理想は都市に、誓いは孤独に <イリアナ>
幕間第2話はイリアナ視点。
夢を捨て、現実と秩序に賭ける彼女の選択は、
「優しさ」では守れないものを知る者の、静かで冷たい決意です。
文官たちが立ち去った後、私は静かに執務室に立ち尽くしていた。
蝋燭の炎がわずかに揺れ、壁には私の長い影が揺らめいている。山積みの書類と地図が、この街の未来を形作る私の手腕を待っている。
祭りまで、あと一日。
都市全体が浮き足立ち、誰もが笑い、踊り、歌っている。
けれど、その下で幾つの警備計画が崩れ、どれだけの予算が火を噴いているか……誰も知らない。いや、知ろうとしない。
「……夢を見るのは、自由だわ」
窓の外、ギルドの塔に取り付けられた巨大な秘石ランプが視界に入る。
あれが灯されれば、この街は夜でも星のように輝く。
だがそれは光ではなく、制御された希望に過ぎない。
レザト……あなたには分からないでしょうね。
あなたは、剣で守ることに誇りを持っている。
でも私は、違う。
私はこの都市を「守られるもの」ではなく、「統べるもの」に変えたい。
都市は今、膨張し始めている。発展には必ず光と影がある。
この煌めく光の下で、どれだけの闇が蠢いているか、知らない私ではない。
——この街はもう、止まらないのよ。
秘石ランプに群がる商人たち、王族の影、そして──この街が持つ可能性への嫉妬と監視。
私は、王都で思い知った。
女であることが、どれだけ可能性を潰される烙印になるかを。
あの濁った男たちの目が、今、再びこの街に向けられている。
だったら、先に手を打つしかない。
この街が「統べるもの」として立つために。
誰にも手出しできないほどの、構造と秩序を築く。
「人間って、愚かね……何度、同じ過ちを繰り返せば気が済むのかしら」
その言葉が、思いのほか苦く響いた。
理想だけを信じて、現実に打ち砕かれた——かつての私自身の声に聞こえたから。
レザト、ルチカ。あなたたちは、優しい。
でも……優しさだけでは都市は動かない。
静かに、深く息を吐く。
この背中の書類たちは、“理想”ではなく“結果”を求めている。
だから私は、違う道を選ぶ。
たとえ、理解されなくても。たとえ「冷たい女」と呼ばれても。
愛されるより、恐れられる方が、街は守れることもあるのよ。
私は、机上の命令書を手に取った。
《民間防衛隊増強および特別警備権限付与に関する緊急令》
それは、混沌の中に秩序を打ち立てる、私の誓いであり——最初の一手だった。
次回は、ギルドの塔の上で笑う“狐”──カイの視点です!




