1.それぞれのリタルク・ルミナリア
本日より第七章が始まります。
祝祭の夜、それぞれの想いが交差する群像劇の幕開けです。
初回はルチカ視点。
リタルク・ルミナリア、その名を聞くだけで胸が躍る祭り。
宿の窓辺に立ち、遠くから届く祝祭の音に耳を傾ける。
華やかな音楽、人々の弾けるような笑い声。風に乗って運ばれてくる香ばしい屋台の香り。窓の外には、色とりどりの秘石ランプがまるで星々を地上に落としたように街を彩っている。闇夜に浮かぶその光景は、倉庫の商品だった絵本で見た「夢の国」そのものだった。
けれど、ここにいる私だけがまるで水の中から陸を眺めるように、あの世界と隔てられている。すぐそこにあるのに、触れることができない幸せ。
「……行きたいな」
小さく呟いてから、慌てて口を手で覆う。
レザト様は今、街の安全を守るために休む間もなく働いている。あの凛々しい背中を思い浮かべると、胸が締め付けられる。
先日、カイさんに案内されて街を歩いたときのことを思い出す。あの時のレザト様の困惑した表情。私のせいで彼に余計な心配をかけてしまった。だから、今は大人しくここで待っているべきなのだ。
――でも。
思わず伸ばした指先が窓ガラスに触れる。冷たい。その感触が、今の自分の立場をはっきりと思い出させた。
本当に私がレザト様の妻として相応しいのだろうか。
あの煌めく街の中に私の居場所があるのだろうか。
祭りを彩る秘石ランプのひとつひとつが、どこか遠くへの道しるべのようにきらめいている。人々は家族や友人、恋人と手を繋ぎ、同じ時間、同じ光の中で笑い合っている。
くらりと目眩がした。
ふと気づけば、私は鏡に映る自分を見つめていた。顔に残る傷跡に指が触れる。
港の倉庫の隅。ローレンス家の屋根裏部屋。
幼い頃から誰にも望まれず、必要とされず、ただ孤独に耐えていた日々。
「それは、もう過去のこと」
鏡に向かって言い聞かせる。
「レザト様が……私を選んでくれた」
その名前を口にすると、不思議と胸が温かくなる。彼の瞳に映る私は、傷を持ちながらも愛される存在。彼が見せてくれた世界は、本物だ。
だからこそ、その優しさに甘える自分が申し訳なくて、ますます――。
もう一度街を見下ろすと、祭りの灯りが滲んだようにぼやけて見えた。慌てて目を擦ると、指先に涙が滲んでいることに気付く。
「ふふ…最近、泣いてばかりね。泣いてる場合じゃないのに……」
強がって笑おうとするけれど、鏡に映る顔は子供のように寂しげで、その笑顔は歪んでいた。
窓を閉め、カーテンを引く。華やかな街の音は遠ざかり、再び静寂が部屋を満たす。
――けれど、このまま一人でじっとしていたら、寂しさに飲み込まれてしまう。
私の中で何かが変わろうとしていた。
今まで私は、いつも誰かの決めた場所で、言われた通りに生きてきた。
だけど、レザト様は私の決断を尊重してくれる人。
「私も……自分で歩き出さなきゃ」
そっとカーテンを開けると、秘石ランプの光が再び目に飛び込んできた。
今度はその光が、まるで私を招くように、温かく感じられる。
「少しだけ……」
自分に言い聞かせるように呟くと、私は静かに部屋を出た。
初めて自分だけの意志で、新しい一歩を踏み出すように。
最後までお読みくださりありがとうございます。
祭りはまだ始まったばかりです。
次回は別の視点から、リタルク・ルミナリアの夜を見ていきます!




