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4.静寂の中の記憶と新たな出発

時を同じくして、ルチカはレザト様とティータイム中です。

この章は視点の切り替えが多くややこしいかもしれませんが、お祭りに向けた各陣営の動きを描写したかったのでどうしてもあっちこっち移動しちゃうんですよね…。

「リタルク・ルミナリアってどんなお祭りなんですか?」


午後の書斎に、ハーブティーの芳醇な香りが優しく漂う。

レザト様と過ごすこの限られたお茶の時間は、まるでその香りのように穏やかで心安らぐひととき。


このお茶は、メイドのフェリシアと心を込めて淹れたもの。

ほのかに甘い香りに包まれて、思わず笑みがこぼれる。


「リタルク・ルミナリアは、リタルク石とリタクロスの発展を祝うお祭りです。街中がリタルク石を用いた秘石ランプの美しい光に包まれ、人々は歌や踊りを楽しむ。商人たちも最新の秘石ランプを展示したり、屋台を出すなど、とても賑やかですよ」


レザト様の説明を聞きながら、私は祭りの賑わいを想像した。

きっと、街中が幻想的な光に彩られる様子は、息をのむほど美しいのだろう。


「……ただ今は、騎士団が魔獣討伐に追われておりまして。祭りが平和に開催できるよう、こちらはお祭り気分ともいかず、気を引き締めないといけませんね」


レザト様の表情に一瞬、真剣さが滲む。

騎士団長、そして領主としての責任の重さがレザト様の肩に圧し掛かってるのが見えて、何だか胸が痛い。

少しでもレザト様の気持ちが晴れるよう、私もしっかりレザト様を支えないと……!

私も、心の中で自分の役割が何なのか改めて自覚する。


「レ、レザト様、会議のお時間です」


そんな中、書斎の扉がノックされ、扉越しに男性の声が聞こえた。


「ああ、エドウィン。入りなさい。ルチカ、彼をきちんと貴女に紹介するのは初めてでしたね。改めて、こちらは私の文官のエドウィン・リース。政務を支える頼もしい存在でしてね。彼も今回の祭りに同行してくれます」

「ルチ、ルチカ様。エドウィン・リースと申します。宜しくお願い致します」


エドウィさんンは、少し言葉を詰まらせながら、ぎこちなく頭を下げた。

長身でほっそりとした体躯、金縁の眼鏡に柔らかな栗色の髪を後ろで結んだ姿は、真面目な印象を受ける。


「エドウィンさん、よろしくお願いします」


私も微笑みを浮かべて、軽く会釈を返した。


「それでは、ルチカ。私は会議に出なければいけませんので……また夜に」


私にふわりと笑みを向けて、レザト様はエドウィンさんと共に書斎を後にした。


「フェリシア、私もちょっと出てくね」


私は二人の背中を見送りながら、フェリシアに声をかけた。

ふと、ある場所が脳裏をよぎる。


それは、この屋敷に初めて足を踏み入れた時、不思議な違和感を覚えた一室だった。

レザト様に尋ねてみると、それが私の亡き父の書斎だったことが判明し、自由に使って良いと言ってもらっていた。


『あなたのお父様……ヨハンの書斎は、生前のままに保存してあります。貴女が使うのなら、彼も本望でしょう』


レザト様の言葉を胸に、私はゆっくりとその部屋の扉を開け、中へと一歩を踏み出した。

鼻腔をくすぐる、埃の匂い。

まるで時が止まったかのような、静寂に包まれた空間。


お父様の面影を求めて、私は書棚に並ぶ分厚い本の背表紙に、そっと指を這わせる。

秘石に関する古文書、領地経営の指南書……多種多様な本が、ひしめき合うように並んでいる。

一冊ずつ丁寧に確かめていくことが、いつしか私の日課になっていた。


オーラム・マギカ。幻の万能の秘石。


それは本当に存在するの?

もし存在するのなら、お父様はそれについて何を知っていたのだろう。


脳裏に去来する謎は、まるで遠い過去からの呼びかけのように感じられた。

その答えを探し求めて、お父様の書斎を丹念に調べる日々。

けれど、未だにそれらしい手がかりは見つかっていない。


もしかしたら、私自身の記憶の中に、その鍵が隠されているのかもしれない。

でも、過去の記憶をすべて鮮明に思い出すことは、私にはできないでいる。

オーラム・マギカ。その言葉に、私の記憶は呼応しない。


「お父様……お母様……どうか、私を導いてください」


そっと呟いた言葉は、静寂の中にすっと溶け込んでいく。

その余韻に身を委ねるように、私はゆっくりと瞳を閉じた。


古い書物の香りと、窓から差し込む自然の気配が織りなす空気の中、過去と現在が交錯する。

お父様の遺した謎を解く鍵は、きっとこの書斎のどこかにある。

そう信じて、私は探索を続けることを心に誓うのだった。




そして、待ちに待った出発の日がやってきた。

レザト様、私、レオとエマさん、そしてエドウィンさんの5人が、馬車に身を委ねる。

リタクロスを目指して、馬車が静かに動き出した。


街道を進む馬車の小窓から、のどかな風景が流れていく。

緑豊かな野原、きらめく小川、時折見える農家の屋根。

平和な光景に、心が和んでいくのを感じる。


けれどそれもつかの間、点々と街道沿いに現れたのは植物に浸食された小屋や井戸。

捨て置かれたままの農機具。轍の先が藪に飲み込まれた跡。


この付近に昔、村でもあったのかしら……。

初めてシュヴァルツェルト領に向かう時にも見たけれど、人が消えた残骸を見ると何だか切ない気持ちになる。


「ねえ、母様~リタクロスまであとどんくらいなの? 俺、もう馬車の中、飽きちゃったよ」

「そうねえ、リタクロスまでもう半分は過ぎたから……時間にしたら、あと二時間くらいかしら」

「えー⁉ まだそんなに掛かるのぉ~⁉」


文句を垂れるレオを微笑ましく思いながら、視線をレザト様へ向ける。

レザト様は馬車に乗ってからずっと、エドウィンさんから手渡される書類を代わる代わる確認している。

馬車の移動の時間さえ、レザト様は休まる暇がない。

それだけ今回のリタルク・ルミナリアの視察は大事なものなんだろう。


なるべく邪魔にならないようにしないと……。

そんな中、ふと向かいから馬車とすれ違った。


一瞬、見覚えのある紋章が目に飛び込んできて、私は息を呑んだ。

あの豪華な馬車は、もしかしてローレンス家の……?


「ねえねえルチカ姉ちゃん! こっちの窓から大きな湖が見えるよ!」


レオに呼ばれ、慌てて視線を外した。

あの馬車はローレンス家のものに似ていたけれど........。

まさか、ね........。


胸に去来する不安を振り払うように、私は大きく息を吐いた。

今はレザト様と共に、リタクロスで過ごす日々のことだけを考えよう。


そう自分に言い聞かせ、私は再び窓の外に目をやった。

遠くに見える湖面が、キラキラと陽光を反射していた。


次回はまたジョシュア視点です!

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