6.立ち上がる意志 <レザト>
ルチカが去った後、部屋は空虚な雰囲気に包まれた。その空虚感が私自身にも重くのしかかる。
ルチカには、顔の傷についての真実が露見してしまった。
いつかは自分の口からその事実を告げようと考えていたが、それが今日まで果たせなかった。
その理由は今、痛いほど明らかだ。私は恐れていた。真実を知った彼女が、私を拒絶し、私の元から去ってしまうのではないかという恐れがあった。
その証拠に、彼女は深く傷ついた表情で部屋を後にした。
「クソ……俺はあんな顔が見たかったんじゃ……」
ジョシュアは先ほどまでの勢いが失せ、沈んだ表情で床を見つめている。その様子を、ジョシュアの従者らしき少年が、片手に菓子を持って覗き込んでいる。
「……ジョシュア。敢えて言わせて頂く。その愛し方は間違っている。それでは彼女に君の気持ちは一生届かないだろう」
「なっ!? お、俺は……」
顔を上げた彼の顔は真っ赤に染まっていた。
どうやら、図星のようだ。
「レザト様~! レザト様こそルチカさんを早く追いかけないと!」
菓子を片手にもったまま、もう一方の空いた手で、少年が扉を指す。
「いや、私は……」
「何言ってんですか、も〜~! ルチカさんはレザト様に追いかけて欲しいと思って飛び出していったんですよ。領主様なのにそんな事も分からないんですか?」
「……」
この状況で私に進言するとは、この少年は肝が座っているのか単なる馬鹿なのか……。
だが、この少年の言ってる事は最もだ。
私も、自分自身とルチカとの関係に真摯に向き合うべき時が来ている。彼女を追いかけなければならない。
「少年、キミの名前は?」
「あ、自己紹介が遅れてすいません! トビアスって言います!」
「トビアスか。ありがとう。ジョシュア。君は良い従者を持ったな」
「……」
何も言わないジョシュアを後にして、私は部屋を出た。
彼らはまだ若く、これからも失敗や誤解は避けられないだろう。
しかし、大事なのはそこから立ち上がる意志だ。
私は……私はどうだ?
私は自分自身に問いかける。長い間、ルチカへの本当の感情を隠して生きてきたのではないか。その疑問に、自分自身で自嘲の笑みを浮かべた。
やっぱ人生経験豊富なレザト様の言葉は違いますね。トビアスは菓子を置け。




