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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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03/08. 幻の魔力(2)

 外堀そとぼりめたところで、俺は話の核心に入る。


「教えてください。どうしてあなたは、キルムーリたちの集落へ行こうとしているんですか?」


 イェルクさんが、コーソ村を探していた旅人だということは確定した。

 でも、それはなぜ?


 彼は、キルムーリたちを害する存在ではない――ここまでの流れからして、そう判断していいだろう。


 でも、他の種族との交流を避ける者たちの集落に、そうとわかった上で訪れようとしている以上、特別な理由があるに違いない。

 村長として、二人の子供の父親として、カデフさんは最近の状況を心配していた。

 彼を安心させるためにも、しっかりと把握しておきたいんだ。


 けれど、イェルクさんの答えは、


「悪いが、それは言えない」


 俺の期待を大きく裏切るものだった。


「お前に、それを伝える義理はない」

「……昼間のお返しのつもりですか? 俺が、姉さんが聖剣士だってことを言わなかったから、その義理はないと伝えたから、それで――」

「勘違いするな、そんな子供みたいなことはしないさ」


 俺の言葉をさえぎって、イェルクさんが続ける。


「正直なところ、俺はお前に、それとなく話をしようと考えていたんだ。タイミングをみて、キルムーリたちの集落のことを聞き出すつもりだったのさ。あそこは、外部との接触を拒む。どういうわけか、正確な場所も特定できない。村の者か、あるいはその関係者に案内してもらうのが一番てっとり早いからな」

「それは、俺がウダロといっしょに、あの場にいたからですか?」

「ウダロ……あの少年キルムーリか? そうだ。そのウダロといっしょに森の中へ消えていくお前を見たから、俺はお前と接触することを決めた。人間で、魔法が使えて、ダークエルフの少女とつるんでいる相手――一番近い人間の集落がここだったから、探すのに手間はかからなかったよ。とはいえ、もう少し時間をかけて切り出す予定だったけどな」


 じゃあイェルクさんは、俺の仲介でコーソ村を訪れるために、ここへ。


「いい機会だ、面倒がはぶける――カッタ、俺をキルムーリの集落へ連れていけ」


 それらしく隠すこともなく、彼はストレートに要求してきた。


「できませんよ、そんなの。あの村のキルムーリは、他の種族との関わりを、基本的には望んでいません。なぜ彼らの集落に行きたいのか――その理由も答えてくれないあなたを案内するなんて、それこそ俺に、その義理はありません」

「教えたら、連れていってくれるのか?」


げ足を取らないでください。言うつもりはないんですよね、イェルクさん?」

「俺は、魔族に囲まれていたお前を助けたんだぞ。命の恩人だ」

「恩着せがましいのは性に合わないと言ったのは、いったいどこの誰ですか?」


 話は平行線で、まとまる気配もない。


「「…………」」


 しばらく沈黙の時間が流れた。

 本題に入るまでは早かったけど、結局のところ、俺は何も聞き出せてはいない。


「あぁーっ。いい、いい、もういいや」


 我慢できなくなったのか、イェルクさんはあきらめたように、両手を広げてベッドに寝ころぶ。


「お前、何か頑固そうだし、今日は終わりだ、この話」


 折れたのか、折れてくれたのか。

 とりあえず今夜、先にさじを投げたのはイェルクさんの方だった。

 いい加減、もう出ていけ――そう言いたいのかもしれない。


 まぁ俺としても、ここに残る理由はない。

 何か話すとしても、明日以降だ。


 見ているかどうかはわからないけど、頭を下げて廊下へ――と思った矢先、


「お前、ケルギジェを倒したんだってな」


 イェルクさんが、つぶやくように投げかけてきた。


「ケルギジェを倒したのはマルセラ姉さんですよ。言っておきますが、本物の聖剣士ですからね、俺の姉さんは」


 ケルギジェを討ったのは、聖剣に選ばれた聖剣士――これは、この国の誰もが知る事実だ。


「そうじゃない。チノセパリックの『ケルギジェ』じゃなくて、その本体の方さ」

「……村の人から聞いたんですか?」


 人の口に戸は立てられないけど、あまり大げさな話にしてもらいたくはないな。

 ただ俺は、ナコタ村の牧師として、何より姉さんを救いたい一心で、がむしゃらに戦っただけなんだから。


「ケルギジェ――チノセパリックの方な。そいつは今、王国管理下の牢屋にぶち込まれているわけだが、どういうわけか、つじつまの合わないことを口走っているらしい。お前の姉に敗れる前の記憶が、すべてあいまいなんだとか」

「ずいぶん詳しいんですね。もしかして、王都や大都市の教会堂に在籍していたんですか?」

「さぁな」

「……まさか、現職で本部の牧師とか?」


 だとすればこの人、実はエリート聖職者――という可能性も出てくる。


「はははっ。俺が、そんなたいそうな牧師に見えるかよ。ああいうところの牧師サマはな、偉そうにするのが仕事だ。俺には、それこそ性に合わん」


 それは、何とも含みのある答えだった。


「とはいえ、これでもお前より長く聖職者をやっているんだ。いろいろ見聞きはする……見たくないものも、聞きたくないこともな」


 淡い灯りに照らされたイェルクさんの横顔が、鋭い冷たさを帯びる。

 鼻の下を伸ばしていた午後の彼とは、似ても似つかないほどに。


「どういう意味ですか?」

「俺の話はいい、単なる中年のグチだ。聞き流せ、聞き流せ」


 雰囲気をゆるめたイェルクさんは、自虐的な軽口で、俺をあしらった。

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