5.対決 その②
「……ええ、本当です」
レザト様の言葉に、私は言葉を失った。
彼は何も付け加えず、ただ静かに瞳を閉じた。
「ほらな! 都合の悪い事は多く語らない! こいつも結局はノーマンと同じで、お前をただ利用することしか考えてないんだよ! 愚かなお前は見せかけだけの優しさに騙され、本質がまったく見えてない」
「ジョシュア、酷いよ……わざわざ、そんな事を言うために私に会いに来たの?」
せっかく王都から屋敷まで来て、言いたかった事はこれなの?
ジョシュアはどこまで私の事をいじめれば気が済むんだろう。
こんな事、知りたくなった。知りたくなかったよ……。
「違う! 俺はお前がッ……お前が…わざわざ間違えた道を進むのを正してやろうとしてやってるんだ」
そんなお節介なんていらない!
でかかった言葉をそのまま飲み込んだ。今喋ったら、感情のままに喚き散らしてしまいそうで、そんな姿をレザト様に見せたくなかった。
『私は、あなたを妻に迎えるつもりはありません』
レザト様が私に最初に告げた言葉。
そもそもこの婚約が仮のものだって事は、私だって頭では理解している。
でもジョシュアの言葉を聞く度に、レザト様への思いを捨てきれてない自分を嫌でも自覚してしまう。理屈ではどうしようもない想いが溢れてくるのを止められない。
「何より、お前はどう思うんだ? こんなヤツとこれからも一緒にやっていけるか? 今なら、まだ間に合う。俺と一緒にローレンス家に戻れ。母上には俺からとりなしてやる」
「私、私は……」
縋るようにレザト様を見つめる。彼は何も言わず、ただ無表情で私を見ている。
その視線に、私は絶望する。
「ルチカは私の婚約者だ」と嘘でもはっきり言ってほしかった。
私はその一言を待っていたのに。でも、レザト様は何も言わない。
その沈黙が私を苦しめる。
嘘でもなんでもいいから、私が必要だって言って……お願い…。
「俺と一緒に来い。ルチカ!!」
「ジョシュア……」
ジョシュアが私の名前を呼ぶ。
ジョシュアが私に向かってちゃんと名前を呼ぶなんて、子供の時以来かもしれない。
それだけ、はっきりと私を必要としているの?
「もういいの、私は……」
これ以上、何を言っていいのかわからなかった。
もう、この場にいることが耐えられない。
私はたまらず、その場を駆け出した。
背後で誰かの声が聞こえたような気がしたけれど、振り返ることなく走り続けた。
ジョシュア君、つくづく不器用な男ですね~~。不憫な子…。




