EP1-23.
「まずい事になりそうって…?」
智里も戸惑いの表情をしながら男性に問いかけた。男性の顔には冷や汗が浮き上がっていた。
「もし、この近くでディムディス波が暴走でもしたら、シェルター内にいるとはいえど、少なからず影響が出るだろう。」
ディムディス反応が引き起こす波動は人体に悪影響を及ぼしてしまうので、国際的に排除する事になっている。波動のレベルが大きいと重大な影響も出てしまうので、近づいてはいけないと学校でも教育するほど問題なテクノロジーである。
しかし、高度成長時代では安価でエネルギー問題を大きく解決する技術だったので、現在もテロリスト達が使用していたりしていた。
「このシェルターってそんなに丈夫じゃないんですか?」
「そうだな。俺は建築分野も少し勉強したが、ディムディス波の波長はとても強くて細かく、一般的な素材は通り抜けてくる。シェルターにはディムディス波をあまり通さない素材を混ぜ込んでいるという話を聞いた事があるが、すぐ近くで暴発してしまうと影響が出ると思うな。」
「そ、そうなんだ。本当にまずいじゃないですか。」
「そうだが、こんな状況で出るわけにもいかない。どうする事もできないよ。」
「そ、そんな…。」
「あっ、でも緊急用のリカバリースプレーを使用したら、一時的に反応に対抗できる抗体が出来るって勉強しました。」
キッチンで話を聞いていた零奈が緊急ボックスを開けて、スプレーを取り出した。スプレーは銀色の容器でラベルには使用上の注意が大きく書かれている。
「そうね、抗体を作っていたら影響が出ないかもしれない。でも、ディムディス波の抗体が出来るまで時間が足りないと思う。」
避難している女性の一人が話し始めた。
「えっ?抗体が出来るまでの時間が足りないって、どういう事ですか?」
「私、看護師になる勉強をしているんだけど、そのスプレーを使用しても、ディムディス波から守る抗体が出来るまでに6時間は必要って勉強したの。だからあのBDがディムディス波を発してしまうまで間に合わないと思うの。」
「…そ、そんな。」
「でも、とりあえず何もしないよりは良いと思うわ。」
「そうですね、早速スプレーを使いましょう。」
シェルターに避難している皆で手分けして緊急用スプレーを吸引する。
「みれい、お薬やだ~。」
みれいは母親がスプレーを鼻に近づけると手で抵抗する。
「みれい、これを身体に入れておかないともっとイタイイタイになるんだよ。」
「イヤなもんはイヤなの!絶対イタイんだもん。」
「あらあら、このスプレーはお花さんの良い匂いがするんだよ~。」
看護師を目指す女性がみれいに近づいてきた。
「お花さんの匂い?ほんとう?」
「うん。みんな好きなものが違うから、色々な匂いを用意しているんだよ。ほら、良い香りだよ~。」
女性の持っている黄色のスプレーにみれいが近づいてきたので、女性はそっと、みれいの鼻にスプレーを吹きかけた。
「わっ、お花さんの良い匂いがする~♬」
「ちゃんと鼻の中に入れなくても、吹きかけるだけでも大丈夫なんでしょうか?」
母親が女性に怪訝そうな顔をしながら確認する。
「大丈夫です。こうやって広範囲にスプレーをする事で鼻や口、皮膚から全体的に身体にちゃんと浸透してますので。」
「そうなんですね、みれいにもスプレーが出来て良かった。」
女性はみれいの全身にスプレーを少しずつ吹きかけていた。
「わ~、みれいお花畑にいるみたい♬」
「ほんとだね、みれいちゃんの周りにお花がいっぱいあるみたい。」
「わ~いわ~い、お花がいっぱ~い。」
みれいがはしゃいでいる片隅で、モニターを何人かの男性たちと零奈達が眺めていた。
「さて、あのBDはやっぱりこちらに向かってきているな。」
「でも、何かを探しているように見えるね。」
モニターには地上に降り立ったBDが周囲をウロウロとしている様子を表示している。
「この近くに何かが埋まっているのかしら?」
「何か分からないが、埋まっている物を探しているのは確かだよな。」
「そうか、あいつはフルマリン鉱石を掘り起こそうとしているんだ。」
「フルマリン鉱石?」
「あっ!鉱石をエネルギー源にしたすごい兵器があるって勉強した事ある。」
「そうだ。あいつが背負っているあの武器がまさにそれだ。」
老人の一人がモニターに映ったBDの背中を指差す。
「フルマリン鉱石も確か、国際条約で使用禁止になったのよね。」
「ああそうだが、その鉱石を廃棄している場所がこの辺りになっているわけだ。」
「え、そんな危険な鉱石をどうしてちゃんと処理していないのよ?」
「当時は数年の時間が経つと自然に還ると考えられている鉱石だったから、とりあえず海の近くに埋めたわけだ。だが、長い時間が経たないと自然に還らない事が後で分かっている。」
「そうなんだ。あいつら何を考えているんだろう?」
「大丈夫だよね?」
モニターには地面を掘り始めたBDが映っている。建設機械のように効率よく掘れないと皆が思ったが、持っているドリルで器用に掘り進めていた。
「あっ、キラキラした物が出てきたよ。」
「あれがフルマリンだ。時間が経っているし精製していない物だから、エネルギー効率は悪いはずだ。」
「じゃあ、もうしばらくはあの状態が続くのね。」
「こんな、不安な状態が続くのやだなぁ。」
「何か進展があったら声をかけるから、君達は先にご飯を食べておいて。」
「そうですね、すぐに動けるようにしておかないとですね。」
零奈達は用意していた食事を摂ることにした。
「おいしい?みれいちゃん。」
「うん!おいしいよ。ありがとう零奈お姉ちゃん。」
「よかった、ありがとう。」
食事をしていると、携帯端末のコール音が鳴り響いたので智里が確認した。
「あっ、咲原君だ。ちょっと端っこで話してくるね。」
「私も行く。」
零奈と智里は部屋の端に行き、携帯端末を操作して洋人と繋いだ。
「もしもし、咲原君?」
「篠塚、今もシェルターは無事か?」
「うん、大丈夫だけど。何かあったの?」
「少し気になる反応があったとの情報をもらったから、今そっちに向かっている。」
「うん、そうなの。今、すぐ近くにディムディス反応を発しているBDがいるの。そいつ、フルマリン鉱石を集めている。」
「そうなのか、それは少し厄介な事になっているな。」
「というか咲原君はどうやってこっちに向かっているの?」零奈が確認する。
「あまり言いたくはなかったが、今BDに乗っている。」
「…そうなんだ。」
「驚かないのか?」
「驚いているよ。でも、あんたの行動とか見てたら、そんな考えが浮かんできてたよ。」
「…ここだけの話にしてほしい。」
「まあ、この問題が解決したら詳しく聞くかもね。」
「…わかった。とりあえず、そいつを処理しないといけない状況という事だな。」
「あんたに出来るっていうの?」
「そうだな、なんとかしたいと思っている。」
「なんとかしなさい、信じているからね。」
「わかった、そいつに何か動きがあったら連絡してくれ。」
「うん、気を付けてよ。」
「ああ。」
そう話すと通信が遮断された。
「はぁ、びっくりだね。」
「まあ、なるようにしかならないよ。さぁ、ご飯食べよ。」
「う、うん。」
「……。」
零奈と智里の様子を浩二は食事をしながら眺めていたが、深くは考えないようにしようと思った。




