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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
99/114

04/02. にぎやかな緑草祭

 晴天。

 雲なんか、ただの一つもない。


 若草の香りを含んだ温かい湯気の香りが、俺の鼻をくすぐる。


 聞こえてくるのは、村のみんなの笑い声。

 丸太を叩く、リズミカルな音も響いていた。


 緑草祭、待ちに待ったお祭りの日。


「ほら、野草の麦粥むぎがゆだよ、たんとお食べ」

「塩漬け、スープ、蒸しケーキ……あぁ、配るの面倒だから、好きなの持っていきな」

「野草の煮出し紅茶もあるよ。冷やしたのがあっち、温かいのがこっちだからね」


 元気な女性たちが、明るく呼びかけている。


 村の広場は、ナコタの全員が集まっているんじゃないかってくらいの大にぎわい。


「草の味だけど、この麦粥うまっ」

「スープは……僕には少し苦いかも」

「蒸しケーキはおいしいよ。花の蜜が入っているのかな? ちょっと甘いんだ」


 子供たちは、彼らの母親や近所の女性たちが作ってくれた料理を、それぞれに食べている。

 中には口に合わないものもあるみたいだけど、おおむね好評らしい。


「いやぁ、日の高いうちから飲む酒はたまらん」

「祭りの醍醐味だいごみだよな、はっはっは」

「今日のために、去年から作り込んでおいたたるを開けたんだ。みんなで空にしてやろうぜ」


 まだ午前中だというのに、村の男性たちは、右も左もほろ酔い顔。


 中でも盛り上がっちゃってるのが、


「いい酒だぜ、なははははっ」


 もはや、長年この村で暮らしていた――という雰囲気すら出しているイェルクさんだ。


 ウチに住み着くようになってから数日。

 まったく出て行く様子のないまま、気づけば緑草祭当日になっていて。


「イェルクさん、今日は夜まで逃がしませんよ」

「言われなくとも、潰れるまでお付き合いしますよ、なははははっ」


 村の男性と、楽しそうに酒をみ交わすイェルクさん。


 あの夜から、俺は彼に、深く話を切り込めないままでいる。

 向こうも向こうで、特に何も言ってこない。

 本当はコーソ村まで案内させたいんだろうが、少なくとも今日まで、それを訴えてくることはなかった。


 俺は、あの人がわからない。

 何を考えているのか、推し量ることさえ難しい。


「最高、最高、なははははっ」


 あの陽気さの裏に、いったいどんな思惑おもわくを隠して――。


「カッタ、はい」


 リリウが、俺に木製のコップを差し出してくる。

 中身は、冷えた野草の紅茶みたいだ。

 さっきまで、村の女性たちと料理を作っていたはずだけど、どうやら一段落ついたらしい。


「ありがとう」


 お礼を言いながら受け取り、そのまま一口。

 独特の香りが、鼻へ抜けた。


「今、ちょっと怖い顔してたよ」

「ん、そうか?」


 イェルクさんのことを考えていたからだろうか。

 そういうつもりはなかったんだけどな。


「お祭りなんだから、もっと楽しそうにしないと」


 リリウが、周囲を見渡しながら言う。


「カッタがそんなんだと、ナコタのみんなもつまらなくなっちゃう」


 すると、


「そうよ、あなたも食べなさい」


 両手に蒸しケーキを持ったフィンネが、ふてぶてしく俺のとなりへ。


「今日の料理の材料、私たちが採ってきた野草が大半なんだから、食べないと損よ――ぱくっ、もぐもぐ」

「お前、野草料理は嫌なんじゃなかったのか?」


 俺が作ったものは別だと言ってくれたけど、そもそも好みではなかったはずだ。

 言わずもがな、がっつり入ってるんだぞ、その蒸しケーキには。


「これは甘いからいいのよ。コーソ村のジュースほどじゃないけどね。だから食べるの。甘いものは正義なのよ――ぱくっ、もぐもぐ」


 ……食い意地。

 細身なのに、けっこう食べるんだよな、こいつ。

 まぁ、喜んでいるなら何よりだ。


「牧師さま」

「カッタくん」


 アミカちゃんとマルセラ姉さんが、村の奥の方から現れる。


「おつかれさま、アミカちゃん、姉さん」


 二人は教会堂で、本番の準備をしていたんだ。

 もちろん、今日の午後に披露する子供たちの劇のね。


「確認はできた?」

「はい」

「完璧だよ」


 尋ねた俺に、二人がうなずく。


 今日の劇の脚本は、以前に俺も目を通した。

 だから、物語の大まかな流れは、もちろん把握できている。

 けれどアミカちゃんは、細かい部分を必要に応じて修正していたみたいなんだ。

 そういうわけで、本番の演出については、俺も観てのお楽しみってわけ。


 一足早く、子供たちは広場に戻ってきていた。

 だからきっと、最終チェックも無事に済んだってことなんだろう。

 朝が弱い姉さんを無理やりに起こしたおかげで、アミカちゃんにも迷惑をかけなかったし、よかったよかった。


 俺は、中央に建つ丸太組みの舞台に視線を移す。

 大道具や小道具も並べられ、古い時代の風景ってやつを、それとなく表現できている。

 十分立派なステージが、そこにはあった。


 これは当然、村の男性陣の尽力が大きい。

 微力ながら俺も手伝った。


 でも、一番頑張ってくれたのは、やっぱり彼らかもしれない。


「ギィ」

「ギギィ」

「ギィ、ギィ」


 舞台から降りてくる三体のマサンたち。

 今の今まで、アミカちゃんとマルセラ姉さんとは別の部分の確認をしてくれていたんだ。


「はいはい、ごくろうさま――ぱくっ、もぐもぐ」


 そんな働き者の使い魔に、片手間で応じるフィンネ。

 言うまでもなく、術者は彼女だ。


「あとはあなたたちも、好きなものを食べて楽しみなさい。蒸しケーキ、おいしいわよ」

「「「ギィ」」」


 相変わらず健気けなげなんだよなぁ、あいつら――ってか、使い魔も食事できるんだな。

 うんうん、楽しんでくれ。

 ぞんぶんに楽しんでくれ。


 解放されたように散っていくマサンたちを、俺が微笑ましくながめていると、


「いよいよだね、カッタくん」

「ずっと期待してたのよ」


 クレマンスさんとハミーヌさんが、夫婦仲良く声をかけてきてくれたんだ。


「今日のメインは、何といっても子供たちの劇だからな」

「村のみんな、すごく楽しみにしているわ」


 二人はそれぞれ、舞台や衣装作りに協力してくれた。

 発案者として、本当に感謝している。


「もちろん、素晴らしいものになると思いますよ」


 俺が夫妻に伝えると、


「喜んでもらえるように、子供たちは今日まで頑張りましたから」

「きっと、ナコタのみんなの心に残る劇を、子供たちが披露してくれますよ」


 アミカちゃんとマルセラ姉さんが続いた。


「うん」

「ええ」


 クレマンス夫妻は、舞台の成功を確信しているようにうなずいた。


 そこで、


「でも、劇だけじゃないよ」


 リリウが、森の方に向かって言う。


「今日はナコタに、コーソ村からお客さんが来る。私たちの、新しい友だちがね」


 そう。


 これからここに、ウダロが来る。


 クレマンスさんにとって、思い出の相手――その息子である彼が、今日、ナコタ村に。


「俺の昔話を、彼に伝えるつもりだよ」

「彼のお父さんと幼い頃に出会った、あの日のことね。ふふっ、何て言うかしらね、彼」


 クレマンス夫妻は、ウダロと顔を合わせることにもまた、大いに期待しているみたい。


「楽しんでくれるといいよね、カッタ」

「ああ」


 俺はリリウに、強く答える。


 さて、ウダロを迎えるんだ。

 俺も楽しまないとな。


 今日は、緑草祭。


 そして、近くて遠かった友だちが、初めて村を訪ねてきてくれる、かけがえのない一日――。

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