EP1-28.
洋人がメーカーの工場を発見したのはほとんど偶然だった。
日本支部が使用している衛星のリンク方法をリンより聞いていて、シェルター近くでそれを利用していたら、海岸沿いに高出力の熱源を見つけたからだ。
BDが歩いている程度の出力だと、照明くらいの光点に見えるのが通常だ。
先ほどAFが扉を開ける為に高出力を出すことで光点がより明るく見え、洋人は発見出来たというわけである。
「さて、こちらの素性を教えたわけだが、あちらはどう出てくるか…。」
洋人が搭乗しているBDのアラート情報は先ほどの戦闘よりは少なくなっているが、依然としてちゃんとしたメンテナンスが必要な状況ではあった。
ここに来る途中で、人が避難していて誰もいない溶接工場があり、油漏れを解決する事が出来たが、漏れた分の補充が必要だった。
そのおかげで機敏に動くことが厳しくなっているので、メーカーの工場で対応出来るかもしれないという期待を込めてここまで来たのである。
「ここはメーカーの秘密基地なのか?だとしたらお披露目する予定だった新型BDもここに来ていたりするのか?」
メーカーの工場らしいという事は、衛星で微弱ながらも所属別の識別信号を拾えたので気付くことが出来た。
「新型が見れる可能性もあるな、運が良いか悪いかはこれからの出方次第だな…。」
「咲原 洋人、日本支部陸部隊所属の一般クラスですね。」
「戦績は無い、写真データも無し。若い声だったし、まだ入って間もない新入りか?」
メーカーメンバー達は、自分達が閲覧可能な日本支部に関わるデータベースにアクセスして、洋人の事を注意深く確認していた。
洋人が日本支部に所属しているという情報になっているのは、リンに情報操作をしてもらった為だ。
外部から見たアクセスレベルの処理のみなので、日本支部がアクセスしても洋人の情報は見れない仕組みにはなっている。
「この状況で一人でここまで来ますか?さすがに怪しすぎますよ。」
湊もソファから立ち上がってデータベースを見ながらそう言った。
「確かにそうですね。でも、テロリスト達に人員を費やしているから、危険そうじゃない場所と判断され、単独で派遣された可能性もあるのでは?」
「出ていったらいきなり攻撃される可能性だってある、どう考えてもリスクとしか思えない。」
「うーむ。では、このままAFを飛ばしてしまって逃げるか?」
「それもリスクかと。初めての飛行になりますし、フラフラしているうちに落とされることだって…。」
「じゃあ、地上で抵抗しますか?きっと相手は現行型止まりですし、バリアを駆使すればなんとかなるでしょう。」
「そうじゃな、それが一番良い選択かもしれん。」
「平和のための利用は凄く遠いですね…。」
「AFの状態は良好です。湊君、いけますか?」
「我々は中にいるから対応してきてくれ。そろそろ地上戦は大丈夫じゃろ?」
「ええ〜、それって本気で仰ってます…よね?」
湊は皆の顔を確認した。他のメンバーが同時に頷いたので、湊は少しうなだれた。
「分かりましたよ〜、頑張ってきます!」
「待ってください。相手は一人のようですし、もう少し交渉してみるのはどうですか?」
「それもそうだな、味方してくれる可能性だってあるかもしれん。」
「ほんとですよ!それで行きましょう!」
戦闘することが無くなるかもしれないと思った湊は、心の中で大いに喜んだ。
「出てこないな…。」
工場の中と通信をしてから10分程度経ったが、メーカー側から人が現れる気配は無かった。
「警戒するにしても、あちらの方に十分な利があるはず。見られたくない、余程の物があるのか?」
などと試行錯誤していると、メーカー側の通信信号が入った。
「はい、直接お話をされるという事でしたが、何かトラブルがありましたか?」
洋人は極力冷静に対応することに努める。
「長いことお待たせして申し訳ございません。あなたの事を少し調べておりました。」
「ああ、そうでしたか。」
洋人はデータベースのダミー情報を確認したと予想をした。
「あなたが日本支部所属として、一人でここに来られたという事に疑問を感じております。真意をお教え頂けないでしょうか?」
「なるほど、分かりました。工場内から私のBDが確認可能でしょうか?」
「ええ、確認できています。日本支部で多く運用している「六B型」ですね。」
「間違いありません。正直に言います、これはテーマパークの騒動で乗り込む事になったBDです。」
「テーマパークからですか。」
「はい。私はあのイベントではただの客でしたが、緊急事態によってBDに乗り込む事になりました。」
「ちょっと待ってください。今、ただの客と言いましたか?」
「そうです。私は元々、日本支部と協力してBDに乗っていた傭兵。世間ではヨージンと言う人もいます。」
「…少しお待ちください。」
「分かりました。でも時間が経つほど、戦況はあっという間に変化している事をお忘れないでください。」
「それは、把握しております。」
今度はミュート状態になり、沈黙が訪れた。洋人はヨージンという名前がどのくらい広まっているかも調べる為、メーカーメンバに仕掛けてみた。
洋人は次の手を考えようと思ったが、ほんの数分でミュート状態が終わったので、気持ちを切り替えた。
「君はヨージンと呼ばれていたと、間違いないんだね?」
今度はリーダーっぽい声色が聞こえてきたので、洋人は話した事が少しは有効だったと感じた。
「そう話している人もいると聞いただけで、私自身はその様に名乗った事はありません。」
「なるほど。実は、君がエジプトで作戦をしていた時に現場にいた事があるんだ。」
「そうですか、キャンドルの悲劇は辛いものでした。」
「そう、キャンドルの悲劇。全員を救えなかったが、君は勇敢に立ち向かったのを見た。」
「見たということは、後方支援だったのですね?」
「そうだ。だが、結構前線にいたので危うかった。分かった、君の言っている事を信じてみよう。」
「ありがとうございます。希望はメンテナンスの場所と少し予備品を分けて頂けたらと考えています。」
「分かった。えっと、申し訳ないが、BDから降りて、身一つでゲートに来てくれないか?」
「…分かりました。機密情報は絶対に保守します。」
「感謝する。」
通信が終わったので、洋人は護身用のハンドガンだけ用意してBDを降りた。
大きな扉の少し横に人用のゲートがあったので、洋人はその前に立った。ゲートもBD用の扉と同様、衝撃に強そうな見た目だった。
「洋人さん、横にあるボックスに携帯品を入れてください。」
中から声が聞こえてきた。洋人は指示に従い、扉の横から飛び出してきたボックスに持っている物を入れる。危険は伴うが防弾チョッキもボックスに入れた。
入れ終えたら、ボックスは引っ込み、セキュリティチェックを開始した。
「問題ありません、ゲートのノブを引っ張ってお通りください。」
ゲート上のライトが青く点灯した。洋人は言われた通りにノブを引っ張ると自動でゲートが開いたので中に進んだ。
工場内に入るとメーカーメンバーが二人立っていた。一人が洋人に近づいてきて、腕輪を取り付けた。
「手厚い歓迎ですね。危ない事は起こしませんよ。」
洋人には腕輪に何か細工が施されているのが分かった。
「すみません、念のためです。そちらにセキュリティチェックを終えた携帯品がありますので、お返しします。」
携帯品を受け取った後、AFが立っている場所に案内された。見たことないフォルムのBDを見た洋人の感情は高まり始めた。
「最低限の対応に協力してもらって申し訳ない。改めて挨拶しよう、私達はロボットメーカー「ピースコネクト」のメンバーだ。」




