EP1-24.
零奈達と通信を終えた洋人は、これから始まる戦闘について考えていた。
「篠塚が見た情報から考えて旧式のアレンジタイプ、バックパックにフルマリンを利用した武器を用意しているみたいだ。それに、ディムディス炉を持っている事も厄介だ。一体、どこのテロリストが用意したんだ?MOT達はこの存在を知らなかったのか?」
今回のテロは政治的な何かがありそうだと感じながら、洋人は相手に有効なBDの調整を行っていた。現在運用されているBDはデータを書き換える事で、腕や足の出力バランスを変更できたり、災害時に家庭用機器の電力用バッテリーとして運用したりする時に活用する「省エネモード」にする事も出来る。
「高出力を必要としているBDだから、おそらく足は鈍いはず。スピード重視ならば問題ないか…、いや、見えない所にサブブースターもある可能性が。」
洋人が一人で来たのはディムディス反応を持つBDがいたか確証もないし、零奈達を救う為に来たという私情もあったためだ。
リン達は「一緒に行こう」と言ってくれたが、さすがに日本支部を使ってまで確実ではない情報に突っ込むのはよくないと考え、断って単独で来た訳である。
色々と試行錯誤しているとシェルターに近づいてきたので、ブースターを切って相手に気付かれない場所から静かに距離を詰めることにした。
「やはりフルマリン用の武器を背負っているからレーダーは甘いようだな。それでも射程距離まで近づけるかは微妙だが…。」
BDの操作パネルには地図をモニターしており、シェルター近くに熱源反応を示す光点が表示されている。
洋人は狙撃で対処する事を考えて、リンからライフルとレーダーを借りてきていた。ライフルは軽量型で戦闘機などに有効なライフルなので、相手に致命傷を与えるには数発狙撃する必要がある。
シェルター周囲は倉庫群にもなっている事もあり、洋人はコンテナなどを遮蔽物にしながら相手との距離を詰めていた。相手との距離がおよそ2km、ライフルの有効射程距離内に入ったところで洋人は少し高い建築物から相手を確認する事にした。
「ここからなら…見えた。まだ採掘中のようだが、もう結構取っているだろうな。」
洋人はライフルを構えて相手に狙いを定めた。狙うのは腕と足、持っている武器で対抗できないようにしてから制圧する作戦だ。
ズームカメラを利用して照準を調整するが上手くいかない。このBDは近距離用に調整されていたのでアームが細かい操作についていかない為だ。それに洋人の腕にも関係している。
「この距離は本当に難しい。全然当てられなくて、先輩達によく怒られたな。」
洋人は過去の戦場を思い出しながら微調整を続けた。
「でも確実に対処する、今だ!」
洋人はトリガーを押してライフルから弾丸を発射した。まっすぐに飛んでいく弾丸は空気抵抗を受けながらも相手に向かっていく。
「そのまま下に向けて、ここだ!」
洋人は次の弾丸をすぐに調整して発射した。相手が気付いて動く前に腕と足を仕留める形だ。
「確認していたいが、ここがバレると不味い。」
洋人は相手の反撃を予想してすぐに場所を変更する。狙撃地点に相手が近づいてきたら背後から対応する考えだ。
狙撃地点から500mほど離れた地点に移動しながら洋人は、相手の様子をレーダーで確認する。相手はフルマリンを採取している所から移動しており、ゆっくりだがこちらに近づいてきているのが確認できた。
「被弾状況が分からないが警戒されているな。でも逃げないという事はやれていないか…。」
洋人は自分のスキルレベルに情けなさを感じつつも、次の行動に移る。武器をライフルからグレネードランチャーに持ち替えて、相手が近づいてくるのを待った。
「予想だが、相手が持つレーダーは7、800m程度のはず。さぁ、来てくれよ。」
洋人は途中でこちらの存在に気付くのを予想して、グレネードによる射撃が可能な場所で相手を待った。
「もう少しで気付くはずだ…、む!これは!」
洋人は熱源アラームにすぐ反応し、立っている場所から横っ飛びをした。すぐにその場所をレールガンのような砲撃が襲いかかった。熱源に襲われた地面は削れてしまっている。
「もうフルマリンを精製対応しただと?バックパックに搭載しているのは未知の新型か、まずいな…。」
洋人は撃たれた方向に脚部に取り付けられたミサイルを発射する。ジグザグに飛んでいくミサイルは相手を翻弄する特性を持ち、着弾前に爆発して煙を発生させるので、主に攪乱に使用するミサイルだ。
相手がいる方向で広がった煙を確認したら、懐に入る為にブースターで一気に距離を詰める。
すぐに右方向で砲撃音が鳴り響いたので、攪乱は成功していると洋人は感じた。
しかしその考えは甘く、数秒後に次の砲撃が発射され、肩フレームをもぎ取られてしまった。
「くそっ!こんなに速く連射が可能なのか!でも、まだこっちは分かってないはず!」
レーダーで距離を確認してグレネードを放つ洋人。着弾したかは分からないが、光点は少し止まっているように見えた。
「有効打にはなったか!?」
煙が晴れたところで距離は200mまで近づいていた。お互い相手が見える形になり、すぐに洋人はグレネードを威力は低くなる連射モードに変更し、横移動しながら撃ちこむ。相手も出力を弱めたのか、フルマリンによる砲撃のインターバルが短くなる。
「あんなに重厚なBDなのに速いな、明らか隠していたテクノロジーだな!」
何か所か砲撃を受けてしまった洋人のBDは警報音が鳴り続けていた。オイル漏れも発生しているのか、少しスピードも低下してきている。
「もう少しもってくれよ、相手も同じ痛みを感じているからな。」
モニターに映し出されている相手は、フルマリン砲はまだ生きているが、両腕と腿にダメージを与える事が出来たので、ブースターを小刻みに使いながらの直線的な移動が多くなってきた。
「よく逃げなかったと思うが、まさか共死にを求めているわけじゃないだろうな!?」
ローカルにて通信を試みたが、相手からの返答はなかった。
「フルマリンの暴発も考えるとシステムを破壊するしかない。しかし、ディムディス反応炉を持っているこいつの脳だけをどうやって破壊すれば…。」
行動が鈍ってきた相手の砲撃は洋人にとってもう脅威ではなくなってきていた。それでも攻撃を続けている相手に違和感を洋人は感じ始めてきた。
「こいつ、まさかAIで動いているのか?もしそうだとすると…。」
洋人は相手が自動制御で動いていると考え、ある装置を起動した。その装置は時限爆弾などを探知する時に使用する物で、近くに時限装置がある場合にアラートで知らせてくれる物だ。
「まさかな…。」
起動した装置はすぐにアラート音を発生させて時限装置の存在を知らせた。洋人は相手が自爆で巻き込む為に攻撃していることを察したが、どうするか戸惑っていた。
「シェルターも巻き込まれるから逃げるわけにもいかない。くそっ、遠隔で解除出来そうな物は持ち合わせてないぞ。しかし、このままではさすがに…。」
洋人は何か方法がないか必死に考えると、ふと昼頃の出来事を思い出した。
「そういえば、あいつが仕掛けたユニットがあったな。何が起こるか分からんが使ってみる価値はあるか。」
仮面の男が困った時に使えと言っていたことを思い出し、遠隔操作でユニットを起動させた。
すると風圧や電磁波などの測定メータの数値が一瞬振り切ったが、元の状態にすぐに戻った。
そして、相手からの砲撃や行動も止まっている事が分かった。
「止まった。特殊な磁場でも発生したのか?でも、こちらは無害。あいつの言っていた通りだ。」
何が起こったのか不思議に感じつつも、洋人は目の前で静止しているBDを見つめた。




