3.ジョシュアの誤算④ <ジョシュア>
数日後、すっかり回復したトビアスを連れて俺はシェザハの家を訪れた。
街の一角、狭い裏通りに隠れるようにその家はあった。
「おや、トビアス君。すっかり元気になったようだね」
シェザハがトビアスに優しく声をかける。部屋は薬草や薬瓶で溢れ、その隙間を縫うようにしてシェザハの座る机に向かった。
「はい! シェザハさんのお薬のおかげです! ありがとうございます!」
トビアスが元気よく答える。
「僕はただの薬師に過ぎない。君の生命力が勝ったってことだよ。よく頑張ったね」
シェザハはトビアスの肩に手を置き、にこやかに微笑む。
「シェザハ、改めて礼を言う。今日はこの件の報酬について話をしに来たんだが……」
「報酬? 報酬ならもらったよ。貴重な症例についてじっくり観察する事が出来た。お陰で色々と今後の仕事にも参考になりそうだ」
シェザハは微笑みながら答える。
「俺は誇り高き貴族であり商人だ。しっかり借りを返させて欲しい」
「と、言っても僕はあまりお金に執着はなくてねえ……それにしても、トビアス君。道端の得体の知らない果実を食べるなんて、よっぽどお腹が空いていたのかい?」
シェザハが困ったように、話題を変えようとしてトビアスに話しかけた。
この男、何の欲もないのか? あれだけの経験と技術、こいつはただの薬師ではない。
そんな男に何も礼をせぬなど、ローレンス家の沽券に関わる。
悩む俺の横で、トビアスはシェザハの言葉に何やらうんうんと頭を唸らせている。
「うーん…まあ最悪、僕が死ぬだけだしいいかな〜って……」
「いや、全然だめだろ⁉ お前は本当に筋金入りの馬鹿だな!」
思わず突っ込みを入れる俺に、シェザハの笑い声が響く。
「あっはっはっ! いやあ、君のような冒険心溢れる人たちのお陰でこの分野の知見は広まってきたからね。そうだ、ドリュアスの涙の場所を教えてくれないか? 危険なものでもあるから僕で処分させてほしいんだ。僕への報酬はその道案内ってことで」
「……そんな事でいいのか? それなら、ローレンス家の馬車で明日にでも現地へ向かおう」
他に思いつく礼もなく、俺はシェザハの提案に応じることにした。
「おじじ様〜もどりました! ……あれ、お客様ですか?」
その時、開け放たれた扉の前から声が聞こえた。
俺たちが振り向くと、赤い頭巾を被った、トビアスと同じくらいの年頃の少女がいた。
浅黒い肌。頭巾から覗く長い耳。この子供は……。
突然現れた少女に戸惑いの視線を送る俺の耳に、シェザハのにこやかな声が響く。
「ああ、紹介するよ。この子はリュミセラ。僕の孫娘だよ」




