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ケモ耳紳士かと思いきや、激重感情拗らせた溺愛に蕩けそうです 〜獣人騎士団長との年の差婚姻譚〜  作者: 観世こより
第6.5章《リタルク・ルミナリア前夜譚》 それぞれの祈り、それぞれの夜
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狐の沈黙 <カイ>

ギルドの塔の最上階。

祭り前夜のリタクロスは、まるで光に酔ったような街だった。


窓の外に広がるランプの海。

それを見下ろしながら、オレは一杯の赤ワインを傾けていた。


「綺麗だと思いません? あの赤い光……」


声をかけたのは、私設傭兵団の隊長を名乗る男。

ノーマンからの“使い”だろう。


「綺麗ですねェ。まるで街が、熱病に浮かされた少女の瞳のような煌めきを放ってて」

「例えが詩人ですね。ですが、私たちの目的は……もっと実務的です」

「分かってますとも。あなた方の仕事が、どれほど精密かも。——けれど、“詩”の中で動いているのは、あなたたちではない」


オレは笑った。男は眉をひそめるが、特に言い返すことはしない。


テーブルの上には、巨大な秘石ランプの設計図。

祭り当日、ギルドの塔に取り付けられる“象徴”。


「あなた方は、『光の中で、誰が踊るか』まで計算済みなんでしょうねェ」

「ええ。それが“計画”というものですから」


男はそう答えると、設計図に目を落としたまま言った。


「狐のカイさん。あなたの手腕には、我々も期待しています。ギルドマスターにはなれない立場とはいえ……影の功績は、大きく評価される。この結果次第では……」

「ありがたいお言葉ですねェ。でも、ワタシはただのサブマスター。光の下には出ませんよ」


——たとえ、血の雨が降ると分かっていても、ね。

使いの男が去ったあと、オレは手元の短剣を磨きながら、小さく呟いた。


「……ノーマン、あなたは“光”を制したつもりかもしれませんが……」


窓の外、どこかでレザトもまた夜を見つめているのだろう。子供の頃から、アイツは正面からしか物事を見られない男だった。今もその癖は変わっていないはずだ。


「ははっ、一つの所に長くいるのも考えもんですねェ。しがらみは嫌いなんですが」


森を出た日のことを思い出す。あの時も、こんな風に高いところから景色を眺めながら決断したっけ。

そう呟いたとき、背後の細長い影に気づく。


「……報告は?」


背後の男が、静かに耳打ちした。


「動きました。騎士団、北西の民家区に向けて警戒態勢を強化。ルミナリア前夜に、再度の魔獣襲撃があると踏んだようです」

「ふぅん……それじゃあ、ワタシも少し動きますかねェ」


短剣を鞘に戻す。

手が少し震えていることに気づき、思わず苦笑した。


「……これは風のせい、ってことにしておきましょうか」


恐れているのか、それとも期待しているのか。自分でも判断がつかない。


狐は、決して“正義の剣”ではない。だが時に、正義よりも早く走る。


「このゲーム、そろそろ“裏の山札”を使ってもいい頃ですし」


影の男と視線が交わる。言葉は要らない。互いに動機は違えど、今は同じ舞台で踊る役者だ。

塔の上から見下ろしたランプの光の海は、相変わらず幻想的だった。

だがその下で、何かが確かに燃えている。


誰もが気づかぬふりをしている火種に——きっちり目を光らせておかないといけない。


策を張る者の“震え”に、どこか人間味が滲むカイの夜でした。

彼は正義ではない。けれど、必要な役を演じる者です。

次回、ついにレザト視点です! 全員の前夜が揃います。

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