EP1-27.
テーマパークからおよそ15kmほど離れた東の海岸沿いへとたどり着いたメーカーメンバー達は、コンクリートと鉄筋だけで作られたと推測出来る、四角い建造物の扉の前に立っていた。
建造物はBDの倍ほどの高さ、広さはBDが5体は入るほどありそうな建物だ。扉もBDが入る事が可能な大きさだった。
扉の横には人が操作出来る端末があり、それをBDから降りた開発者メンバーが操作をしていた。
「湊君、そこから中にあるレーダーとリンク出来たかな?」
「はい、通信は良好です。周囲に熱源が動いている様子は無さそうです。」
BDに搭乗しているのは操縦している湊だけで、他のメンバーは端末に表示された画面に対して試行錯誤している状況だ。
「簡単には破られないセキュリティにしたのが間違いだったかの?」
「いや、この中には私達が築き上げてきた努力の結晶が詰まっています。これくらい難しいレベルではないと平和が危ぶまれてしまいます。」
「まあそうじゃな。それで、どれくらい進んでいる状況じゃ?」
扉を解除する為の端末には文字や記号の羅列が表示されていて、何やらクイズを表示して問いただしているような感じだ。
それらの文字や記号をタッチ操作して動かしていたりして、まるでパズルを楽しんでいるようにも見える。
「もう少しでクリア出来そうですよ。私達が分かる範囲の問題ですが、ランダムに表示されるので、とても工夫されていますよね。」
「非常事態でも解除出来ない仕組みにしたのは少し失敗したかな?」
「いや、悪い奴らに利用されるよりこれくらいしておいた方が良い。湊君もそう思うだろう?」
「はい?あまり開発関係の事は知らないですが、テクノロジーは良い方向で利用される方が良いと思います。」
「これだけ機密情報に関わってしまった以上、湊君もこちらの仲間に入ってくれればいいぞ。」
「いや〜、僕はテストパイロットくらいで十分ですよ~。」
「はい、クリア出来ました。解除可能な状態です。」
先ほどまで文字や記号を表示させていた端末は、大きな青丸表示のみになっていた。
「湊君、周囲は先ほどと変化がないですね?」
「えっと…はい、すぐにこちらに来れる距離には何もありません。」
「ん?それはどういう事じゃ?」
「操作をしていたら少し範囲を広げられる機能がありましたので。その機能をONしますと、テーマパーク近くで動いている熱源をはあります。」
「なるほど。まあ特に問題ないじゃろ、解除しようか。」
他のメンバーも頷いて同意を示した。
「承知しました、解除しますよ。」
表示されている青丸ボタンを押すメンバー。端末は次に黄色くなり、「UNLOCK」という表示をさせて扉のロックを解除した。
「じゃあ、扉を開放してくれ。」
「承知しました!」
湊はBDを操作して大きな扉の取っ手を持ち左右に開く。扉は何重にもなっている構造で、BDもしっかりと踏ん張ってハイパワーモードで扉を開いていく。
「湊君、先に入っておくぞ。入ったらちゃんとドアを閉めるのも頼むぞ。」
扉は人が入れる程度に開いたので、BDから降りていたメンバーは建物の中に入っていく。
「承知しました。しかし、どうして手動扉にしたんでしょう?」
「それは電動で開けられたら困る意味もあってそうしているのですよ。先ほどのセキュリティ操作だって、ちゃんと人の手で操作しないと解除できない仕組みですし。」
「なるほど、確かにハッキングされて簡単に開けられたら意味がないですね。」
数分経ってようやくBDが入る事が出来た。中に入ってすぐに扉を閉めようとすると声をかけられた。
「湊さん、中からは横に置いているプッシュユニットを使ってください。すぐに閉められるはずです。」
「あ、はい。ああ、これですね。確かにすぐに閉められそうです。」
湊は扉を閉める為のユニットをアームで掴んで、扉の側面に差し込み、ユニット操作をすることで手早く閉める事が出来た。
「では、ロックします。」
扉が閉まったことを確認したメンバーは、中にあった端末を操作して扉にロックをかけた。
「さて、新たな試みを行うとするかの。」
「湊さんもお疲れでしょう、AFから降りてきて少し休みましょう。」
「はい、ありがとうございます。」
湊はテストで数回しかしていない、降りるための操作を思い出しながら、確実な動作で他のメンバーの所へと降りてきた。
長時間BDを操縦していたこともあって疲労していたのか、降りてすぐの所にあったソファに勢いよく座り込んだ。
「やっぱりBDの中と外では空気が違いますね。」
湊は周囲を見渡すと、操作しているメンバーの前に大きなコンテナがあるのが見えた。
「(なんだかまた凄そうなのがあるなぁ。)そういえば先ほどおっしゃったAFって何ですか?」
「ああ、このBDの名前だよ。『エル・フテュール(AF)、未来への羽という言葉で、いわゆる私達の希望というわけだ。」
「へぇ、未来への羽。良い名前ですね。でも、このBDには羽なんて付いていませんよ。」
「ああ、今からその羽を生えさせるんだ。」
「ほら、あちらを見てください。」
端末操作をしていたメンバーが指差した先を見ると、目の前にあったコンテナが左右に開放されていた。
「なるほど、確かにあれは「羽」ですね。」
コンテナの中にはBDに取り付けられそうな翼状の銀色パーツと、先端にクリスタルのような物が取り付けられた長い棒があった。
「そうです、AFの本当の力を発揮させる為の物です。」
「あの、もうこの辺りは安全そうですし、戦闘をしなくても良いと思うのですが…。」
「まだまだ起こる戦いで多くの悲しみが作られてしまうのです。先ほどの戦闘では分からなかったかもしれませんが、AFはそれを守る為に開発されたBDです。」
「そうなんですね。」
今の発言でも湊には全然響いてなかった。
「とりあえず、取り付け作業にとりかかろう。まあ、自動で制御するからすぐに終わるがの。」
メンバーは端末にメモリのような物を取り付けて、流れよく操作をしていく。
するとスムーズにBDと翼ユニットがドッキングポジションに配置され、自動的にお互いに接近を開始した。
「ただ、羽が生えたAFを湊君が対応できるかが心配な点ではある。」
「本当にそうですよ!だって、空を飛びながら戦闘するって事ですよね?」
湊は慌てて返答をした。
「そうですね…。あのロッドで的確に相手に当てられるかも大変かと思います。」
「あの棒はロッドなんですね、なんだかRPGみたいに感じます。」
「う~ん、AFは私達の希望でもあるからな。湊君になんとかしてもらうしかない。これがマニュアルだ、これで操縦可能なはず。」
湊は数ページしかないマニュアルを受け取って、さっと読み始める。
「平和のためというのでしたら、精一杯頑張りはしますけど…。」
話をしているとガシャンと音がした。BDと羽ユニットが無事にドッキングを完了した音だ。
「ドッキング、特に問題は無さそうです。マジックゲージも良好です。」
「マジックゲージって、魔法でも使えるのですか?」
「まあ、そんなとこだ。詳しくは実戦で理解してみようじゃないか。」
「なんだか操作が複雑になっている気が…。」
「でも、ここでは湊さんが一番乗りこなすことが出来ます。自信を持ってください。」
「分かってます、努力は致しますよ。って、アラートですね。」
建物に設置された警報装置からアラーム音が鳴り響き、端末モニタにも「警告」の表示が現れる。
「こちらに単独でBDが向かってきますよ!」
「何故、ここが把握されているんだ?迷ってしまって、こっちに来ている可能性もあるか。」
「そういう可能性なら、まっすぐにこちらに向かっては来ないんじゃないですか?」
「確かにそうですね。あっ、通信信号です。出ますか?」
アラーム音と一緒にピピピッと甲高い音も鳴り出した。
「そうだな、私が応答しよう。」
メンバーでも上司にあたる一人が通信機器を操作して、相手との通信を開始させた。
「えっと、聴こえますか?」
メーカー側からの応答に対して、相手からは少し雑音交じりで声が聴こえた。
「こちらは日本支部の者です。もし可能でしたら、御社の工場内を見せて頂けないでしょうか?」
「それは、企業秘密ですので許可できません。しかし、何故ここに工場があると分かったのでしょうか?」
通信コードも把握されていることに、メーカー側はますます警戒心を強めた。
「あまり公には答えられませんが、衛星画像を操作して、ここにあなた達が来られたのが分かりました。」
「あーなるほど…、それでも工場内を見せるわけにはいかないです。一旦、外でお話しましょう。」
「承知しました、お願いします。先に名前を名乗っておきます、咲原 洋人といいます。データベースで調べてくださっても大丈夫です。」
そこで通信が遮断された。レーダーもBDの存在を認識しており、相手との距離は数分で工場に到着する距離だ。
「咲原 洋人、何者でしょうか…?」




