の一人娘だよ」


「………うん。うん?うーん…うん!?」



 エグい。脳みそ破裂しそう。




 まず、うんを四段活用してしまったことに対して驚いた。



『絶対それじゃない…』



 うん。そうだね。エノムが伯爵令嬢だったってことだよね。めちゃくちゃ手を握ってしまったね。無礼を働いたね。



「スーッ…!(物凄い焦りが混ざった呼吸音)」


「あははは、気分が良いよ。凄く解放感がある!…本当に、ありがとうリツトミ!」


「ぐ、うぉぉおお……」



 だ、抱き着かれています。どうすればいい?俺はこの腕をどうすればいい?あと、あとね、胸が、当てられてます。




 彼…いや、彼女のほうが背が高いから、より圧倒感がある。




 いや、これはマジで死ぬ!



「キャァァァァァー…!!」


「うおっ!?ど、どうしたんだい?」


「オレハ…オンナノコ…サワルト…グ、グエエエェェェ………」


「え!?リ、リツトミ!?リツトミーーー!!」



 俺はぁ…よぉ。どうにも女の子がぁ……よぉ。



『まぁ、貴方の人生的に無理もないと思うわ』



 だ、だから記憶を覗くなって…ぐえ。



 俺はそこで意識を失った。だが、温もりとあの柔らかさは頭から離れない。それに、過去のトラウマも。




 異世界に来てそんなに経過していない。だが、密度が濃すぎてちょっとキャパオーバー……かも。



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