金の海の記憶 <ルチカ>
第6.5章《リタルク・ルミナリア前夜譚》、幕間編の始まりです。
本編の熱が高まる中、今回は“静かな夜”の物語。
まずはルチカ視点です。
遠くから、水音が聞こえる。
それは波の音とも違い、誰かが静かに呼吸するような、あたたかくて、懐かしい音。
目を開けると、私は金色に満ちた水面の上に立っていた。
空も、海も、すべてが金色に染まっている。まるで時が止まったような、永遠の一瞬を切り取ったような世界。風はなく、音もなく、ただ静寂だけが世界を満たしている。
ここは……どこ?
そう思ったとき、不意に胸の奥から、「声」が響いた。
『それは、願い? それとも……呪い?』
「……え?」
『きみが望んだもの。きみが差し出したもの。そのすべてが、この光の中にある』
水面がゆらぎ、足元にひとつの光が浮かび上がる。
それは、私が幼いころに見た“あの光”と、どこか似ていた。
私の中にある、何か。
私の想いと、誰かの記憶が、深いところで絡み合っている。
『守りたい? 救いたい? なら、選ばなきゃ。でも一つだけ——』
その瞬間、水面に映る自分の姿が変わる。
瞳が金に染まり、胸の奥で何かが脈打つのが見えた。
……これは、なに? 私の……中に?
言葉にする前に、意識が引き戻される。
私は、ベッドの上で目を覚ました。
窓の外、まだ夜明け前の空。遠くの空に光る、祭りの準備のランプ。
……夢?
レザト様の帰りを待つ間に、眠ってしまったらしい。
記憶を辿ろうとしても、いつもの夢と同じように、指の間から砂のようにこぼれ落ちていく。
けれど——
夢の中で感じた“あの感触”だけは、確かに胸の奥に残っている。
「レザト様……」
気づけば、その名を呟いていた。
声は空気に溶け、部屋に静けさだけが残る。
その静けさから逃げるように窓辺へ向かった。祭り前夜の熱気が窓越しからも伝わってくる。
この光の中、レザト様は、たくさんのものを背負いながら戦っている。
頬を伝う、淡い熱に気づいた。
それは想いの強さと、自分のふがいなさが混ざり合い、胸の奥から溢れてくる涙。
……寂しい。寂しくてたまらない。
一人でいることに慣れていたはずの私が、今は一人の夜に耐えられない。
レザト様の温もりを知ってしまったから。
触れてしまったから。
もう、元には戻れない。
強くなりたい——そう願った。
けれど今の私は、ただの子どもみたいに、すがりつきたくてたまらない。
ただ、そばにいたい。
それだけで、いい。それ以上は、何もいらない。
涙で滲んだ街の灯りが、金色に輝いて見えた。
その景色に、ふと、夢の中の光が重なった気がした。
次回は、イリアナの視点から語られる夜をお届けします!




