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2.決意と決心

とうとう訪れたレザト様との初夜。

緊張するルチカにレザトは……⁉ がんばれ!


夜風が窓から忍び込み、緊張に火照った肌を優しく撫でていく。

薄いカーテンを越えて月光が室内を優しく照らし出し、その光と静けさに包まれながら、私はレザト様の訪れを待っていた。


『せっかく旦那様を迎える初めての夜なんですから、もっと素敵なものにしましょう!!』


「は、初めての夜……」


メイドのフェリシアの言葉が頭の中で何度も反芻される。

その意味を考えるたびに、鼓動が速まり、恥ずかしさから逃げ出したい衝動にかられるのを必死でこらえる。


纏っているのは、フェリシアが用意してくれたもの。

いつもより肌の露出が多いようで、何だか落ち着かない。

繊細なレースやリボン、胸元の開き加減が気になって仕方がなかった。

そんな私の思考を遮るかのように、部屋のドアが開く音が響き渡った。


「ひゃあっ⁉」


驚きと恥ずかしさが入り混じり、情けない声が漏れてしまう。

咄嗟に、ベッドの中に潜り込んでしまった。


「ルチカ」


優しい声が私の名を呼ぶ。


「レ、レザト様……」


おそるおそる布団から顔を出すと、そこにはゆったりとしたガウンを着たレザト様が立っていた。

ガウンから覗く逞しい胸板に、思わず視線を反らしてしまう。


「ルチカ、貴女を不安にさせるつもりはありません。今夜はただ、貴女とゆっくり語らいたいのです。日々の忙しさの中、貴女とゆっくり話せる時間となると、夜……寝る前ぐらいしか時間が取れないものですから」


レザト様の言葉に心が和らぐのを感じて、私はゆっくりとベッドから出た。

その瞬間、レザト様が私をじっと見つめているのが分かった。


「へ、変ですよね、この恰好……いつもはもっとシンプルなものを着ているんですけど、フェリシアが何だか張り切っちゃって、この服を着てくれってせがまれて……」

「い、いえ! その…とてもよくお似合いですよ。つい、見惚れてしまいました。ベッドから降り、月光に揺らめくその姿…まるで月の女神が現れたかのようです」


レザト様の賛美の言葉に、私ははにかみながら答える。


「そ、そんな大げさですよ! でも、レザト様にも気に入ってもらえて嬉しいです…!」


私の言葉を聞いたレザト様は、何故か眼を見開いた後、自らの胸を数回叩き、大きく深呼吸をした。


「レザト様……?」


不思議がる私に、レザト様は穏やかな微笑みを向ける。


「ごほん! 何でも…何でもありませんよ。そちらに、伺ってもよろしいですか?」

「は、はいっ!どうぞ!」


レザト様がベッドの端に腰を下ろし、私も隣に静かに座った。

触れ合うほど近くに、彼の存在がある。


レザト様と触れ合ったのは、お互いの気持ちが通じ合ったあの時以来。

逞しい腕に抱かれた温もり、触れ合った唇の感触を思い出してしまって、私の心はさらに落ち着かなくなってしまった。


こんなに緊張しているのは、私だけなのかな……。

ちらりとレザト様を横目で見ると、端正な横顔が目に入る。

誰も寄せ付けない強さを持ちながら、優しさにも満ち溢れた彼。


きっとレザト様はこういう経験も豊富で、動じたりしないんだろう。

……レザト様は今までどんな恋をしてきたんだろう。

レザト様の昔の恋人の事を考えると、段々と胸が苦しくなってくる。


「ルチカ、どうしました?」


レザト様の優しい声が、私の悶々とした思考を遮った。


「い、いえ! 何でもありません…!」


慌てて答える私に、レザト様は柔らかな笑みを浮かべる。


「ルチカ、こんな静かに二人で話す時間を持ったのは、いつぶりでしょうね……。領主、そして団長としての仕事に追われ、なかなか時間を作ることができずに、申し訳なく思っています」

「そ、そんな風に謝らないでください! レザト様が日々、皆のために尽力されているからこそ、お忙しいのは当然のことです! 私だけのレザト様ではないのですから……」


私だけのレザト様ではない。


自分で口にしたその言葉に、胸の奥がずきりと疼く。

……私ときたら、まるで子供みたい。

レザト様の過去の恋も、彼の役割も……私があれこれ言える立場ではないというのに、その事ばかりが頭から離れない。


まるで、彼の全てを独占しなければ満足できないような、幼稚な我がままを抱えている自分に気づく。


「……貴女との婚約を果たし、今は仮初めの夫婦としての日々を過ごしていますが、貴女との結婚式のこと、ちゃんと考えたいですね。忙しさにかまけて、その大切な一歩を踏み出していなかったこと、反省しています。でも、いつか必ず…あなたと正式に夫婦として結ばれる日を迎えたいと思っています」

「け、結婚式ですか……」


王都で行われる貴族たちの豪華で華やかな結婚式を思い出す。

確かに素敵だけど、自分はささやかなもので構わない。そう思った私は、レザト様に言葉を紡ぐ。


「レザト様、私はささやかな式で構いません。レザト様と誓いを交わせるなら、それだけで十分ですから……」


するとレザト様は優しく微笑みながら、こう語りかけてくれた。


「ルチカ、貴女は本当に控え目で無欲ですね。私も大規模な式は望んでいませんが、領主としての立場上、ある程度の規模と格式を備えた式を挙げなくてはならないこともあります。政治的な意味合いも含めてね」


レザト様の言葉に、私は改めて自分の立ち位置を認識する。


「そういったこともおいおい貴女に教えていくつもりです。貴女にとって難しい場面に遭遇することもあるかもしれません。しかし……」


そう言ったレザト様は、真摯な眼差しで私を見つめた。


「私が全力で貴女を守ります。……共に、歩んで行きましょう」

「レザト様……」


レザト様の力強い言葉に、私の胸は熱くなる。

私はレザト様の妻になるんだ。それは、並大抵の覚悟では務まらないのかもしれない。

けれど、レザト様がこうして支えてくれるなら……私は怖くない。


そんな決心を胸に、夜の静けさを震わせるくらいの力強さで、すべての思いを込めてレザト様に語りかける。


「レザト様、私は覚悟ができています。あなたのそばで、ふさわしい妻になれるよう、精一杯努力します! 妻として、レザト様を守れるくらいに……!」


レザト様の瞳に、ふんわり優しい色が灯った気がした。


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