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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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03/10. 幻の魔力(4)

「その厄介な聖善なる魔力セレイントを、仲間と協力したとはいえ、お前は実際に発動させたと?」

「……信じられませんよね、やっぱり」


 確認してきたイェルクさんに、俺は小さく返した


 普通に考えれば、十代の若い牧師が聖善なる魔力セレイントだなんて、戯れ言だと笑われるくらいの話。

 俺だって、自分のことじゃなければ本気になんてしない。

 魔法の玄人くろうとであればあるほど、受け入れることなんてできないはずだ。


 でも、魔法のプロフェッショナルであるはずのイェルクさんは、


「お前、すげーじゃんか」


 どこかうらやましそうに答えた。


「いい経験したな、おい」


 予想外にも彼は、興味深そうに目を輝かせている。


「……し、信じたんですか、俺の話?」

「何だよ、うそなのか?」

「うそじゃないですけど……」


 言っといてなんだけど、こっちが困るくらいの反応。

 軽いノリながら、自分の思惑を悟らせない用心深さがある人なのに、まさか、こうもすんなり?

 ちゃんと聞いていたのか、逆に不安になった。


「お前を信じるに足る理由は三つ」


 そんな俺の内心を見透かしたように、イェルクさんが言う。


「一つ。お前が放ったという魔法が、聖善なる魔力セレイントを宿した魔法の火球フレイツボールだったということ。個別呪文が存在しない聖善なる魔力セレイントが、具体的な魔法として機能するためには、付加属性として――つまり理論上、何か別の魔力の呪文に上乗せする形でしか発動しないと考えるのが素直だ」


 まるで魔法を教える教師のように、イェルクさんは流暢りゅうちょうだ。


聖善なる魔力セレイントそれ自体を源とした魔法を使ったというなら眉唾まゆつばだが、火の魔力フレイツ聖善なる魔力セレイントを加えた魔法だというなら、あえて否定する部分はない」


 なるほど、さすがは先輩牧師。

 俺の方が納得させられてしまう。


「二つ目はイープノスの存在。お前の姉が聖剣士で、その武器である聖剣が力を貸してくれたというなら、聖善なる魔力セレイントの魔法を使えたとしても不思議じゃない。具体的には推測の域を出ていないが、聖剣は聖なる魔力――すなわち聖善なる魔力セレイントが、そのエネルギーの核である可能性が高い。村のために立ち上がった少年牧師に、自らの魔力を与えることだってあるだろう」


 確かに、イープノスの助力は大きな要因だと思う。

 あの瞬間、俺は聖剣のエネルギーを感じた。

 あの剣が味方してくれたのは疑いようのない事実だ。


「最後は、お前が倒した相手が、あのケルギジェだったという点だ」


 力を込めたような目で、彼は俺を見た。


「敵は、この国を大きく乱した魔族。仮にお前が優秀な牧師だったとしても、そうそう勝てるとは思えない。この村が平穏無事に祭りの準備をしている現状から考えれば、聖善なる魔力セレイントを宿した魔法の一発や二発くらい出てないとおかしいからな」


 俺自身ですら半信半疑な部分もあった、あの瞬間の出来事。


 なのにイェルクさんは、理路整然りろせいぜんとした流れで、それが信じられる事実だったと思える理由を、あっさりと述べてくれた。


「次はもうないかもしれないが、お前は確かに、聖善なる魔力セレイントを使った――俺は、それを信じられるぜ」


 薄明かりの中、イェルクさんは微笑んでいた。

 けれどそれは、どこか空虚くうきょな印象で。


聖善なる魔力セレイントの魔法くらい、まったくたいした話じゃない……信じられないことなんて、この世の中には他にも、腐るほどあるんだからな」


 彼の輪郭りんかくが、急にあいまいになる。

 夜がもたらした暗闇の中に、その全身が消えてしまうほどに。


 この人は、何かを隠している。

 簡単には教えてくれそうにない何かを、うすかわいた表情の奥に。


「……ん? 何だか、ずいぶん話し込んじゃったな」


 思い出したように、イェルクさんが言う。


「もういいだろ、出てけ出てけ。酒がないなら、今日はさっさと寝るだけだ」


 追い払うように手を動かしながら、イェルクさんはベッドに倒れた。

 もう、こちらを見てもいない。


「……おやすみなさい」


 礼儀として、一応一言。

 そのまま俺は、彼にあてがった部屋をあとにした。

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