剣に託す覚悟 <レザト>
夜の帳が街を静かに包んでいた。
騎士団の部屋の窓から見下ろすと、リタクロスのあちこちで灯る秘石ランプが、地上に星を散りばめたように瞬いている。
祭りの準備は着々と進み、人々の笑顔と喧騒が、その光に照らされて揺れていた。
まるで祝祭の夢の中——無垢な期待が、あのランプのひとつひとつに込められている。
だが、その光の下には、確かに影がある。
魔獣が蠢き、死が近づいているのだ。
ノーマン。
あの男が、ただの無策で事を運ぶはずがない。
魔獣が街に出現することすら、計算のうち——自分たちだけは決して傷つかないよう、何かしらの術を講じているはずだ。
問題は、それが何か。
それさえ突き止められれば——
『確かに状況は不穏かもしれません。ですが、証拠なき疑念だけで街の祝祭を止めることはできません。それこそ、街全体の混乱を招くでしょう』
……カイの声が、脳裏で静かに反響する。
証拠——。
それがない今、ノーマンを断罪することは、己の名誉と街の安定の両方を危機に晒すことに他ならない。
加えて、あの紅の欠片が“輝崩化した秘石”であるという事実は、魔術院の極秘事項だ。
それを公にすれば、敵に回るのはノーマンどころの話ではない。
国家そのものの理不尽が、牙を剥くかもしれない。
そして……。
あの夜、瞳を震わせながら真実を口にしたエマの、あの覚悟の重さを。
彼女の誓いを、裏切るわけにはいかない。
だが、時間は……もう、ない。
傭兵や冒険者たちが街に流れ込み、治安は綻び始めている。
騎士団の騎士たちは日々の戦いと巡回で疲弊し、傷つき、崩れかけている。
市民たちは何も知らず、浮き立つようにランプの光に夢を託している。
だが、その光が地獄の扉を開いているかもしれないとも知らずに。
——このまま何もしなければ、リタクロスは沈む。
中止すれば混乱を招く。
糾弾すれば、証拠がないまま信頼を失う。
誰にも頼れない。誰も、この道を代わりに歩いてはくれない。
今、街を守れるのは——俺だけだ。
それが、この地を託された者の責務。
あとは、戦いの中で突破口を見つけるしかない。
誰よりも早く剣を抜き、誰よりも深く闇に踏み込むしかない。
——甘えは捨てろ。
考えるな、選ぶな。進め。
光があろうと、闇が濃かろうと、道はただひとつだ。
やるしかない。それだけだ。
誰もが“祈り”を捧げた祭りの前夜、レザトは剣に“覚悟”を託しました。
次回、いよいよ物語は《第七章》。
リタルク・ルミナリア当日、すべてが動き始めます!




